序章:[ 輪禍 ] 第一章:[          10 11 12 13 14 15 16 ]
第二章:[   ]



「早すぎたよな、やっぱ」

 エレベーター前に辿り着いたものの、当たり前だが輝一がやって来る気配は一向になかった。
 クソ、あんのムカつく風紀委員長さえ来なかったらなぁ。今頃、部屋でのーんびり待ってたはずだったのに。

「……そうでもないか」

 何しろ、暇を潰すにはテレビくらいしか無い非常にツマラナイ部屋だ。今の時間、精々ドラマの再放送くらいしかやってないだろうし。てか二十年のドラマってどんなん?
 俺のいる時代でも頻繁に活動してなきゃ、「この人は今」状態だろう。
 映画のDVDの一枚でも置いときゃいーのに。多少古くても洋画なら観れる。邦画は微妙だけど。海外のサスペンスとかアクション系の派手な映画が好きなせいもあるかも知れない。
 夏休み中に今ハマってるドラマのシーズン2、制覇したかったんだけどな。
 タイムスリップとか状況は当に海外のそれっぽいけどヒロインいないしね。しかも、舞台が女っ気無しの男子校。視聴率とれなくて、直ぐ打ち切りになりそうだ。
 そんな風に悠長に構えたら、突如俺の足元に向けて何かが叩きつけられた。

「うわっ!」

 間一髪なところで、避けたが、ソレは床に落ちた衝撃で割れてしまった。
 床一面に敷いてあったカーペットがクッションになったおかげか、粉々にはならなかったが。破片を見るからに、壷かなんかだったんだろう。何でこんなモン飛んでくんだよ、おいっ。

「あぶねーなぁ……誰だよ一体」

 壷が独りでに飛ぶ訳がない。当然こんなモンを投げた馬鹿野郎がいる。
 注意……してもいいんだよな? 偽者とはいえ一応生徒会長なんだし。そんぐらいの権限あるはず。

「いや、まてよ」

 廊下の角を超えようとして、踏みとどまる。

 いきなり帰ってきた分際でとやかく言える立場ではないか? それに話し合いに応じない素行の悪い集団だったら返り討ちに遭いそうだ。それだけはゴメンだ。自慢じゃないが、腕っ節に自信はまるでない。拳を使った喧嘩なんて、小六の給食のデザートを巡るジャンケン以降してないわ、俺。
 一先ずこっそり、曲がり角から様子をみることにした。
 見たところ、二人しかいないようだ。一方は大人しそうな少女。しかしもう片方はデカイ図体の、頭がキャラメル色のソフトモヒカン野郎だった。180以上ある大人版キイチと身長大してかわらないから、コイツもそんくらいあるんだろう。
 ひょっとしたらコイツらカップルで、俺は痴話喧嘩のとばっちりを食らったんだろーか。勘弁しろよ。直撃したら足、ぱっくりイッてから。流血モンだったから。

「うわ……!」

 暫くの間、二人の行動を窺っていたが、急いで身を引っ込める。キャラメル頭の男が突然、女の子に濃厚なちゅーをかましやがったのだ。

「いいい、いきなりなにしてんだあの野郎っ!」

 しかもちょっと……俺の方見て笑わなかったか!
 やべぇー、気付かれた? どうしょう。この状況で、今更注意する度胸持ち合わせてねぇーよ。考えてみれば、誰もいない場所にカップルが二人っきり。十分に有り得る? 行動だった。あーもー本当どうしょう。確実に、覗き見してた変態さん的なポジションじゃねーか俺。
 恥ずかしさと悔しさのあまり、その場にしゃがみこんでしまうと、パァンと聞き覚えのある音が廊下に響き渡る。

「えっ」

 見ると、男の頬が腫れていた。しかし、女の子はそれ以上に目を真っ赤に泣き腫らしていたのだ。
 え。俺が目を離した隙に何があったの。

「はぐらかさないでよ! 何で一年の……と寝たかって聞いてんのっ!」

 どうやら、喧嘩ではなくド修羅場真っ最中だったようだ。最悪なタイミングで来ちゃったんですね、俺。
 あの、廊下中に内容ダダ漏れですよお二人さん。そんなことお部屋の中でじっくり話し合いましょうよ。あと、ホームルーム中じゃないの君ら。

「ハァ? ナニソレ。言いがかりは止してくんね?」
「惚けないで! 昨日の三限に二人で消えたって、校内中噂になってんだから!」

 うーわー。そりゃ言い逃れ出来ないがな。

「あー、もーいい。 お前の代わりなんて、腐るほどいるし」

 男は女の子を軽く突き飛ばし、部屋に入ると乱暴に扉を閉めた。

「ちょっと待ってよ! ひびきっ、響っ! 」

 女の子はドアノブを回すが、開かない。どうやら、チェーンがかかっているようだ。

「うわ、何アイツ。最低……」

 お前が全部悪いくせに彼女になんてこと言うんだよ。

「だ、大丈……」

 小刻みに肩を震わせる女の子にいてもたってもいられなくなり、話しかけようとしたが、

「この、──野郎! ざけんな! 死ねっ!」

 放送禁止用語を吐き捨て、折りたたみ式の携帯を取り出すと、逆方向に捻じ曲げる。変形を遂げたそれをドアに投げつけると、もの凄い形相でこちらに向かってきた。

「何見てんだよ! どけよ、邪魔っ!」
「す、すんません」

 道をあけると、女はエレベーターに乗り込んでいった。

「お、おっかねぇえ」

 なんだよあの女の激変振り。可愛い顔して詐欺だろ。おい。
 そして濃い。中、高生にして内容が濃いぞ。
 俺の高校にも、三股かけてた馬鹿野郎の背中にドロップキックかまして教卓ひっくり返した女子はいたけど……あれ。
 俺の高校と大して変わんない?
 恋愛に時代とか、身分とか関係ないのか?

「んん?」

 ちょっと待て此処、まだ男子校じゃん。合併してないから、女子いなくない?
 ってことはさっきドアに携帯投げつけていったハスキーボイスな彼女さんは女の子じゃなくて……

「おおぉ、男ぉおっ?」

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