要望通りに講堂に戻ってやると、照明が落とされ、左右から一斉にスポットライトを浴びせられた。 「いっ?」
おいおいおい。眩しいっつーの。何の演出だ。 眩しいのを我慢しつつ目を凝らして、光の出所に視線をやる。 すると、二階席の一番上に紅色の腕章を付けている妙な一団が居ることに気付いてしまった。 こんなふざけたことやんのは、上小路と一部の馬鹿だけだと思っていたが、どうやら俺の認識が甘かったらしい。 目を細めながら、前を見据えると、マイクを持った上小路が一人で待ち構えていた。 二階の一団が付けている物と同一と思しき「風紀」の二文字が、刺繍された腕章を身に付けて。
マジかよ。これ、風紀委員総ぐるみだったの? 勘弁してくれよ。ホント。アイツらン中、まともな思考回路を持った人、一人もいないの?
教職員の方々はと言うと、一階席の隅っこから恐々と、こちらを見守っているだけだし。 どうやら、上小路ウィズ風紀委員会の、このパフォーマンスを止める気は毛頭ないらしい。 ポーズでもいいからさぁ。責めて席から立っておきましょうよ。先生方。
「やっとお出座しですか」
上小路は態とらしく長溜息を吐くと、
「待ちくたびれましたよ」
右手を軽く上げて、周囲に合図を下す。 たったそれだけのことで、信者達は借りてきた猫のように大人しくなった。 それでも、しっかり俺にガンを飛ばすことだけは止めない。 いや、猫なんて可愛いもんじゃないな。きっと、このペットは主人以外の者が無闇に手を近づければ、指ごと噛み千切るだろう。コイツら全員、上小路の命令のみに忠実に従う「犬」みたいだ。
「はっきり言わさせて貰いますけどね、私は貴方が碧羅学園の生徒会長に相応しいとは到底思えません」
犬を宥めた上小路は、初っぱなから厭味を吐きまくり、そのまま俺の方に歩み寄ってきた。
「生徒会長という学園で最も重大なポストに就きながら、姉妹校との合同会議が近いにも関わらず、職務放棄……いくら事故で意識を無くしてたとはいえ、連絡のひとつ位は入れられたんじゃありませんか?」 「……」 「昔からね、無責任なんですよ。貴方は!」
深い憎しみが込もった声で、一瞬の口出しも無用とばかりにまくし立てられる。 昔からとか、そんなこと言われても。俺、お前に会ったの、ついさっきだし。 つーか、誰よりも先に、わざわざ部屋まで来て、文句垂れにきた事といい、コイツが生徒会長を必要以上に咎めんのって……風紀委員会の立場云々じゃなくて、単なる「東久世歩」個人に対する私怨も含まれてるんじゃ?
「これ以上の不履行は風紀委員会代表として、見過ごす訳にはいきません。東久世会長、」
互いに反目し合う中、急に目の前にビジっと人差し指を突き付けられたかと思えば、
「本日付で貴方をリコールし、碧羅学園の汚点とも言える生徒会の廃止を要求します」
そう、声高々に宣言された。
「わぁっ!」 「上小路様!」 「素敵です。委員長」 「キャーっ」
その瞬間、再び会場内が沸き返した。 つーか最後の「キャー」って。野郎が野郎相手に「キャー」は可笑しいだろう。流石に。
「みんな、ありがとう」
得意気満面な顔をして、信者達にどっかのアイドル張りに愛想を振り撒く上小路。 鳴り止まない拍手。歓声。 えー、ちょっと、いつまで続くのそれ。 正直これ以上、上小路のファンサービスを見せつけられ続けるのはウンザリだった。
「悪い。借りるぞ」
交流会を強制終了させるべく、奴の手からマイクを抜き取った。
「っ、返せ! まだ話は終ってないッ」
期待通り、奪って直ぐに上小路はマイクに飛びかかる勢いで向かってきた。
「そうだったのか? なら、返す」
スイッチを切ると、上小路の眼前に差し出す。
「取れよ」 「は?」
奴にしか聞こえないくらいの小声で、マイクを受け取るように促した。
「取らないのか?」 躊躇する上小路を挑発するように、もう一度言う。 すると、おずおずとマイクに向けて手を伸ばしだした。
「!」
だが、勿論簡単に返してやるつもりなんか、更々ない。
「随分と、長談義なんだな」 と馬鹿にするように耳うちすれば、怒ったのか、マイクを突き返してきた。
「要らないのか?」 上小路は何も答えない。ただ黙って、持ち前の三白眼で、射殺さんばかりに、俺を睨み付けている。
「なら、このまま使わせて貰うぞ」
発言権は、ぶんどってやったんだ。こっからが反撃開始だ。
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