「その、要約して説明しますと、全校生徒間で派閥争いといいますか……生徒会と風紀委員会、それぞれを支持する生徒同士で対立が起きてしまったんです」 「え」 「最初の頃はまだ、双方とも会えば口喧嘩する程度で済んでいたんですが……この半年で授業や部活にも影響を及ぼすほどになってしまって」 「マジかよ」
派閥争いって、学生の分際で何をやってんだと思ったけど。ナニソレ、そんなに酷いの?
「一ヵ月前の乱闘騒ぎに巻き込まれた生徒が中等部に六人、高等部に三人、軽症ですが怪我人も出ています。騒ぎを止めようとした高等部の教員も、頭を打って病院に運ばれました……幸い大事には至らなかったんですけど」 「ていうかよ、その騒ぎ起こした奴らって、どうなったんだ」
会場が煩いので、輝一の耳元に顔を近付けて尋ねると、
「全員、今は停学中です」 と返され、渋い顔になる。
教師怪我させたっつーのに停学で済むんかーい。やっぱ私学だし、ドラマみたいに、そーゆーとこに金が動いてんのか。 親が金積んで、息子の悪事を揉み消しとか。うわぁ。
「生徒会室も一度、風紀委員支持派の生徒によって、荒らされてしまいまして……それが発端で、こちら側を支持する生徒達も応戦するようになってしまったんです」
成る程。生徒会を支持している生徒は元々は穏便派だったってわけか。まぁ、みーんな金持ちのボンボンって言ったって、多感なお年頃だしね。しつこく煽れりゃあ、頭にも来るわな。 あンのヤクザ顔の取り巻きだもんな。相当陰険な嫌がらせをしたに違いない。集団リンチとか、恐喝とか? 類は友を呼ぶって言うしなぁ。
「今年度の生徒会と風紀委員会は歴代を凌ぐ程、生徒達から支持を得ています。その崇拝振りは、最早アイドルを通り越して、神がかり的存在として認識していると言っても過言ではありません。……双方のリーダーが揃った今、今より更に荒れる可能性が高いです」 「神って」
ちょっと大袈裟過ぎじゃねーの。 思わず呆れたが、先程から一向に会場内の歓声が止まないからして、強ち間違ってはいないのかもしれない。 しっかし、うっさいわー。何とかなんないのコレ。マイク入ってるし、余計響くわ。 煩わしげにスピーカーを見やると、
「東久世歩っ!」
唐突に、マイクを通して、仮の名前を呼ばれた。
「聞こえてるんでしょう? いつまでも奥に引っ込んでないで、さっさと戻ってきたらどうです」
いつの間にか、上小路の野郎からお呼び出しをかけられていたらしい。
「そーだァ、さっさと戻ってこーい」 「怖じ気づいて顔も出せないんですかァ?」 「無責任で臆病者かよ。救いようがねぇな」
野郎の後に続いて、嘲笑混じりの熱烈なラブコールがかかる。
戻れ! 戻れ! 戻れ!
ウゼェ。手拍子まで付け始めやがった。
「だ、駄目ですよ、会長。挑発に乗ったら」 「いや、分かってるんだけどさぁ」
外野もとい、上小路の信者達がどうにも煩過ぎる。
心配そうに見つめる輝一に、何も言わずに笑顔だけ返す。 ごめん。 心の中でそう一言詫びると。
「会長!」
引き止めようとした輝一の手をすり抜けていた。
例え俺が他人の成り代わりだろうが。言われ放しじゃあ、男の沽券に拘わる。 輝一が止めたのは、向かっていっても、旗色が悪い状況に陥ることが目に見えているからだろう。 劣勢? 上等じゃねぇか。そんなもん覆してやるよ。 アイツにだけは、負けてたまるか。 そう意気込んで、中傷の渦の中に、自ら足を踏み入れた。
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