とある字書きの書架

剣と魔法と戦争の世界の群像劇「ルセリオ王国の栄光」と、オリジナルキャラのメイキング等。
「擬人カレシ」の二次創作小説も亀の速度で更新中。

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「ルセリオ王国の栄光」作品一覧へ



2015/02/11

SS・更衣
〈ルセリオ王国の栄光:小説本文&落書き〉


フリーダとルセリウス王の落書き。
実はこれは前半部分で、後半は作成中。










***

激しい戦いを終えたルセリウスの衣服は、敵の返り血にそぼ濡れていた。
「陛下。替えの服をお持ちしましたので、こちらにお着替えください」
背後からフリーダが声をかける。
王が着替えをするために天幕へ入ると、灰白色のローブを纏った魔術師は護衛として後に続いた。入り口近くに立って周囲の気配を警戒するフリーダに背を向ける格好で、王は血に染まった衣服を脱いでいく。天幕越しに辺りへ気を配りながら、主君の半裸の後ろ姿に魔術師は遠慮のない視線を向けた。王が上着を軽く畳んで足元に置き、タイをほどいて袖や胸元が真紅に染まったシャツを脱ぐと、逞しい体躯があらわになる。広い肩と、険しい隆起を見せる背中。硬質な筋肉を纏った脇腹と腰。こぶ状の二つの膨らみを上腕にもつ、痛烈な手刀を繰り出す腕。そして、得物を持った相手の攻撃をかわして恐るべき握撃の間合いまで瞬時に詰め寄る、引き締まった長い脚。その姿を眺めて魔術師は考えた。なるほど、容姿と言動で多くの者を虜にしているこの人物に、美男子という評価を与えているのは、顔立ちの端正さや身なりの洒脱さだけではないのだ、と。かといって、その感想が何らかの欲望につながることはなかったが。
背後からの視線に気づいてルセリウスが振り返り、微笑して部下に尋ねた。
「どうした。私が欲しいかね?」
「いえ、いりません」
王がこうした言葉を発するとき、大抵の女にとってそれは質問ではなく結論となるのだったが、主君が言い終わらぬうちに即答する知将の口調はにべもなかった。主君に対して不要だと言下に答えることが、臣下の態度としてはいささか礼を欠くことにも、その返答を聞いて王が漏らした笑いが苦笑であることにも、飾り気のない出で立ちの魔術師は気づく様子もない。
「陛下、早く着替えてしまってください。敵の拠点近くともなるとさすがに攻勢が激しい……。ここからは私がお供します」
条件が整えば敵の一個大隊程度なら単身で撃破する力を持つ部下は、淡々と告げた。




2015/02/09

SS・緑髪の風使い
〈ルセリオ王国の栄光:小説本文&落書き〉


ルセリウス直属の精鋭部下、風使いヴァンの紹介SS。

*魔法解説
レビテーション(浮揚)…宙に浮かぶ風魔法の一種。扱いに慣れれば、宙に浮かんだまま移動することも可能

***










「……の進軍経路は、後続部隊が無防備……危険が……。……を迂回して……」

 マイスは、会議室に隣接する廊下の天井付近にある、壁材と天井の狭い隙間に潜んで、壁材にできている小さな穴から漏れてくる話し声を聞き逃すまいとしていた。室内ではルセリオ軍の作戦会議が行われている。

 ルセリオ軍の城に潜入して内情を探り、自分の軍の本陣に報告するのが彼の役目だった。敵の拠点にこうして潜入するという性質上、見つかればただでは済まない。何よりも慎重さが求められる任務だが、これまでのところ、城の者がマイスの動きに気付いている様子はなかった。何より、彼が潜んでいる隙間は床からかなり高い位置にあり、宙に浮かぶ風魔法の一種・浮揚(レビテーション)でも使わない限り、その場所が誰かに見つかる心配はないのだ。彼もまたレビテーションの魔法を駆使して、その高い空間に潜り込んでいた。

 マイスの軍は目下善戦している。この調子で活動を続ければ、いずれはルセリオ軍を陥落させることも――

「ねえ、君。そこで何してるの?」

 出し抜けに横から声を掛けられて、マイスは狭い空間で飛び上がった。緑色の短い髪をした短躯の人物が天井近くにいて、マイスのいる隙間を覗き込んでいた。ルセリウスの部下の一人、ヴァンだ。その人物が何もない空中に佇んでいるように見えるのは、マイスがその隙間に上るときにしたのと同じく、レビテーションの魔法を使っているためだ。
 ヴァンは小首を傾げて密偵を睨んだ。

「最近、僕以外の人がここに来てる様子があったから、おかしいと思ってたんだ……。陛下やみんなの隠し事を探るのに絶好の盗み聞きスポットなんだから、勝手に使わないでくれる?」

 緑髪の人物の口振りは、城に潜入されたことよりも、盗み聞き用の場所を勝手に利用されたことに腹を立てているようだったが、内偵の現場を目撃されたことに変わりはない。一刻も早くこの城から脱出する以外に、密偵であるマイスが取りうる行動はなかった。

「くっ……!」

「あれ、逃げるの? それならこっちに来るしかないよ」

 ムースがいる場所から城外に出る経路は一つしかない。それを塞ぐ位置にヴァンがふわりと飛んで、からかうように両腕を広げる。マイスは隙間から半ば身を乗り出して、両手の間に魔法の刃を生成しながら叫んだ。

「そこを退け! ――食らえ、ウィンドカッター!」

 その声と同時に、肉を裂いて骨をも断ち切る風の刃が、ルセリウスの部下に向かって唸りを上げて飛ぶ。ヴァンは避ける素振りも見せず、けらけらと笑いながら空中で片手を上げた。

「効かないよ。――ウィンドブレイカー!」

 上げた手から魔力の塊が放たれ、マイスの刃とぶつかるが早いか、粉々に砕いて呑み込んだ。そして、急激に速度と大きさを増しながら密偵に向かって突進する。

「な、何……ぐわっ!」

 身を躱す間もなく、高密度の魔力の塊に直撃されたマイスは、石の天井に叩き付けられて、意識を失って通路の床へと落下した。『風を打ち砕くもの』という名を持つその魔法――ウィンドブレイカーは、敵が放った風の術を呑み込んで吸収し、呑み込んだ風の力ごと相手にぶつける魔法だ。制御が難しく扱う者が少ないこの魔法を、ヴァンはさしたる鍛練もなしに使いこなした。

「風魔法で僕に勝とうなんて、ちょっと自信過剰なんじゃない?」

 小柄な風魔法の使い手は、浮揚の魔法を解いて床に降り立つと、昏倒している密偵を見下ろして嘯く。

「さて……君には、地下牢でたっぷりと話を聞かせてもらおうかな」

 ヴァンがパチンと指を鳴らすと、風が巻き起こって、意識を失っているマイスの体を持ち上げた。小柄な風使いが廊下を歩むのに合わせて、密偵の体も宙を滑るように進む。
 マイスから本陣に連絡が入ることは二度となかった。




2014/12/08

SS・うぶな新兵には難しい軍
〈ルセリオ王国の栄光:小説本文&落書き〉


ルセリオ軍の様子を描いたSS。インキュバスの血を引くルセリウス王が、女性の士官相手にいかにもな行動をする。



【登場人物】
・ルセリウス
王。有能だが女好き。

・ソーニャ
ルセリオ軍の中隊長。武人肌で、王の女好きにも困ったものだと思っている。

・ネイ
ルセリオ軍に仕官したばかりの新兵。

***















「はぁ、急がなきゃ……」
 ネイは城内の廊下を小走りに進んでいた。彼女の上官である中隊長のソーニャと会う約束をしていたのだが、ルセリオ軍の兵士となってまだ半月も経っていない彼女は、城の中で迷ってしまったのだ。やっとのことで正しい道を見つけたものの、待ち合わせの時間は刻々と迫っていた。
「きっとこの向こうに……」
 階段の手前の角を曲がると、ソーニャが着ているローブの鮮やかな橙色が廊下の奥に見えた。
「間に合った! ソー――あれ?」
 声を掛けようとして、ネイはためらった。そこには、上官の他にもう一人の人物の姿があった。洒脱な衣服に身を包み、彼の周りだけきらきらとした光に満ちているような、華やかな空気を纏った男。軍の最高権力者にして、この地を治める王・ルセリウスだ。
 王は中隊長の肩に手を置いて、親しげに何事か話しかけていた。ソーニャは身を引きぎみではあったが、かといって肩に置かれた手を振り払ったりする様子もない。ネイは迷った。このまま歩を進めたのでは、二人がいる所に着いてしまう。ひとまず手近な柱の陰に隠れて様子を見ていると、王は背中まである中隊長の髪に触れながらもうしばし言葉を交わし、それから離れて廊下の向こうに歩いていった。
「ソーニャ様!」
 手で髪を直している上官のもとにネイが駆け寄ると、中隊長は新兵に一瞥をくれた。
「来たか。遅いぞ」
「す、すみません。その――お邪魔かと思って」
 ネイの言葉に中隊長が顔をしかめた。
「見ていたのか……。余計な気を遣うな」
「は、はあ。あの、中隊長は陛下とお親しいんですか?」
 好奇心に駆られてこわごわ聞いてみる。
「親しい? 何を言っているんだ」
「え、でも、さっきのは」
 橙色のローブを着た上官は肩をすくめて、やれやれ、といった感じで首を振った。
「ネイ、お前はまだこの軍に入って日が浅かったな……。覚えておけ。我らの陛下は、誰にでもああいう態度をお取りになるのだ」
「は。あれを、誰にでも?」
「そうだ」
 中隊長が頷く。
「陛下にとって女とは、さながら草木にとっての水であり、風であり、土のようなもの。常に女と接していなければしおれて枯れる。我らの王はそういうお人だ」
「はぁ」
 上官の言葉に耳を傾けているネイに、ソーニャは巨象をも倒す電撃を生み出す両腕を胸の前で組んで言った。
「あの方に心気充実してこの軍を率いていただけるなら、私は多少のご乱行には甘んじるつもりだ。肩や髪くらい、触れられたところで減るものでもないしな」
「何だかすごい話ですねぇ」
 感心しているネイを上官がじろりと睨んだ。
「他人事ではないぞ。この軍でやっていくつもりなら、お前も陛下のあしらいぐらいできるようになれ」
「はい!? 私もですか?」
「誰にでもああだと言ったろう。側仕えにでもなれば、毎日挨拶代わりに口説かれるぐらいのことはあるだろうな」
「そ、そんな……!?」
「それがいやなら、故郷に帰って家業の手伝いでもすることだな。私は止めんぞ」
 上官が言い放つ。ネイは襟に付けた真新しい軍のエンブレムに触れながら、そっと溜め息をついた。
(母さん、父さん……。軍の仕事は思ったより大変そうだよ)

fin.




2014/12/05

SS・氷刃を得た軍は牙を研ぐ
〈ルセリオ王国の栄光:小説本文&落書き〉


ルセリウス王の部下・フリーダの紹介SS。

***





「ヴェータ平原の防衛戦における我が軍の被害は、兵士三〇〇〇名中、死亡六五七名、負傷一五八九名か……」
 先だって終えたばかりの戦闘について、ルセリウスへの簡単な報告を済ませたフリーダは、戦果と被害状況などをまとめていた。綿羊を思わせる白銀色の短い巻き毛には、髪飾りなどを付けるでもなく、灰白色の質素な長いローブに身を包んだこの将官は、時折手を止めて何事か考えつつ紙にペンを走らせる。
「敵軍との戦力差は明白だった。これだけの被害を出しながらでも撃退できたなら、上々だ。――スノウ、私を酷い奴だと思うか?」
 "氷刃"の二つ名を持つ白い魔術師は、ふと顔を上げて、少し離れた所でデスクに向かっている部下に問いかけた。兵士の四分の三が死傷した戦闘を成功だと評する彼女の口調には、迷いがない。
「は! い……いえ、それは……」
「構わん。この戦いで生じた兵士の損耗は大きい」
 口ごもる部下の反応を気にも留めず、王の側近でもあるフリーダは頷いた。
「我が軍の戦力は近隣の諸勢力に比べて決して勝っているとはいえない。そこを補うために近年は兵士たちの養成に力を入れて、医療班も充実させているんだ。欠けた兵士は新兵で補う。負傷兵たちも傷の浅い者は一、二ヶ月で戦線に復帰できるだろう」
 軍の中枢で働き始めてから一貫して兵員の増強に力を入れてきた将官は、淡々と語った。
「慎重さや安全策というのは、自らが生きる地を確保して初めて語るに値するものだ。力なき理想など虚しい夢物語に過ぎない。――ルセリウス様の望みが成就するなら、私は情けなどスタインの泉にでも沈めてしまおう」
 戦火に晒される南の地で、ルセリオ軍の反撃の牙は着々と研ぎ澄まされつつあった。




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