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SS・氷刃を得た軍は牙を研ぐ
〈ルセリオ王国の栄光:小説本文&落書き〉
2014/12/05

 
 
ルセリウス王の部下・フリーダの紹介SS。

***





「ヴェータ平原の防衛戦における我が軍の被害は、兵士三〇〇〇名中、死亡六五七名、負傷一五八九名か……」
 先だって終えたばかりの戦闘について、ルセリウスへの簡単な報告を済ませたフリーダは、戦果と被害状況などをまとめていた。綿羊を思わせる白銀色の短い巻き毛には、髪飾りなどを付けるでもなく、灰白色の質素な長いローブに身を包んだこの将官は、時折手を止めて何事か考えつつ紙にペンを走らせる。
「敵軍との戦力差は明白だった。これだけの被害を出しながらでも撃退できたなら、上々だ。――スノウ、私を酷い奴だと思うか?」
 "氷刃"の二つ名を持つ白い魔術師は、ふと顔を上げて、少し離れた所でデスクに向かっている部下に問いかけた。兵士の四分の三が死傷した戦闘を成功だと評する彼女の口調には、迷いがない。
「は! い……いえ、それは……」
「構わん。この戦いで生じた兵士の損耗は大きい」
 口ごもる部下の反応を気にも留めず、王の側近でもあるフリーダは頷いた。
「我が軍の戦力は近隣の諸勢力に比べて決して勝っているとはいえない。そこを補うために近年は兵士たちの養成に力を入れて、医療班も充実させているんだ。欠けた兵士は新兵で補う。負傷兵たちも傷の浅い者は一、二ヶ月で戦線に復帰できるだろう」
 軍の中枢で働き始めてから一貫して兵員の増強に力を入れてきた将官は、淡々と語った。
「慎重さや安全策というのは、自らが生きる地を確保して初めて語るに値するものだ。力なき理想など虚しい夢物語に過ぎない。――ルセリウス様の望みが成就するなら、私は情けなどスタインの泉にでも沈めてしまおう」
 戦火に晒される南の地で、ルセリオ軍の反撃の牙は着々と研ぎ澄まされつつあった。



 



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