[SS下書き]想いの花は乱世に咲く・飄逸の将は美貌の王を恐れる(2)
10th.Oct.2015
アスキルは爽やかな笑みを浮かべた。
「これでよかったのさ。
圧倒的な力の差を見せつければ、すっぱり諦められるだろう?
僕は無益な争いが嫌いなんだよ」
王が笑うと、翡翠色の瞳に金色の長い睫毛がかかり、形のよい薔薇色の唇から白い歯がこぼれる。
まるで天使のような微笑だ。実際、その美しい容貌に惹かれて彼に懸想する者も少なくない。
しかし、その眩しい笑顔の裏にある王の本性をウォードは知っていた。
(寒さの厳しい晩秋に敵の退路を完全に絶ったうえで水攻めを仕掛ける男が、「争いが嫌い」とは……よく言う)
そんな部下の胸中などつゆ知らず、アスキルはウォードに言う。
「今回の戦いでは君もいい働きをしてくれたね。明日にでも晩餐の席に招いてあげようか?」
ウォードはかぶりを振った。
「いや、遠慮しておくよ」
「つれないねえ」
部下の拒絶を気にした風もなく、美貌の王は笑みを絶やさずに言う。
ウォードは主君に気取られないようにそっと息を吐いた。
――呑み込まれたくない。
アスキルに気を許して、人の大切なものを何のためらいもなく奪うその男に身も心も支配されることが、彼は恐ろしかった。