Trick or Treat!〜ハロウィンの甘い夜〜(NLバージョン)
31st.Oct.2015
「ルファ、まだかな……」
ハーレは分厚いハードカバーの本に目を落としながら、アルバイトの帰りに彼女の所に寄ると言っていた恋人を部屋で待っていた。
今日はハロウィンだから、と、先ほど焼いたカボチャのクッキーの包みが机の片隅にある。
そのとき、ドアをノックする音がした。
「はい……って、きゃあっ!?」
ドアを開けたハーレは思わず叫んでいた。
そこには血まみれの死体が立っていた。
破れたシャツは血で真っ赤に染まり、顔も血だらけだ。顔中に塗り広げられたケチャップの匂いが鼻をつき……
ケチャップ?
何かおかしい。
ハーレが違和感を抱いたとき、「死体」がケラケラと笑った。
「お前って本当に騙されやすいな、ハーレ」
「ルファ……!」
ハーレは恋人の名を呼んだ。血まみれ死体の格好は彼なりのハロウィンの仮装なのだ。
「もう! びっくりしたじゃない」
「ははっ」
「アルバイトお疲れ様。はい、カボチャのクッキー」
ハンカチを出してケチャップを拭いているルファを部屋に迎え入れながら、ハーレはクッキーを渡す。
「おお、うまそうだ」
だけど死体の格好をした恋人はそう言いながらクッキーの包みを早々にポケットへしまうと、ハーレを抱きすくめて、ぐいぐいと部屋の奥に向かって押しながら歩き始めた。
「ちょ、ちょっと!? 何を……」
突然のことに戸惑いの声を上げるハーレにルファが言う。
「決まってるだろ。トリック・オア・トリートだ」
「クッキー(treat)はさっきあげたよ?」
「今日は恋人に体でもてなし(treat)てもらうか、ベッドで悪戯(trick)をするか――そういう日だ。違うか?」
「そんなのって……」
めちゃくちゃだ。
呆れてものも言えないハーレを抱き締めたまま、ルファはさらに足を進める。言葉を交わす間にもじりじりと後退させられていた。壁際に置いているベッドの縁がハーレの脚に当たる。
彼女をベッドに押し倒しながらルファがにやりと笑い、冗談めかした口調で言った。
「いつも難しそうな本ばかり読みやがって。活字に恋人を奪われる俺の身にもなれよ」
「ご、ごめ……」
「今夜は俺のことだけ考えてもらうからな」
彼女の頬や唇に恋人の口づけが落ち、熱を帯びた声が耳元で響く。
「……うん」
ハーレはルファの背中に手を回してぎゅっと抱きついた。
甘く熱い悪戯を全身に受けて、夜は更けていった。