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SS・うぶな新兵には難しい軍
〈ルセリオ王国の栄光:小説本文&落書き〉
2014/12/08

 
 
ルセリオ軍の様子を描いたSS。インキュバスの血を引くルセリウス王が、女性の士官相手にいかにもな行動をする。



【登場人物】
・ルセリウス
王。有能だが女好き。

・ソーニャ
ルセリオ軍の中隊長。武人肌で、王の女好きにも困ったものだと思っている。

・ネイ
ルセリオ軍に仕官したばかりの新兵。

***















「はぁ、急がなきゃ……」
 ネイは城内の廊下を小走りに進んでいた。彼女の上官である中隊長のソーニャと会う約束をしていたのだが、ルセリオ軍の兵士となってまだ半月も経っていない彼女は、城の中で迷ってしまったのだ。やっとのことで正しい道を見つけたものの、待ち合わせの時間は刻々と迫っていた。
「きっとこの向こうに……」
 階段の手前の角を曲がると、ソーニャが着ているローブの鮮やかな橙色が廊下の奥に見えた。
「間に合った! ソー――あれ?」
 声を掛けようとして、ネイはためらった。そこには、上官の他にもう一人の人物の姿があった。洒脱な衣服に身を包み、彼の周りだけきらきらとした光に満ちているような、華やかな空気を纏った男。軍の最高権力者にして、この地を治める王・ルセリウスだ。
 王は中隊長の肩に手を置いて、親しげに何事か話しかけていた。ソーニャは身を引きぎみではあったが、かといって肩に置かれた手を振り払ったりする様子もない。ネイは迷った。このまま歩を進めたのでは、二人がいる所に着いてしまう。ひとまず手近な柱の陰に隠れて様子を見ていると、王は背中まである中隊長の髪に触れながらもうしばし言葉を交わし、それから離れて廊下の向こうに歩いていった。
「ソーニャ様!」
 手で髪を直している上官のもとにネイが駆け寄ると、中隊長は新兵に一瞥をくれた。
「来たか。遅いぞ」
「す、すみません。その――お邪魔かと思って」
 ネイの言葉に中隊長が顔をしかめた。
「見ていたのか……。余計な気を遣うな」
「は、はあ。あの、中隊長は陛下とお親しいんですか?」
 好奇心に駆られてこわごわ聞いてみる。
「親しい? 何を言っているんだ」
「え、でも、さっきのは」
 橙色のローブを着た上官は肩をすくめて、やれやれ、といった感じで首を振った。
「ネイ、お前はまだこの軍に入って日が浅かったな……。覚えておけ。我らの陛下は、誰にでもああいう態度をお取りになるのだ」
「は。あれを、誰にでも?」
「そうだ」
 中隊長が頷く。
「陛下にとって女とは、さながら草木にとっての水であり、風であり、土のようなもの。常に女と接していなければしおれて枯れる。我らの王はそういうお人だ」
「はぁ」
 上官の言葉に耳を傾けているネイに、ソーニャは巨象をも倒す電撃を生み出す両腕を胸の前で組んで言った。
「あの方に心気充実してこの軍を率いていただけるなら、私は多少のご乱行には甘んじるつもりだ。肩や髪くらい、触れられたところで減るものでもないしな」
「何だかすごい話ですねぇ」
 感心しているネイを上官がじろりと睨んだ。
「他人事ではないぞ。この軍でやっていくつもりなら、お前も陛下のあしらいぐらいできるようになれ」
「はい!? 私もですか?」
「誰にでもああだと言ったろう。側仕えにでもなれば、毎日挨拶代わりに口説かれるぐらいのことはあるだろうな」
「そ、そんな……!?」
「それがいやなら、故郷に帰って家業の手伝いでもすることだな。私は止めんぞ」
 上官が言い放つ。ネイは襟に付けた真新しい軍のエンブレムに触れながら、そっと溜め息をついた。
(母さん、父さん……。軍の仕事は思ったより大変そうだよ)

fin.



 



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