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under the moonlight 〜スズロゴト〜

BL(男性キャラ同士の恋愛)小説ブログの別館です。
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[魔戦プラクティカ]3月9日〈メタ、時事〉


11th.Mar.2016

フィアンマが宿泊所の談話室に足を踏み入れたとき、ウェントゥスは何かの歌を歌っていた。その曲はどうやら大切な人への思いを語ったもののようだ。

   瞳を閉じれば あなたが まぶたの裏にいることで どれほど強くなれただろう 
   あなたにとって私もそうでありたい

幼い炎使いがきょとんとして聞いていると、歌が終わる。
「ウェントゥス、なんの歌を歌ってたですか?」
フィアンマが尋ねると風使いの青年は微笑んで答えた。
「ああ。これはゲンダイニホンの歌で、今日の日付にちなんだ曲らしいよ」
「ふーん……。ウェントゥスはゲンダイニホンのことをいろいろ知ってるですね」
「フォリオ君が向こうの世界のことを書いたものを、かわら版だっていってちょくちょく届けてくれるからね」
純白の髪の少年・フォリオの持ってきた『かわら版』というのがそれなのだろう、テーブルの上に置かれている四つ折りの紙をウェントゥスが手で示す。コーヒーを飲みに来ていたブリゼールが、細い銀縁の眼鏡を押し上げて呟いた。
「あの白いのか。まめなやつだ」
四つ折りの紙と一緒にテーブルに置いてあった音声・映像再生用のクリスタルにフィアンマが触れると、彼らとは随分違った服装に身を包んだ少人数の楽隊が音楽を奏でるところが、小さな立体映像で映し出された。ウェントゥスはその曲を真似て歌っていたらしい。
ウェントゥスが思案げに話し始めた。
「この歌には『大切な人のことを思うと強くなれる』っていう意味の歌詞があるけど、そういうことは確かにあるからね……。たとえ表立って祝福を受けることが難しい立場の相手でも、自分が強さをもらうだけじゃなくて、相手の支えにもなれたら本当にいいと思う」
その言葉には、単なる曲の歌詞に対する感想にとどまらない真剣さがこもっているようだった。少なくとも、窓辺で彼らのやり取りを聞くともなく聞きながら本に目を落としていたエクレッラはそう感じた。
(ウェントゥスは、祖国にわけありの恋人でもいるのかな?)
そんなことを思いはしたが、立ち入った質問を直接ぶつけるほど雷使いの少年は風使いの青年とまだ親しいわけでもなく。
異界の優しい歌とともに、穏やかな休息のひとときが過ぎていく。



※本文中の歌詞は、レミオロメン「3月9日」(作詞・藤巻亮太)からの引用。
「3月9日」をYouTubeで聴く・観る




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