◆イーリスの休日

　　ガラル軍　キーウェンの部屋

今頃トウヤどの辺かな。

どうだろう……もうアローラ地方には入ってるかもね……

……トウヤの個人の仕事はどれくらいの頻度であるか知ってるか？

うーん、仕事で出る時は声を掛けてくれるんだけど……月に3、4回程度かなぁ。
お客さんはみんなトウヤのお父さんが運び屋をしていた時に贔屓にしてくれてた方たちらしいんだ。
だから断りたくないって言ってた。

断りたくない？

お父さんの意志を大切にしたいと……あ、お父さんは亡くなってるんだけどね……

そ、そうなのか！？

うん、それもアローラ地方で……
ウルトラビーストっていうのが、アローラには出現するらしいんだ。
軍人を辞めて運び屋をしていたトウヤのお父さんは、たまたま荷運び先に出現したウルトラビーストから街の人々を守るために戦ったらしいんだけど……
そこで命を落としたんだって聞いた。

……！！(ぞくっ)
だっ、大丈夫なのか……！！？
今日、トウヤはアローラに……ッ

落ち着いて、最近の出現は頻繁ではなくなったようだよ。
トウヤもそこはきっと一番心配してるところだと思うから……

……心配していたとしても、出現してしまったら……

目の前で人が襲われてるなら当然、助けると思う。

くっ……一緒に行ってやれたら……

無理はしないようにとは言ってるよ、現地の人と協力しようって。
俺たちを心配させるような無茶なことはしないと思う、そういう人だから……無事を祈るしかないよ。

……無事に帰ってきてくれ……

　　アローラ地方　メレメレ島

……やっぱ美味いなあいつの料理。(もぐもぐ)
……。
この弁当を食べられるのは、この仕事だけか……件数増えてくれてもいいかも……
いや、これ作るのもあいつの負担だし、これ以上俺自身の仕事増やしたら流石のあいつもキレそうだな……
……。
よし、後は荷物を渡して帰るだけ。
……｢こないだ｣みたいの事は、もうそうそう起こらんだろう……

◆1ヶ月ほど前……「こないだ」

　　アローラ地方　メレメレ島某所

15:10到着……あとは引渡しのみだな。

ひったくり！！！誰かーっ！！

ひったくり！？
仕方ない……

いっ、いって、離せテメェ！！

大人しくしろ、アローラの警察に引き渡す。

ちくしょう覚えてろ！

ありがとう旅人さん！
お礼を……

不要です、急いでますから、失礼します。

◆十数分後

食い逃げだ！！！捕まえてくれー！！！

食い逃げ……治安悪いな……、仕方ない。

は、離してくれぇ〜〜〜っ、払う、払うからぁ！！

お前金持ってんじゃねえか……
店に引き渡す、警察呼ぶかは店が決める。

た、頼む警察には言わないでくれぇ〜〜〜っ

警察一択だ馬鹿野郎！！！

だそうだ。

すみませんでした〜っ
もうしないから許して〜っ

◆数分後

……なんだ、人だかりが……
何かありましたか？

強盗だってさ、あそこの銀行。

ごっ……
な、なんだこの街は、治安が悪いどころの話じゃないぞ……無法地帯か……？
警察は来てます？

ああ来てるよ、でも人質がいるからってなかなか動けないみたいだ。

なるほど……。
規制線の内側に届け先の建物が入ってんだよなぁ……
くそ、これ待ってたら時間内に届けられないかもしれない……。
……。
はぁ……、得策とは言いがたいが、仕方ない。
すみませんお巡りさん、あそこの建物に荷物を届けたいんですが。

は？
だめだめ、何考えてんだ、だめに決まってるだろ！
強盗が人質取って立て籠ってるんだ、下手に近づいて刺激すれば、人質がどうなるか……！

まあ、そうなりますよね。

というか君、運び屋か？
事件なんだ、運べなくとも仕方ないだろうこの状況じゃ。

……そういうわけにはいかないんですよねぇ。
依頼は必ず、何があっても、安全に時間厳守がモットーなもので。

いや、建物内に入ったところで誰もいないぞ？
さっきみんな避難した。

……ああ、届ける相手がいないってことか……事件が片付かないと帰ってこないよな……。
ところで俺はガラルから来たんですが、一応ガラル軍に身を置いていまして。

なんだ君、ガラル軍か。

ええ、この事件の解決に少し協力させていただきたい。
俺の手柄とかどうでもいいので、とりあえずこの荷物を運ぶのにこの事件が邪魔なんです。
さっさと片付けたい。

さっさとってね、君……人の命がかかっているんだから……

相手は何人ですか？

……。(遠慮が無いなコイツ……)
……ったく、3人だよ。
ケケンカニ、ルガルガン、ナゲツケサルらしい。

人質は？

5人だ、行員3人と客が2人。
みんな窓口付近にいるはずだ。

……なるほど、詳しい位置なんかは不明ですか。

人質は窓口の一番奥に集められている。
犯人グループは流動的だが、窓口からは離れていない。

了解。
行内の見取り図はありますか。

……少し待ってろ。
ついでに上司にも言うからな。

ええ、どうぞ。
……デッドラッドがいれば一瞬で終わる案件だな……まあ俺1人でも何とかなる。
それにしても、アローラはもっとおおらかな民度だと思っていたんだがな。
立て続けにトラブルに巻き込まれるなんて、運が悪いんだろうか……

こいつです。

君がガラル軍？

ええ、そうです。

協力されるのもあまり好ましくない。
君たちガラル軍は民間人だ。

政府の傘下でないだけで、事案対応の経験はそちらとさほど変わらないかと。
ところで見取り図をお借りできますか。

……。

……。
協力が必要ないと言うならもう解決しているはずでしょう。
俺はこの荷物を依頼の通りに配達したいだけなんです。
何も焦っているわけでも、苛立っているわけでもありません。
早急に解決すれば人質の負担も少なくて済みますし、ここら一帯の規制も解除され、滞りも無くなる。
対応に何か不安な点でもありますか。
あるならお伺いします。
いえ、お聞かせください、お願いします。

……。
この銀行の見取り図だ。

ありがとうございます。

……ナゲツケサルは殺人未遂の前科がある。
少しの刺激でも人を殺しかねないから最新の注意を払っている。
突入のタイミングを見ているんだ。
もうすぐ突入のための増援も到着する。

殺人未遂ですね。了解。

軽いな。

人質が犯人グループに対して刺激を与える可能性もある。
この場合タイミングを見図るのではなく、好機を作るものだ。
やって来るものを待っていては、いつまで経っても進展しない、リスクを高めるだけ。

……。

……この技を使える人はいますか？
これだけしてくれればあとは俺が叩きます。

……本気か？
2人で？

その隊員も俺が守りますから、安心してください。
技を出すだけで、何も考えなくていいですから。

……。
君、名前は？

……。
コガ。

……。
そこの君、ちょっとこっちへ。

は、はいっ？
な、何でしょうか。

君、この青年に従って動きなさい。
余程の自信家だ。

えっ、こ、この方……
ど、どなた、ですか……！！？

ガラル軍の運び屋です。
たまたま通りがかっただけですが、運悪くこの事件に巻き込まれまして、解決しなければ仕事にならないんです。
まあ、人助けも俺の仕事のうちですが。

は、はぁ……

すぐ終わらせます、こちらへ。

は、はい……

あっ、君、その荷物邪魔になるだろう！
置いていけばいい！

いいえ、この大きさなら手元にある方が荷物の無事を確認できるので。
お気遣いどうも。

な、なんてやつだ……、あの荷物、絶対邪魔だろ……。
……本当にあの青年にやらせるんですか、しかもうちの隊員を従わせて……！

……お前はあの子に見覚えがないか？

え？
いや全くの初対面ですよ！

そうか。
俺はあの顔を知っている。

そうなんですか！？

20年前のウルトラビースト襲来……
たまたま仕事でやってきていたガラルの人間が、たった1人でマッシブーンを相手にし、怪我人を1人も出さずに避難させた。

うーん、確か……
それは資料で見た気がします……

惜しくもそのガラル人はマッシブーンの手にかかってしまったが……
私たちを背に、守り戦うその姿を私は忘れることができない。

もしかして……

ああ、私もその時現場にいて、助けられたんだ。
コガと言った先程の青年……顔が、そのときのガラル人とよく似ていたよ。
彼は、アローラの英雄の1人、コガ・エイジンの息子だ。
彼なら、言葉通り人質も隊員も守って、すぐに解決してくれると確信した。

た、確かに自信たっぷりではありましたが……

不安を見せてはいけないんだ。
彼は父親と同じ、根っからの、とにかく｢人を守りたい｣タイプなんだよ。
あの時も、｢俺が守ります、安心してください｣だった。
笑顔ですらあった。
俺は、｢これで助かる｣と思った。
……ただ……

ただ？

息子は少し無愛想だったな。

はは……

犯人グループ確保しましたーーー！！！！！
応援願いまーーーす！！！

うわ、ホントにやってのけたのか……！
しかも早い……俺たちの慎重さはいったい何だったんだ……

さあ、あとはこちらで懲らしめてやるとしよう。
犯人グループ確保、増援は不要と伝えておいてくれ。

了解！




コガさんとんでもないです！！
僕が｢このゆびとまれ｣で犯人たちの視線が集中した瞬間に駆け抜けて行って！！！
犯人たちの技、コガさんが作ってくれた盾が全部防いで！！！！
びっくりしたんですけど、その間にコガさんは犯人を一瞬で気絶させて拘束したんです！！！！！！(興奮)

何だこの拘束具、見たことないぞ。
……って、これ鍵穴も無いしどうやって取るんだよ！

それは俺が適当に作った｢輪｣なので鍵穴なんてありませんよ。
体に密着した、ただの鉄の塊と考えていただければ。
取るには、溶かすか、俺が変形させるかくらいしかない。
継ぎ目も無いのでこいつらの腕力じゃ絶対に壊れません。

はぁ〜変わった能力だな……

……。
コガさん、この度はご協力ありがとうございます。

……余所者が出過ぎた真似を、申し訳ない。

とんでもない、助けられた者からすれば、あなたはいつまでも英雄なんですよ。

……称えられたいわけじゃない。

称えられたくなくても、称えますよ。
そこはあなたの意思じゃない。

……。
正義感でも、趣味でもない、｢守る｣は俺の性分なんです。
したいことをしているだけです。

したいと思ったことをできる、それは素晴らしいことです。

……。
嫌に世辞を重ねるじゃないですか、何か企んでます？
言ったでしょう、手柄は取りませんから。
それとも、本気で言ってるなら……気色が悪い。

ああ、すみません、世辞ともまた別なのですが、つい……
称え崇めている方と見目がとてもよく似ていたもので。
今となっては、面と向かってお礼を言いたくても、それすら叶わない。

……。
……！
ああ……そう……。
結局それは、俺じゃないですけどね。

ええそうですね、こちらこそ失礼いたしました。
しかし今回、民間人であるあなたのご協力により事件を解決に導くことができました。

ほとんどあんたが解決したけどな。

……。
……解決に導くことができましたので、感謝の意を評してアローラの軍からお礼をさせていただきたい。
お礼と言っても、表彰ですが……。

絶対お断りです。

そうおっしゃると思いました。
そちらの総隊長殿へ感謝のご訪問でもしましょうか。

今は軍人としての立場で仕事しているわけではないのでやめてください。
あと今回勝手にそちらに協力してる時点で、うちの総隊長も良い顔はしないですよ。

でも仲は良いのでしょう？

……。
本気で感謝しているなら、俺の希望通り何もしないでください。
灸を据えたいのであれば、総隊長までどうぞご連絡を。
規制が解除されて街の人たちも戻ってきているようなので、俺も本来の仕事に戻りたいと思います。
拘束具は解きますので、そちらでお持ちのものを使ってください。

私はあの英雄の姿に感銘を受けて、ここにいます。
あなたに出逢ったことで、あの時の鮮烈な勇姿と憧れを再び思い起こすことができた。
感謝します。
ああ、この礼は個人的なものですからね。

……。

そして、やはりあなたにかの英雄の姿を見てしまうこと、重ねてお詫び致します。
再びお会いすることがあれば、あなたと、ゆっくり話がしたいですね。

……会うことはありませんよ……、そう願っています。
それでは。

◆現在

……はぁ。
何が｢感謝の意を込めて灸を据えさせてもらう｣だよ。
総隊長に伝わったおかげでクスケたちにも筒抜けになった……
アイツら、いつか絶対飲み会くらいでイーリスにバラすだろうな。
……。
まあ、どうでもいいか。
……さて、仕事に戻ろう。
明日も仕事だ、帰って早く寝たい。




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