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たとえばここが満点の星空の下だとか、白や黄色の花が咲き誇る教会であったとしたら。あるいはいっそ、うねり狂う魔晄の奔流の側であったなら、これほどまでに動揺しなくてすんだかもしれない。息をすることも忘れたみっともない顔をさらしてオレが立ちすくむのは、5番街のターミナルへと続く道の中央、昼過ぎのできごとだ。
そいつは行き交う通行人の中に溶け込みながら、しかし決して溶け込めない姿をしてこちらへ向かって歩いてくるところだった。呆れるほど鮮やかな色彩。初めてミッドガルを訪れた誰しもがそうするように、きょろきょろと辺りを見渡している。
その視線がオレを捉えるのと、オレが詰めた息を吐き出すのは同時だったように思う。そいつは、…ティーダは笑みを浮かべて片手を上げた。口元が動く、実際に声を出したのかどうかは喧噪に紛れてわからなかったのに、オレの名前を呼ぶ声が耳の奥のほうで響いた。懐かしい声だった。
「久しぶり」
今度は実際に鼓膜を震わされたと思って、目を見開かずにはいられない。小走りに駆け寄ってきてまだ動けないでいるオレを覗き込んでくる、いたずらに成功した子供のような顔つき。ティーダ、呼ぶとそれははにかむような表情に変わって、頷くよりもたしかな肯定を返してくる。
それなのにオレはといえば、あまりにシンプルかつ万能、つまりは気の利かない質問をするので精一杯で。なぜ。たったそれだけを吐き出すのに、体中の酸素をすべて使い果たした気分になった。
「うーん。観光、かな。クラウドの世界が見てみたくてさ」
たった二文字の質問に対しては贅沢すぎるほどの回答だ。にも関わらずオレの眉間に寄ったしわをどう解釈したものか、ティーダは慌てて言葉を続けた。もちろんクラウドに会いたかったんだ。付け足したにしてはとっておきの呪文だったらしく、ティーダは得意げに胸を張ってみせる。オレは呆れて肩をすくめたかったが、一方でその仕草こそが疑念をほどく糸口になった。
もしかしたら幻じゃないのかもしれない。
ありえないことだ…が、オレはいい加減ありえないということはありえないのだと学ぶべきだった。異世界にまつわる数奇な巡り合わせ。あんなことが起きた後では、この邂逅を鼻で笑うほうが酔狂なのだと。
ところで酔狂といえば、オレはティーダとの間にあった数歩の距離を一気に詰めて、その体を抱きしめていた。本来であればこいつのほうが少し高いところに目線があるはずが、そんな些細なずれも許さないというように、強く。
「クラウド?」
道のど真ん中を陣取るオレたちを邪魔そうにかわす人々、ときにはあからさまに怪訝な視線を投げかけられていることにも気づいてないわけじゃなかった。単にそんなものはどうでもいいというだけのことだ。
ティーダがここにいる。
「どうしちゃったんだ?そんな、子供みたいに」
くすくすと笑いながらそんなことを言う、…しょうがないだろ、これ以外の方法を知らないんだ。
おまえが本当にここにいるのかどうか。目に見えなければ存在しないとは限らないように、見えているものが必ずしも存在しているとは限らない。オレは白昼夢を見ているのかもしれなかったし、そうでなくても何億光年も前の光景が今ここに届いただけなのかもしれなかった。触れてたしかめないことにはどうにも。
「くすぐったいって」
たぶんティーダは首元に押しつけられた顔のことを言っているんだろうが、離れるという選択肢はなかった。これだけで信じられるなら苦労しない。許してくれと願い、抱き返してくれと願えば本当にその通りになった。ティーダの温かい手のひらがオレの背をあやすように叩く。
「会えてよかった」
吐息と一緒に吹き込まれた囁きを、身のうちにしまい込むようにして目を閉じた。さざ波の形になったそれが体中を巡り、つま先にまでを寄せて返す間、オレはこんなことを考えていた。幸福な夢から目覚めたときよりも、悪夢から目覚めたときのほうがずっと楽に決まってる。
それでも、腕の中にあるこのぬくもりを悪夢だと思い込むことは、とてもじゃないができそうになかった。


 



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