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710


さわやかな朝だ。光がそっと差し込んできて、さらっとした風がほっぺを撫でてく。いい一日になりそうって思えたところだった、…目を開けた瞬間に、誰かの顔があったりしなかったら。
うわああ!実際には息を止めて音にはならなかったんだけど、心の中では叫んでた。心臓がばくばくする。そりゃそうだって、顔があるだけならまだしも、両目ぱっちり開けてこっち見てるんだぞ。ビビるに決まってんだろ!
「おはよう」
オレがこんなに衝撃的な目覚めを迎えたってのに、当の本人、クラウドは、何も悪びれないで声かけてきた。…おはよ。普通に返したのは、混乱してたのと、その混乱に気づかれたくないってのと。それに、クラウドがあまりに普通だったからだ。
でもすぐに、この事態を流すわけにはいかないって思い直した。向かい合って横向きに寝てるオレたち。これが男と女だったら、特別な朝だって言えるくらいの距離感。
「ちなみになんだけどクラウド、いつから起きてた感じ?」
「ん?…さあな。少し前だが、はっきりとは。何でだ?」
「いやその、何となく。…何してたのかなーって」
「おまえの寝顔を眺めてた」
「……ブッ」
朝には勘弁してほしいタイプの衝撃、その2。…く、クラウド?いきなり何言ってんだよ、どうして…あ。そっか。わかったわざとだな?寝起きのオレをからかうイタズラ、どうせ悪ふざけ好きなあいつとかあいつとかの差し金だろ。
よくわかんない思考回路、でもオレのせいじゃない。寝起きの頭にたたみかけてくるのが悪い。
「ヤローの寝顔見て楽しいのかよ」
イライラっていうか、でも冗談にしちゃいたいっていうかで、半笑いな言い方になった。
「楽しい、楽しくないというわけじゃないが…」
クラウドもクラウドではっきりしない言い方だ。しかも何か考え込んでる風。真剣に答えてほしかったわけじゃない。いいよ、クラウドこそ流してよなんて無責任に思う。
この上、こっちをじっと見つめてくるし。
何なんだよ、…言いかけて、やっと気づいた。
「クラウド。何かあったのか?」
勝手な解釈してたってことに。
「どういう意味だ?」
「寝れなかったんだろ。もしかして悪い夢見たとか?それとも…あ!オレの寝言がうるさかったとか。蹴ったりした?ごめん!」
しまったって思ったんだ。クラウドのこと考えないで、適当なことこじつけて勝手にイラつくなんて、って。…結局これも独りよがりで、何焦ってんだって話だったんだけど。
クラウドはきょとんとしながら言った。

「いやむしろ、よく眠れたぞ」
ティーダがなぜか焦りだしたので、ありのままを伝えただけた。すると口を開けてぽかんとし出すから、オレは二重の意味で驚く。そんな顔をするようなことを言ったか?もう一つは、起き抜けでよくそれほど、多彩な表情ができるな、と。
「でも、でもさ。早く起きちゃったんだよな」
「ああ。でもいつもこうだぞ」
そういえば、と振り返りながら付け足す。普段はそんなことないんだが、ティーダといるときだけ。
「えっ!?やっぱオレのせいなんじゃん!」
「違う。せいじゃなくて、おかげだ。ティーダといると、不思議と深く眠れるんだ」
それに起きるのも苦じゃなくなって、すっきりと目が覚める。なぜかはわからない。わからないから不思議に思って、おまえの顔を眺めてた。
…ということをほぼそのまま伝えてみたところ、ティーダは思いっきり目を丸くしてみせた。
「なんでだと思う?」
「それは…オレにもわからないッス」
そうか。ティーダにもわからないか。オレはおまえに要因があると踏んでるんだが。他の誰とでも、こういうことはないから。
うんうんと唸りだしたティーダを眺めながら、オレもまた思考を巡らせる。
ふと思いついたのは。これほどの安眠だ。どんなアホ面をさらしているかわかったもんじゃない、それを見られないためという意味でも、ティーダより早く目覚めておくべきなのかもしれない、ということだ。だがこれはつまらない見栄というだけで、答えじゃないな。

2018/9

 



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