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ティーダがまたよからぬことを企んでるようだ。ちょっとした遊び、言うなればいたずらだな。これまでもこういうことは度々あった。前のは隙あらば人を壁際に追いつめる、だったか…?何がおもしろいのかはオレにはわからないことも多いんだが、いつも気がつくと付き合わされている。
さて、今回は。
状況としては探索中、オレがはぐれたティーダを探しているという体だ。…恐らく。というのも、あっちからすればということであって、オレは別に探してないからなんだが。
ティーダの居場所ならわかってる。オレがこれから行き着こうとしてる曲がり角の先、身を潜めている気配がそれだ。どうやら飛び出してくるつもりらしい。それも、オレを驚かせたいがためだけに。
待ち伏せからの不意打ち。オレの勘違いでなければこれで二度目で、言っちゃ悪いが…最初から成立していないというか、不意打ちも何もあったものじゃない、というか。ある意味驚いてはいる。オレは今まで、戦士というものはごく自然に、気配を消せるものだと思ってたんだ。動きをいちいち気取られてはいられないからな。
それがどうだ、ティーダときたら。…いや、本人からしてみれば消してるつもりはあるんだろう。口に手を当てて息を押し殺しつつ、前のめりの体勢でタイミングを伺っている。オレが近づくのに連れて緊張を高まらせて、あと3歩も行けば飛び出す算段、…というところまで、手に取るようにわかる状態なのにも関わらず。
一緒に戦っているときにはさして気にしてなかったんだが、改めたほうがいいのかもしれない。ティーダ、オレが歩みを遅くしていることにも気づかないのか?
オレはといえば、どうしようかと悩んでるところだ。引き返そうか迷ってすらいる。この間なんて気づいてもやれなかった、何の反応もしないオレに、不満そうに唇を尖らせたティーダ。
「何で驚かないんだよ?」
その言葉に、驚かなきゃいけなかったのか、と驚いたんだ。
今度はうまくいくだろうか。そう考えてオレは、引き返す選択肢はないということに気づいた。ティーダと早く合流しなくてはという当初の目的ですら、言い訳になる。
オレはオレが驚いたときの、おまえの反応を見てみたい。
「わあっ!」
ティーダは懲りもせずに、前と同じタイミング、同じかけ声、同じ体勢で飛び出してきた。大声と大げさな動作、オレはそれに反応すればよかっただけだ。
だが自分でも気づかないうちに緊張してたらしい。体がうまく動かず、一瞬の間を空けてから、
「っ…!」
肩を小さく震わせるのがオレの精一杯で。
…やってしまった。今の間は怪しすぎる、しかもティーダまで、飛び出してきた格好のままこっちを睨んでいる。がっかりさせたのに違いない。やはりうまくいかなかったか。
「……ティーダ」
オレはおそるおそるといった風に、話しかけることしかできなかった。謝ることは…さすがに理由が理由なのでしないが、その代わり言い訳もしないつもりだ。
「クラウド」
「…」
「今の、びっくりした?」
「ああ」
ティーダの質問は予想外で、しかしなぜだか頷くことに成功していた。
「マジで?…やった大成功ッス!」
オレは半ば呆然としながら、笑顔でガッツポーズを決めるティーダを見つめる。成功だったのか。こんなものでよかったのか。…ティーダ、こんなことで、おまえは喜んでくれるのか。
「よし!じゃあクラウド、行こうぜ。もう迷子になるなよな」
そう言って先導しようとする。待て。おまえがはぐれて、オレが探しにきて…。少しだけ頭が痛くなった。だがそれも、上機嫌な様子を見てるうちにどうでもよくなってしまう。
大体、悪くないと思ってる時点で手遅れだ。
問題はティーダに気配が消せてないことを指摘するかどうかだが。ティーダは他のやつにも同じことを仕掛けてるはずだ。そいつらがどう思ってるのは知らないが、任せておいてもいいだろう。
少なくともオレはティーダが飽きるまで、このままにしておこうと思う。

2018/12

 



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