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雲一つない青空。ほぼ無風。絶好の釣り日和ってやつだ。こんな日にいい水場が見つかったのはマジでラッキーだった、最近荒野だの砂漠だのって、そんなんばっかだったし。だからウキウキで直行しちまって、いろんなやつにゴキゲンだなって茶化されたんだけど、それはもうしょーがねーってことにしとく。今はとにかく釣りだ釣り!
魚影もばっちり確認済みで、狙いつけてキャスティングして。よしうまくいった。じわじわくる緊張感、やっぱこれだわ。
異世界っつーのも悪いことばっかじゃねーかも。…実際、いろんなやつがいるけどいいやつばっかだし、戦うのもそんなやじゃねーし。飛空挺ってでかい乗り物で移動するから野営は前よりむしろ少ないぐらいで、メシは、まあ…。それ以外は割と、楽しんでるっちゃあ楽しんでる。釣りが別格なだけだ。
食材の調達っつー役割もあるから、余計気合い入ってた。小っさいのなら20匹以上、でかいのでも10匹が最低ライン。仲間が多いっつーのはもちろんだけど、他にも釣りしてるやつがいる、そいつらには負けらんねーから。
他のやつは釣れてんのかな。気になって周り見渡してたとこで、そういやって気づいた。あいつがいねー、えっと、ティーダってやつ。ここ着いたとき、水だー!ってオレと同じくらいはしゃいでたんだ。いつの間にいなくなった?まあオレ、準備すんのに夢中だったし、その間だろうけど。
…って。そんなこと考えてたら魚までいなくなったとか、マジか。オレとしたことが焦って竿動かしすぎたとか、ってよりは一気にいなくなったような。
っ!!いや待てなんかでっかいのが底のほうで動いてんぞ!そうかこいつのせいで他の魚が、もしかしなくてもこいつ主だろ!やべーこんなに早く見つかるなんて運よすぎ、ぜってー釣り上げてやる。今度こそ焦んなよオレ。慎重に。指先の感覚で仕掛け動かして誘う、ほら来い…。
浮き上がってきた。…かかった!よっしゃこりゃマジで大物だぞ、…ってむしろでかすぎじゃね?は?黄色で赤で青で、なんつー色味、つーか形が…。
はあ!?
「エース登場!」
釣り人の習性っつーか意地っつーかで、オレも引っ張ってて、でもそいつはほとんど自分からざばっと飛び出してきた、ってか飛びかかってきた。ティーダ、なんでこいつが。勢いよく尻餅着かされる。いてーとかびしょ濡れになったとかそれどころじゃない、オレはとにかく驚いたってのばっかで。
「ノクトごめん、この辺で泳いだせいで魚いなくなっちゃった。移動したほうがいいッス。あっちのほうにいっぱいいるからさ」
「…お、おう」
意味わかんねー。泳いでた?おまえが?ってかエース登場ってなんだよふざけんな、…内心とは逆に、素直に返事しちまってた。
「……」
「なんスか?」
「…どかねーのかよ」
「あ、悪い」
いや悪いって思ってねーだろ。めちゃくちゃ楽しそうにしてんじゃん、人のことさんざん混乱させといて、こいつ。しかもすぐ水ん中戻ろうとするとかマジねーわ…。オレはイライラ通り越して呆れ返る。相手にするだけ無駄だし、さっさと釣りしてーし。
しゃくだけど、こいつが言ってた場所に行ってみるか。そう考えて気づいた。なんでこいつ魚がどこにいるのか知ってんだ?いや水の中にいたってのはわかるけど、問題はそこじゃなくて、オレが釣りはじめて10分以上、水に入ったやつなんて一人もいなかった。
「魔法でも使ってんのか?」
「何のこと?」
「ずっと潜ってただろ」
「うん…?オレブリッツの選手だから、ずっと潜ってられるけど」
「は?マジで!?」
ティーダはそれがどうかしたんスかぐらいのきょとんとした感じで、オレはなおさらビビる。ずっと潜ってられる?詳しく聞くとなんかこういうことらしい。ティーダたちの世界には、ブリッツボールって水中でやるスポーツがあるんだと。…そういやなんかのスポーツやってるって言ってたわ。それで泳ぎが得意で、ここにきたときも水だーってはしゃいでたらしい。
ブリッツやってるから泳ぎが得意なのか、泳ぐのが得意だからブリッツやってんのか。そこらへんはわかんなかったけど、とにかくすげーな、見直した。
さっきのもある意味、大物釣ったって言えるのかも。伝説の人魚とかいう。…悔しいけど、そんなこと考えちまうくらい、衝撃的な出会いだったってのは確かみてーだ。

2019/1

 



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