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410


テントの中、オレはいきなり目を覚ました。ぐーすか寝てたはずなのに何でだろ?辺りはまだ真っ暗…じゃないか、ぼんやりと明るい。けどそれにしたって起きるのにはまだ早いはずだ。
起きなくてもいいのに起きたっていう違和感。寝ぼけてるのもあって何なのかわかんないまま、気づいたのは起き上がって伸びをしてたときだった。
「う…」
吐息混じりの小さな声。
「…セシル?」
見ればすぐそばで横になってる、セシルが身じろぎしてて。
頭がぱきっと冴えた。胸に手を当てながら苦しそうに息して、的外れな心配はなしにすぐ、うなされてるんだってピンとくる。
こういうのは珍しいことじゃないからだ。戦って戦って疲れ果てて、あとはぐっすり寝られるだけだったらいいのに。…まあ、そんなにうまくいくもんじゃないよな。うなされるのぐらい、しょうがない。
オレはセシルを起こそうとして顔をのぞきこんだ。
「くっ……なぜ………」
セシルはそれだけ呟くと、少し落ち着いたみたいで静かになった。寝息も戻る。でも眉間にふかぶかーと刻まれたしわは治らない、見てるこっちが辛くなるぐらいだ。寝てるときぐらいそんな難しい顔してんなよ。せっかくの美形がもったいないぞー…って、何考えてんだオレ。
そんな場合じゃないだろ。わかってたんだけど、セシルのことじっくり見ることなんてあんまりないし、って変な気持ちが出てきてた。もう落ち着いたみたいだし、ちょっとくらい…。
…本当、きれいな顔してるよな、セシルって。肌白い。髪の毛も、暗い場所なのに透けるようにきれいな銀色。
触ってみたい。下心じゃないってのはムリがあるけど、ただの好奇心、それとセシルのことが心配って気持ちもあったんだ。人の体温って安心するだろ、だから頭撫でてやろうと思って。
「ぎゃっ」
セシルからしたらいい迷惑だったんだろうから、世界がひっくり返っても文句は言えない。
気づいたら床に倒されてた。…うん、寝てたセシルより起きてたオレのほうが無防備だったとか、笑えるな。
「…ティーダ?」
「けほ……ど、どうも」
「…っ!?」
掴まれた手首が痛い。腰の辺りも打ったみたいだ。
「すまない、僕は何てことを」
「平気ッス。…離してくれれば」
「あ、ああ」
悪いのはオレだから怒るわけない。敵だと認識されて悲しいってのと、騎士ってすごいんだなーって感心するのとくらい。一瞬でマウントとって首に手かけるんだもんな。オレにはできない、さすがセシル。
「何でこんなことに?」
手も離してくれたし、別にもういいのに。セシルは混乱してるみたいで、オレの上に乗ったまま固まってしまった。
「セシル、うなされてたんスよ」
だから状況説明、オレは軽い気持ちで話しはじめる。
「うなされてた?」
「うん。大丈夫そうだったけど、起こそうと思って。…そしたらさあ、つい、見とれちゃったんだ」
「え?」
「セシルがきれいで」
言ってから気づいた。何て怪しいんだ。寝込み襲ったわけじゃないッスよ!慌てて言ってはみたけど、もっと怪しくなっちゃったかも。
その証拠にセシルが、さっき寝てたときみたいな難しい顔してこっちを見てくる。
「僕はきれいなんかじゃ…」
あ、そっちか。叱られるって構えてたオレは、ほっとして力抜いた。
「きれいだよ。目なんて宝石みたい」
油断して、言葉がするすると出てくる。手を伸ばしたのも油断、っていうか無意識。まつげの辺りに触ろうとしたところで、その手はセシルの手に掴まれた。
「あんまり嬉しくないな」
「ごめん…?」
「僕だって男だよ」
少しだけ苦しそうな真剣な顔。やべ、今度こそ怒らせちゃったっぽい。もちろん男なのは知ってる、悪気はなかったんだ。言う前にセシルがふわっと笑った。それが本当にきれいで。
ぽーっとしちゃって、動けない。まさか顔近づけてくるとは思わなかったし。キスされる、うわーって一人勝手に盛り上がって、触れるか触れないかの絶妙な距離で止められて、何だこれ、息止まるくらい、わけわかんなくなった。
唇が…ちりちりして…焦げる。
これ、キスなのか?触ってないんだ。なのにおかしい、熱い、触ってる以上に。手も足も、唇じゃない場所まで熱くなってく。息がしづらい。ドキドキする。
きっと数秒間、短い時間での出来事のはずなのに、それだけのことが起こった。
「…ティーダは、温かいね」
魔法が解けない。反則だ、セシルはまた微笑んだ。しかも離れていかなくて、オレの胸の辺りに顔を埋めて抱きしめてくる。
「すまない。少しの間だけ、このままでいさせてくれないか」
セシルのいつもの調子からは想像もできないくらい、弱々しい声だった。さっきの本当に悪夢だったんだろうな。だからこのくらいいいッスよって、軽く許すべきとこなんだろうけど。
オレは本心じゃ、頼むから早く離れてって思ってた。息がしづらい。ドキドキする。このままじゃ、心臓が破裂しちゃいそうだったから。

2018/11

 



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