ss | ナノ
 

アロティ


飛空挺のとある部屋。2回ノックして入るッスよ、声かけながらドア開ける。中にはアーロンひとり。ちらっと視線よこしてきて何の用だって聞いてくる、オレは別にってぶっきらぼうに返す。用なんてないの知ってんだろ。落ち着きたいからくるだけだって。この飛空挺でひとり部屋なんてぜいたくしてんのあんたぐらいなんだから、…それが相部屋のオヤジが夜な夜な遊びに出かけるせいだとしても。
オレからしたらゆっくりできる分むしろ願ったり叶ったりだ。机で晩酌してるアーロンの横通り過ぎて勝手にベッドへダイブする。疲れた…って言うと大げさ、体はなんともない。問題は心のほう。…それもなんか大げさだけど。
深呼吸してリラックスして、でも目は開けたまま。ごろんと転がって横向きになる。目の前にアーロンの背中がきた。なあ、アーロン。声に出さないままその背中に呼びかける。しんどいんだって言ったら怒る?怒んないか、呆れるか。
どのみちため息つくんだろうなって思う。くだらん。そんな冷たいこと言わないで聞いてよ。この先どうなるんだろうって自分のこともあるんだ。でもそれより誰かが悲しいのが。他の世界のことなんてオレは何も知らない、なのに誰かが大変なのでいても立ってもいられなくなる。人のことってどうやったら気にしないでよくなるんだろう。アーロン、どうしたらいい?
言葉にしたわけじゃないから返事はない、当たり前だ。だからオレは勝手にアーロンが言いそうなことを想像する。
誰かを思えるというのはおまえの長所だ。…ははっ、こんな甘いこと言わないって。気にしなくなったところで何が変わるというわけでもあるまい。うん、こっちのほうがそれっぽい。けどちょっとは慰めてくれてもいいよな。世界がどうこうではなく、おまえにとって心を砕くことのできる相手ということだろう。おまえが胸を痛める分救われるものもいるかもしれない。…そうだといいな。
もっかい寝返りうって、今度は仰向け。ちょっと笑いそうになった。いちいちアーロンならって考えてんの自分でもおかしくなっちゃって。
でもこれもう癖みたいなもんなんだよな。不安はどうしたってなくせない。でも見方は変えられる。そういうことをするときは自分で自分に言い聞かせるより、アーロンの言葉ってことにしたほうがすんなり入ってくる。…だったらアーロンはいなくてもいいじゃんって話だけど。
実物もほとんど何も言ってこなくなったし。説教、あ、いや助言か。前は何かあるとこっちが嫌だっつってもしつこかったのに最近はぜんぜん、それだけオレが成長したって思ってくれてるってこと?それかあんたのことだから、オレの出番はもうないなんてじじ臭いこと考えてるか。
出番なくないッスよ。…絶対面と向かっては言えないし、いつまでも甘えてちゃだめだってのもわかってる、けどこればっかりは。
世界が変わっても変わらないんだ。1回目のとき。スピラに迷い込んだとき、わけがわかんなくて大変なことがたくさんあって、帰りたくてしょうがなかったのに帰れなかった。あの頃のオレはそれが全部アーロンのせいだと思ってたし、アーロンも違うって言わなかったから。
信じられなくなってもよかったと思う。でも相変わらずこのおっさんがいる場所がオレの場所で。2回目の今も。
代わりがない唯一の場所。えっとだからこれ…充電みたいなもんだって。
そんなこと言ったら、鼻で笑うんだろうけどさ。

2020/3

 



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -