奇数が旭(中学生)視点偶数が樹(ラーメン職人見習い)視点
出会い編:[          10 11 ]



 マッサージを口実に、漸く樹の家に入ることが許されたのだけれども。

「……い、一時的にだっ! 入れたとしても絶対泊めねぇからな!」

 結局最後の最後まで、樹は不服そうだった。でもまぁ、一旦中に入ってしまえば、こっちのもんだ。後はなんとかなるだろ。

「ありがとー、イッキーなら分かってくれるって信じてたっ!」

 途中撤回は赦さないぞとばかりに、樹の腕をしっかりと抱く。
 一度悪くした印象を覆す為には、これでもかってくらいにフレンドリーに接して、さりげなーく相手を持ち上げていって信用を得ていくしかあるまい。
 名付けて、「先輩の男気に惚れて改心しました! 俺、一生付いていきます」作戦だ。
 何しろ、物騒なこのご時世に、身一つで万引きを捕まえた超お節介野郎だ。
 困ってる年下に頼られるのは弱いはずだろう。その甘さに徹底的につけ込んでやる。
「ったく、調子がいいなお前は……」
「へっへー、お世話になりま〜す!」
「だから泊めねぇって! あくまでも一時的に、だ。仮眠とったら始発で帰れ!」

 深夜なのに声デカいよ、イッキー? 言ったら逆ギレしそーだから黙っとくけどさ。



 玄関に上がり、制服の上着を脱いでいると、樹から、ハンガーを手渡された。

「え? 何」
「何って衣紋かけだよ。学ラン、掛けんのに使うだろ」
「あー別にいいよ。そのへんに置いとけば」
「皺になるだろうが。いいから、貸せよ」

 特に言い返す理由も無かったので、大人しく従うことにした。

「どーせ、あと少しで着なくなんのよ?」
「気持ちの問題だよ。折角、親御さんがお前の為に買ってくれたんだ。最後まで大事にしろ」
「……わかったよ」

 それ、去年の文化祭にPTAがやってたバザーで譲って貰ったリサイクル品なんだけどなー。
 二年の頃まで着てたヤツも、買ってくれたの祖母ちゃんだったし。

 奥に進むと、樹が寝室代わりにしているという居間に案内される。
 ベットが見当たらないってことは、布団だよな……押し入れに仕舞ってあんのか。

「イッキーってさぁ〜もしかしてA型?」

 敷き布団にうつ伏せになった樹にマッサージを施しながら、俺は尋ねた。

「そうだけど、なんで」
「いや、イッキー、一人暮らしでしょ? それにしちゃあマメだなーって思ってさぁ。所々綺麗にしてるし……あ、もしかして彼女いんの?」
「いないけど」
「じゃあラッキーだね。俺、ABだから相性抜群だよ!」
「ハァ? 何のだよ……?」

 まるで意味が分からないと、首を傾げる樹に、ふいに、悪戯心が芽生えた。

「何って……カラダの?」
と耳元で囁きながら、わざとらしく、腰周りを揉んでやると、
「ばばばっ、馬鹿言ってんじゃねーっ! 俺もお前も男だろーが!」

 期待通り、耳を真っ赤にさせながら、どもるという、大変面白可笑しい反応をしてくれた。

「場を和ませる為の冗談だってー。イッキーって返ってくる反応が一々可愛いよねぇ。クセになりそう」
「大人をからかうなーっ!」

 ホント見てて飽きないわ、イッキーって。

「俺ちょっと探索してくる―」

 マッサージを施したおかげで、すっかりだらけてしまった樹をそのままに、部屋を後にする。
 次なるご機嫌取りになりそうなブツを探す為だ。
 取り敢えず、台所周辺から探りを入れてみることにした。

「おっ、缶ビールみっけ。さけるチーズもあんじゃん」

 料理を頻繁にする方なのか、冷蔵庫の中身は結構、充実していた。けれども、きちんと整理されていて、何処に何が閉まってあるのが一目で分かる。
 流し戸を覗けば、家庭で使う一般的な調理器具が殆ど揃っていた。
 もしかしたら、そこらの主婦より、樹の方が出来るかも知れない。
 結婚したら、良い父親になりそうだよなぁ。

 暫く探索は続いたが、居間の方から、
「オイ、あんまりあちこち漁んなよ」
という制止の声がかかってしまったので、適当に返事をし、ひとまず居間に戻ることにした。

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