奇数が旭(中学生)視点偶数が樹(ラーメン職人見習い)視点
出会い編:[          10 11 ]



「うわっ、あのガキ、また盗りやがった」

 肩から斜め掛けしたスポーツバックに、携帯充電器やSDカードらしきモノを躊躇うことなく何個も突っ込んでいく学ラン姿の少年。明らかに初犯の手つきじゃない。
 両目共々、現役2.0以上の俺が見逃すはずがなかった。
 此処、廃店一歩手前のコンビニ、「ドリーミング・スター」は駅から結構離れた、若干廃れ気味の商店街にある。
 因みに俺はコンビニの店員ではない。ただの常連客だ。
 だが俺にとって、このコンビニは必要不可欠な存在である。例え、品揃えが悪かろうが、接客態度が終わってよーがだ。何たって商店街唯一のコンビニであるし、俺が勤める店から一番近いコンビニでもあるのだから。



 三年前の秋。地元の友人達と初めて東京に行って、食べたあの味が忘れられず、大学を中退し、頼みに頼み込んで俺は老舗ラーメン店主、サトコさんに弟子入りした。

「渡辺、早く片付けなよ。お客さん待ってんだろ」
「ち、違いますサトコさん! ワタナベじゃないですっ。俺の名字、ワタライです! 渡来!」
「どっちでもいいだろう。そんなの。」

 三年近く経った今でも正直、彼女は手厳しい。
 注文、配膳、出前、食器洗い、ゴミ出し、ハンドペーパーなどの消耗品の買い出し。休む暇も与えず、様々な用事を押し付けて下さる。
 見習いというより、バイト止まりというか、雑用係と認識されているのかもしれない。未だに名前すら完璧に覚えられていないし。
 それでも、飲食店だ。賄いとか、密かーに期待していたが、

「お客さん差し置いて、バイトに食わす飯なんかあるワケないだろ。コンビニでも行ってきな」

 ピシャリと言い放たれたあの一言。正直、弟子に成り立ての頃はまだ、店主をナメてました。ちょっと気の強そうなおばあちゃん位に思ってました。
 まあ「お客さん第一」がお店の方針なんですけど。お店の味とお客さんの為なら、小さいことにも一切妥協しないそんなトコも含めて尊敬してんですけどっ。それにしたって、ヒデェ。

「渡来、休憩行っとけ。後はやるから」

 ピークが過ぎ、店主の孫、カズキさんの気遣いによって漸く食器洗い地獄から解放されたのだった。
 本当に、あの人男前だよなぁー。老若問わず、女性客から人気があるのも分かる気がする。もし、俺が女だったとしても多分、惚れてたね。あの人、普段は無愛想だけど根は優しいからな……サトコさんとは大違いだ。




 カズさんのおかげで休憩を頂き、俺はいつものように、コンビニで昼飯を買おうとした。
 ところが、トイレから戻ってきたら、不審な少年が日用品コーナーを徘徊していたという訳だ。
 元々潰れかけていたような店だが、こんなん繰り返されたら、間違いなく本当に潰れる。

「冗談じゃねーぞ、マジで」

 ココが無くなったら俺の昼飯はどーなるんだ。
 店には業務用冷蔵庫があるけど、俺の為にスペースなんぞ、あのサトコさんが開けてくれるワケがない。パンなんかじゃ、全然保たないし、弁当も放置してたら確実に傷む。腹は壊したくない。

「あっ!」

 案の定、少年は精算を済ませずに、カウンターを素通りし、したり顔で店から出ていった。
 あンの野郎、完璧店員を、大人を馬鹿にしてやがる。

「つーか……」

 カウンターの前にいたハズのコンビニ店長に目を向ける。ニマニマしながら熱心に売り物の週刊誌を読みふけってる様子から、少年どころか俺にすら気付いていないようだ。

「このデブ!」

 どうしょうもなく腹がたったので、雑誌を奪い取り、そのまま頭を叩く。

「イタぁ、なにすんだよぉ。イツキ君! 今凄いイイトコだったのにぃ。死んだはずのヒロインが……」
「ウルセェ、アホ面で呑気に漫画読んでる場合か! 今、高校生っぽいガキに商品パクられたんだぞ」

 叫びながら、外を指差す。少年は既に駐輪場まで移動していた。もしかして自転車で来たのかも知れない。ヤベェ、早くしないと。

「えぇ? まっさかぁ。漫画じゃあるまいし」
「兎に角、アンタは一旦頭から漫画を離れさせろ! いいか、俺が戻って来なかったら直ぐ警察呼べよ!」

 そうして、急いで少年の後を追いかける。




「お客さん」

 背後から少年の腕を鷲掴みし、強制的に足を止めた。
「な、なんだよお前」

 激しく動揺する少年。すかさず、いつだったか特番で観た万引き監視員のオバチャンの台詞をそっくりそのままドスの利かせた声で投げかけてやった。

「お会計、間違っていらっしゃいますよね?」
 その後、少年との短い追いかけっこが終わり、コンビニの事務所まで強制的に連行した。
 だが、その時点で昼休みはとっくに終わっており、戻ってきた俺がサトコさんにど突かれたのは、いうまでもない。

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