ふん、ちょろいな。 学ランのポケットの中にある戦利品を握り締め、俺は密かにほくそえんだ。
やっぱ駅から大分離れたこの如何にも人が来なさそうなコンビニにしといて正解だったようだ。睨んだ通り、時給も今時ありえない位安いので、店員は殆ど老人かパートのオバサンで。昼過ぎで更に客が入らないせいか、今は太ったオッサン一人しかいない。オマケにカウンターで売り物の漫画雑誌を読むのに没頭している。 万が一見つかったとしても、逃げ切れる自信がある。 唯一の防犯カメラだって、ただのお飾り程度にしかない。 今時ファックスもATMも置いてない寂れたコンビニの防犯なんて高が知れている。 精々服装が判別出来るくらいだ。 多少着崩してはいるが、俺の着ている制服は店から一番近い場所にある高校と殆ど同じだから、見分けがつかないだろう。 後から気付かれても、店員が勝手に、俺があの高校の生徒だと勘違いしてくれる。 要するに、絶対捕まるわけがねえつーの。例え今見つかっても、あんなデブなんかが、俺に敵う訳がない。
「張り合いねぇなぁ、おい」
外に出る際に、もう二度と来ることはない店の感想をこぼしつつ、パーカーのフードを取った。 今日も変わらず、順調であった。店を出てからの異変に気付くまでは。
「あれ?俺のチャリがない」
いつの間にか店前に駐めてあった自転車が消えていたのだ。どこにいったのかと周囲を見回すが、どこにも見当たらない。 ひょっとして盗まれたんだろうか。
「マジかよ……ふざけんなー」
折角のいい気分が台無しだ。かと言って店に戻って店員に聞くわけにはいかない。 盗難に遭ったとはいえ、自分も店に同じようなことをしたのだから。
「まぁ、自転車一台くらい、いっか。元々兄貴のおさがりだし、ボロかったし」
何にしろ今回の収穫で元は十分とれる。 仕方無い、歩いて帰るかと、足を踏み出そうとした瞬間、
「お客さん」
店から出て来た見知らぬ男にいきなり腕を掴まれた。
「お会計、間違えていらっしゃいますよね?」
顔を引きつらせながらそう尋ねる男は私服だった。 もしかして、事務所かなんかで控えていた店員? どっちにしろ、この状況はヤバい。
「待てやゴラぁあっ!!」
隙をついて逃げ出すが、尋常じゃ無い、つーかもう人間じゃないレベルの俊足で俺を追い掛けてきた。 捕まったら殺されるという勢いで、必死に逃げた。だが、その十数秒後、俺はこの未確認生物によって呆気なく御用となった。
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