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悪ノリ遊戯ソシテ徒。
By 風鳳
2010/10/10 21:32
ハロウィンですね!
私も楽しみたくてやってしまいました!
正しくは、やらかして仕舞いました。ですね。
この度はハロウィンの小話にUmpireの皆様を総借りいたしました。
(本当に申し訳無いのですが、10月9日時点でのメンバーの皆様となります。)
と。此処での云々はこれ程にして、以下。
小話スタートです!



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p.1
By 風鳳
2010/10/10 21:34

街は朧月を無視し、ネオンによって明るさを保っている。
街を見下ろす様に存在するUmpire総統の仕事場である執務室には、何時もの様に高く積まれた書類に目を通し淡々と仕事を済ませていくアマリーと、その傍らで粛々とお茶の準備に取り組むスピリットの姿が有った。

「スピリットさん、喉が乾きました。」

「はい、只今。」

アマリーから注文を受けた後、間もなくスピリットは書類が並ぶディスクとは別の場所に設けられたティータイム用のテーブルへお茶の一式をセッティングする。
アマリーも仕事を切り上げ、少しばかり高価なティータイム用のテーブルと揃えたチェアに腰をかける。
お茶の準備が整ってから、アマリーは静かに、翡翠色に揺らめく緑茶を嗜む。

「そうだ、スピリットさんにもコレを」

一息付いてから、アマリーは胸ポケットから一通の封筒を取り出し、それをスピリットへと手渡す。
スピリットが受け取った封筒は深紅のキャンドルで封をされた柄のないオレンジ一色の封筒だった。

「これは?」

「読めば分かりますよ、その為の手紙じゃないですか」

「はぁ・・・では後ほど確認させて貰います」

アマリーにもっともなことを言われて、スピリットは改めて封筒に視線を落とす。
表にも裏にも何も書かれていない封筒の口を堅く閉ざしているキャンドルは、不気味な程細かく再現された蜘蛛の形を押しつけられていた。

「今開けて貰っても構いませんよ?その方が話が早く済みますし」

「今ですか?・・・では、失礼します」

アマリーの許可を貰った後で、スピリットはジャケットに忍ばせていたナイフを取り出し封を切る。
封筒の中身は、黒一色の厚紙に白字で文章が印刷された手紙が一枚。それは明日の午後6時にカジノで開かれるハロウィンパーティの招待状だった。

─招待状。
この度カジノにて開催致しますハロウィンパーティーに是非ご参加下さい。
ドレスコードは仮装が必須の条件となります。
尚、武器は此方が用意致しますので持ち込みは禁止とさせて頂きます。─

一通りの文章を読み終えてから、スピリットは目の前で悠然とお茶を楽しんでいるアマリーに視線を送る。

「ハロウィンパーティーを、折角ですからスピリットさんも楽しんで貰おうかと思いまして」

「では、この物騒な最後の一文は?」

「Trick or Treat.ハロウィンは悪戯有ってのものですよ?」

「悪戯・・・」

「あなた方の戦闘力の高さは十分知っていますから、殺傷されては悪戯じゃ無いですし、パーティーも台無しですからね」

「成る程。招待、ありがとうございます」

「いえいえ。あと。特別にスピリットさんには一足先にその武器を選んで貰いましょうか」

アマリーは言うと、お茶を終えた後で席を立ち、執務室の奥から大型のカートを引っ張り出してきた。

「さて、この中から好きなものを好きなだけ持っていって下さい。」

そう言うアマリーが運んで来たカートの上には奇天烈な形の銃が並んでいた。
それは言うなれば水鉄砲に似ていた。
ずらりと並べられた銃。
スピリットはその中で、普段から使いなれている大きさに一番近い銃を一つ手に取った。

「では。コレを使わせて頂きます」

「はい。ではパーティーを存分に楽しんで下さい」

ネオンが街を灯すその片隅で、独りおぼろげに笑う三日月はひっそりと沈み。
やがて太陽が朱に染まる。


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p.2
By 風鳳
2010/10/10 21:35

カジノのホールではシャンデリアが豪奢に煌めき。
ホールと同様に鮮やかに装飾されたテーブルにはあらゆる嗜好品が並び。
ホールには重低音がハイテンポで唸るジャズが流れている。

「うわーこれ食い放題とかマジやべーっつかウマッー!」

「本当ですね!これは、何処のお菓子屋さんのモノなのでしょうか?…気になります。」

普段見られない衣装に身を包んだヘルとユイコはホールに並べられたお菓子を前に舌鼓を打っている。

「お前達。あまり緩み過ぎるなよ」

お菓子の前ではしゃぐヘルとユイコを眼前に置き、仮装を決め込むヴィオレッタが一言掛ける。

「でもハロウィンは良いっすよねーやっぱ浮かれちゃいますよー」

ヴィオレッタの隣で、棒付きキャンディーをかじるのはハロウィン仕様に着飾ったアラモードだ。

「アラド。忘れてはいないな?」

「うぃっす!勿論っすよ。リリスちゃんに極上の笑顔を。ま。勝利を捧げるのは僕ですけどねー」

「はッ。おいマテよ。リリスちゃんにご褒美貰うのはこの俺だ!」

「えー冗談。ってか僕の前で煙草吸ったら即敗退させるから」

カチリ。
アラモードが片手にヘルへ銃口を突き付ける様は余りにも気迫に欠けていた。
アラモードが構える銃は、半透明に目立つ色合いのプラスチックで出来た玩具だった。

「おー怖ぇ・・・わぁったよ。りょーかい。」

それでもヘルは銃口を前に両手を上げ禁煙を口約束する。

「もー二人とも仲違い、止めてくださいね?」

三歩ほど離れた場所から、ユイコは相変わらずお菓子を吟味しつつ。アラモードとヘルのやりとりを人事として制止する。

「数の利は、余り期待できそうに無いな」

その様子を眺めて、ヴィオレッタは呟いた。

「ふふ。皆さんハロウィンを楽しんで頂けているようで何よりです」

ホールに設置されたスピーカーが突如としてしゃべりだす。
そしてUmpire副総統。リリスがホールの中心に現れた。
可憐な悪魔の姿でスポットライトを浴びるリリスは、いささか神話の女王。夜の女神を彷彿とさせた。
その両サイドにはハロウィンパーティーの主催者らしくドレスコードの手本を見せつけるアマリーと、漆黒のマントを羽織り、普段結っているアメジストの髪を下ろした、吸血鬼を演じるスピリットの姿。

「「この度は我がカジノのハロウィンパーティーにお集まり下さりありがとうございます。それでは、皆様。心行くまでハロウィンをお楽しみ下さい。」」

マイクを通してホール全体に響き渡るアマリーとリリスの声。

「あぁそれから。皆様に一つ申し上げますわ」

「せっかくのハロウィン。よろしければ此方から余興の一つでも提供させて頂きたい。我々Umpireより、僕。アマリー・チームと」

「私。リリス・チームとで別れゲームを行います」

「これから、Umpireのメンバーがプレイヤーとなり、このホールにてお菓子をばらまきながら戦いを始めます」

「その様子は特設ステージにて分かりやすくモニターに流して行きますので、そちらで観戦するも良し。」

「バトルの様子を間近で観戦しても問題有りません」

「「これは一つの余興に過ぎませんので、このゲームの勝敗をどう取って頂くかはお任せ致します。それではハロウィンパーティーの余興。お楽しみ下さい!」」

アマリーとリリスがゲームの開始を告げたのを合図に、BGMはより盛り上がり華やかな演出を始め出す。

「んじゃぁ。ゲーム始めましょー。先輩」

アマリー達と並びスポットライトを受けるスピリットへ、アラモードは火蓋を切った。



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p.3
By 風鳳
2010/10/10 21:36

時は少しばかり遡る。
アマリーはパーティー会場へ向かう途中でスピリットへ告げた。

「Trick or Treat.まぁ早い話が軽くゲームでもしてパーティーを楽しく盛り上げようと思いまして。」

「悪戯をしろというのは分かりました。ルールは?」

アマリーの半歩後ろで漆黒のマントを翻しながらスピリットは訊く。

「ホール内で軽くドンパチしてもらえれば結構です。ゲームの勝敗条件はプレーヤーの頭か心臓に当たる場所。または十カ所以上にお菓子を食らわせること。判定は僕とリリスがホールに設けた特設ステージのモニターで判断します。これは一つの余興ですから、他のお客様にも見て頂きますからね。」

「・・・分かりました。それにしてもチームが審判と事務とで分かれるには余りにも此方の分が悪いですが。」

「ハンデはとっくにあげましたよ?」

「・・・成る程。」

言われて、スピリットはマントの下に下げているホルダーに閉まった玩具のミニ拳銃に軽く触れた。
昨夜。アマリーが引っ張り出してきたカートの上に並べられた奇天烈な銃の数々。
その銃は火薬によって鉄の塊を吐き出す様な普段から慣れ親しんでいる物ではなく。
バネによってタンクに詰め込まれた甘いクリームが噴射されるショットガンや、毒々しい色に染められた直径2、3センチの飴や砂糖でコーティングされたチューインガムが出てくる様な代物だ。

「それから、向こうの情報はコレでおおかた分かりますし。」

アマリーは歩きながら、漆黒に染まった首輪と。補聴器に似た機械を取り出す。

「・・・分かりました。出来るだけ盛り上げましょう」

スピリットは漆黒の首輪と補聴器を装着する。

「─マイクテスト。マイクテスト。此方ミシェルです、聞こえますか?─」

スピリットが補聴器の装着を完了させた直後、もう一人のチームメイト、シェルの声が耳から直接脳へ届く。

「スピリットだ。此方からは音声に問題は無い・・・聞こえるか?」

スピリットは首輪を装着した後でミシェルに応えるよう独り言を呟く。

「─了解です。こちらも問題有りません。伝わりました。─」

「上等だね。こっちも二人の会話が良く聞こえる。後は任せたよ、ミシェルさん。」

スピリットとミシェルのやりとりを同じく補聴器から聞きながら、アマリーは満足げに歩を進めて行く。

「─了解しました。私は、モニタールームからスピリットさんをサポートさせて頂きます。よろしくお願いしますね。─」

「あぁ。此方こそ宜しく頼む」

「じゃぁ行きましょうか。くれぐれも負けないように」

「「─了解─」」

アマリーにミシェルとスピリットは揃って勝利を約束する。
ホールの入り口で先に待って居たリリスと合流し、ホールの中心でパーティーの始まりをアマリーとリリスが告げる中。
スピリットの視界に入り込んだのは、悪戯っぽく笑って見せるアラモードの姿だった。

「嗚呼。楽しもうじゃないか」

スピリットはアラモードの宣戦布告に受けて立つ。




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p.4
By 風鳳
2010/10/10 21:38

始まりの鐘は鳴り止んでいる。
ゲームは既に始まった。
ここは先手必勝と云うことで。
スピリットはアマリーの元から離れると人混みの中へ音もなく消えて行った。
アマリーがその姿を見届けた先には、ユイコが一人視界に入る。
どうやら、ハロウィンのお菓子に夢中の様子。

「うん。このお菓子も美味しいですねー・・・提供しているお店が分からないのが、残念ですね・・・」

「それは、副総統が一押しする洋菓子店のパティシエに作らせた今日の為のシフォンケーキだ。残念だが今日限りの菓子になる」

ホールの人混みに紛れて、ユイコは一人でパーティーに用意された料理の数々の情報を、愛用しているノートに書き込んで居た。
その背後に足音を消して立つスピリットはユイコの疑問符に頼まれもしないのに応える。

「まぁ。・・・それは残念ですねぇ。伯爵」

人混みの中に気配を消していたスピリットだったが、流石。審判として引き抜かれて来ただけは有る。
始めからスピリットには気付いていたのだろう。
一口。ユイコは今日だけと言われたシフォンケーキをほおばると、スピリットと向かい合い微笑んで見せる。

「今のうちに十分堪能しておくと良い」

「でしたら、伯爵もご一緒に・・・あぁでも伯爵は血の方がお好きかしら?」

「そうだな・・・」

「まぁ怖い。ユイコさんの血も・・・飲まれてしまうのでしょうか。」

「嗚呼。お前の血液ならこのチョコクッキーに絡めて頂きたいものだ・・・。さぞ美味いだろうな。」

「風変わりな伯爵」

ゲーム中のそれらしい二人の会話は、このハロウィンパーティーの余興と題されているだけあってホール全体に響き渡る。
ユイコとスピリットの距離は近い。
お互い視線を絡めながら、その次の行動を探り合う。
スピリットは極力神経を使い、ユイコからゆっくりと視線をはずし、お菓子の溢れるテーブルからパラソルチョコレートを口へ運ぶ。

「流石、装飾でしかないチョコレートにも抜かりは無い。・・・ユイコもどうだ?」

「あら。ありがとうございます・・・」

警戒心を解いてチョコレートを差し出すスピリットに、ユイコはそっと手を伸ばす。
これは余興なのだから。

「イタっ・・・あ。」

パラソルチョコレートは結局ユイコに手渡されるコトはなく、まるで子供騙しの様な手口でスピリットはパラソルチョコレートの先をユイコの額に押し当てる。
それは何処までも無邪気な笑顔で。
その瞬間ホールに流れていたBGMは少しばかりテンポの悪い残念そうな音楽に変わる。
動画の画面に映し出されている参加者達の写真の中で、ユイコの写真の明度が落とされ、名前の隣に赤い罰印が付けられた。
意図も簡単に、ユイコは敗退した。

「悪いな。」

「もー。残念過ぎますよー・・・ユイコさんはもっと戦えるんですよ?」

「知ってる。コレは遊びだ」

「んー・・・不服です」

ユイコは納得出来ない表情を素直に浮かべて、結局派手に使えなかったバニラクリームの詰まった鉄砲を残念そうに弄ぶ。

「─3時方向、ヘルさん来ます。─」

「失礼。」

刹那脳に届くミシェルの声に、スピリットの反応は早かった。
スピリットは一言入れてからユイコの後ろへ周り、ユイコが何気なく触っていた鉄砲を素早くユイコの腕ごと3時の方向へ向ける。
スピリットはユイコを盾に、ヘルと対峙する。

「わー。案外ダセぇっすね」

ヘルはお菓子が並べられたテーブルへお構い無しとばかりに飛び乗ると、ユイコの後ろへ隠れるスピリットを見下ろす位置で銃を構え、ひきつった笑顔をスピリットへ送っている。

「せっかくの菓子を台無しにするな。」

スピリットはユイコの真後ろに立ったまま、ユイコの耳元でヘルへ言う。

「ゲーム中にそんなん気にしてられないっしょ」

ヘルは足下に転がるクッキーを踏み砕きスピリットへ飛びかかる。
一瞬でも宙へ浮いたヘルをスピリットは逃さない。ユイコの手を握り、バニラクリームをヘルへ撃ち出す。
バニラクリームは確かにヘルを捕らえ、銃を構えていた腕を汚す。
しかし、ヘルも砂糖でコーティングされた丸いチューインガムでスピリットを狙い撃つ。
ユイコを盾として居たスピリットも、流石に積極的にはユイコを盾に出来ず、ユイコからそっと離れるとチューインガムをぎりぎりで避ける。頬を掠めたか、スピリットは体制を崩した。

「アレ。結構半端じゃないすか」

付着したバニラクリームを舐め取りながら、片膝を付いたスピリットにヘルは間髪入れずにガムを撃ち出す。

「─7時方向より50メートル先アラモードさん、1時方向より60メートル先ヴィオレッタさん接近中です─」

「・・・しょうがないな」

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた後。スピリットはマントを翻し、ヘルの撃ったガム4発を頭と心臓に気を付けて身に受ると、体制を低くしたまま、テーブルクロスを潜りその場を逃れる。
ヘルはその一瞬スピリットの姿を見失う。

「ミシェル、総統と繋がるか?」

「─はい。─」

スピリットはテーブルクロスの中でミシェルと連絡を取る。
どうやら、首輪に内装された特別のマイクにより、通信機での会話はホールには流れ出ていない様だ。

「─苦戦してますね、スピリットさん。後6回攻撃を受けたら終わりですよ─」

数秒もしないうちに、今度はアマリーの声が脳へ届く。

「分かってます。・・・総統。申し訳有りません」

スピリットは深くアマリーに謝罪を告げた。

「─…そうですか・・・しょうがないですね。スピリットさんが気にすることでは有りません。これは余興なのだから。─」

アマリーが告げた後、通信は途絶えた。
スピリットは深くため息を付いてテーブルクロスを潜り抜ける。

「見ぃー付けたっ!!?」

テーブルの下から出たスピリットをヘルは素早く見付け出す。
しかしスピリットが現れた場所は先ほどヘルが台無しにしたテーブルを挟んだ向こう側だ。
ヘルの視界にはスピリットがどこか悲しげな表情を浮かべているのが目に映ったが、ヘルは構うことなくスピリットの頭を狙う。
寧ろ相手の悲壮に自らの勝気を感じている。
が。
ヘルの思考回路は突如として遮断された。
次の瞬間、スピリットにより蹴り上げられたテーブルはその上に乗せている嗜好品を道連れにヘルをめがけて倒れ込む。
ぎょっ。と現状を把握しているヘルの脳が視覚のショックで運動神経を麻痺させている。
その場に立ちすくむしかないヘルは見事にケーキを頭からかぶるコトになってしまった。
ホールにまた、切なげな音楽が流れる。
ヘル、敗退。

「・・・・・・・・・・・・すまない。」

「テメェ・・・マジ許さねぇからな!」

「はわぁ・・・あぁあぁ。」

何処までも悲しげにヘルへ視線を落とすスピリットと、限りない怒りを露わにするヘル。
そして、その状況を誰よりも間近で眺めただただ呆然とするしかないユイコ。
時が一瞬止まった気がした。
周囲の参加者も何事かと輪を作る。人口密度が其所を中心に上がって行く。

「─6時アラモードさん8メートル、10時ヴィオレッタさん10メートル、接近中です─」

ミシェルの報告を受け、その静寂をスピリットが最初に破る。
スピリットは数歩歩き、別のテーブルに置かれたシフォンケーキを丁寧に切り分けると、トッピングも忘れることなく飾り付ける。
そのケーキを立ち尽くすユイコへ、今度は悪戯では無いと視線で云い。そっと差し出す。

「悪かったな・・・後は好きなようにパーティーを楽しめ」

「もーしょうがないですねぇ」

ユイコも流れのままにケーキを受け取り、どこか腑に落ちない表情のままケーキを貰う。

「あークソ有り得ねぇッ誰だよ菓子台無しにすんな言ったヤツっ!?」

「お互い様だ。」

ヘルを後ろに、スピリットは人混みをかき分け消えて行ったら。



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p.5
By 風鳳
2010/10/10 21:45

ガッシャァァンッ!!!

派手な音がホールに響き渡る。
その音に、そしてその後の状況に誰もが眉をしかめている。
もちろん、その様子を眺めていたアマリーとリリスもその中の一人。

「案外派手なコトするのね」

「案外、アレが素なのかもしれないね」

リリスは騒然と映るモニターを眺めてクスクスと笑い、アマリーは苦笑を浮かべている。
先程、スピリットから入った連絡で心の込もった詫びを聞かされ、スピリットの行動は分かって居たのだが。
本当にケーキを台無しにするとは・・・。
パティシエにちゃんと詫び状を書かせなければいけないな。とアマリーは思う。
さて、まだ前半戦が終わったばかり。
手強いプレイヤーは未だ居るのだから。
ゲームはこれから後半戦だ。

「ミシェル」

「─1時方行9メートル先、ヴィオレッタさんの後方に居ます。アラモードさんは11時方向、8メートル先で此方を捉えています─」

「よし。」

未だ、ひっくり返されたケーキを囲む群衆は消えない。
スピリットは人混みから離れ、壁を背にもたれ掛かりホールを視線だけで見渡す。
ミシェルからの報告を受けて、スピリットは1時の方へ体を向ける。

「さて、やるか。」

スピリットは姿勢を正すと通りかかったウェイターから赤ワインの入ったグラスを一つ奪い一気に飲み干す。
空になったグラスをテーブルに置き去りにして、スピリットは駆ける。
カチリ、カチリ。
スピリットはアラモードとの距離を縮めながらアラモードを狙い撃つ。
スピリットの銃は引き金を引く度に赤や青のキャンディーが吐き出された。
アラモードもすかさずイチゴクリームの銃を抜く。
キャンディーとイチゴクリームの銃撃戦が繰り広げられた。

「まーたテーブルひっくり返すつもりっすか?」

イチゴクリームの香りに乗せて、アラモードはスピリットに問いかける。

「止めてくれ。パティシエ達に申し訳無いだろ」

スピリットのキャンディーはなかなか思う様な軌道を通らない様で、何度かアラモードを掠るが未だ一個も当てられていない。

「良かったー、ま。僕もお菓子蹴散らしたりしないんで、大丈夫ですケド」

アラモードは笑顔をスピリットへ向ける。

「それは良かった、これ以上パティシエ達に不快感を持たれちゃ客として気まずいからな」

スピリットは交戦する中で、4発。
不覚にも、足と腕、それから心臓から少し離れた場所をイチゴクリームで汚してしまった。
アラモードは平然とスピリットを捉えている。
キャンディーの銃はどうやら銃でありながら、長距離は向いていない様だ。
また人混みの中へ紛れるか・・・。
そんなコトを考え視界で人口密度の高そうな場所を探る。

「─4時方向に後退して下さい─」

スピリットは表情を変えることなくミシェルの指示に従う。
アラモードは人混みに消えるスピリットを追うことなく、人混みを挟んで向かい合うヴィオレッタとアイコンタクトを取り、ぺこりと軽く頭を下げる。
ヴィオレッタもアラモードと視線を交わして軽くうなずくと、大型の銃を握り、人混みの中へゆっくりとスピリットを狩りに出る。
人混みといえど、繰り広げられる戦闘の凄まじさを目の当たりにした誰もがこの余興に巻き込まれたくは無いのだろう。
ヴィオレッタが踏み込む度に人混みは徐々に散って行く。
そして、お菓子にまみれたスピリットの姿が明白になる。

「また、大げさな武器を選んだもんですね」

「パーティーならこれくらいの派手さは必要だろう?」

「それもそうか・・・その衣装も似合ってますよ、ヴィオレッタ」

「そうか、ありがとう・・・お前の仮装も様に成ってるじゃないか、伯爵。」

笑顔で向き合うスピリットとヴィオレッタ。
だが、そこに和みなど一欠片も無い。
ヴィオレッタが銃を構え引き金を引く。
飛び出して来たのは通常の3倍の大きさであろう金平糖だ。

「ヴィオレッタが一番物騒だな」

飛来してくる物を確認し、スピリットは少しばかり気を引き締める。

「そうか?ならせいぜい痛い思いをしない様に気を付けるんだな」

的をスピリットだけに絞り、ヴィオレッタは引き金を引き続ける。
玩具とはいえ、50センチはあろう銃を扱うのは重労働だろうに、ヴィオレッタは隙を与えてやる程甘くはない。

「なんて無茶な」

一切の抜かりの無さ。その体制のヴィオレッタを前にスピリットは呟く。

「そうか?私はただそれらしく銃を扱っているだけだ、無茶と言えばスピリットの方だろ?あんな派手にやらかすとはな」

ヴィオレッタは楽しげに笑みを浮かべ、ホールに流れるジャズに合わせステップを踏む。
踊る様にスピリットとの距離を詰め、スピリットの心臓へ銃口を構える。
イチゴクリームの甘ったるい香りが、ヴィオレッタにも届いた。

「吸血鬼が相手なら狙うは此処だな・・・まぁこの距離なら痣くらいで済むだろ」

「容赦無しだな」

「当たり前っすよ先輩。僕負ける気無いんで」

ヴィオレッタに詰められたスピリットの後頭部に、背後から銃を突き付けるアラモードが冷静に言う。

「終わりだな。スピリット」

スピリットと限りなく近い位置で、ヴィオレッタのエメラルドの瞳と、銀の瞳が煌めいた。

「あぁ、みたいだな」

ヴィオレッタのエメラルドの瞳と良く似た翡翠の瞳が揺れる。
スピリットは三日月に笑った。
スピリットは最後に悪足掻き、至近距離でヴィオレッタの心臓を狙いヴィオレッタより一瞬早く引き金を引く。
しかし、それは空しく、スピリットは後頭部にイチゴクリームと心臓に金平糖を食らう。

「っぶねー・・・・・・」

アラモードは間一髪。目の前のスピリットを仕留めることに成功したのだ。
しかし、判定の結果ヴィオレッタは敗退。
すこしばかり悔しそうな表情を見せている。

「ま。コレで僕の勝ちっすね、先輩。」

「お前の?おいおいこれはチーム戦だぞ。」

一言アラモードへ声をかけるスピリットの表情は未だ明るい。

「え?」

その刹那だった。甘い香りがアラモードの鼻をつく。
それはスピリットが浴びたイチゴクリームや周りのお菓子のそれとは違う。
その正体に気付いた時には遅かった。
白やピンクのマシュマロが辺りに飛来してきている。
それは間違いなくゲームの参加者を狙っていた。
アラモードが視線をスピリットから人気の引いている正面に移す。
其所にはマシンピストルを構えるミシェルの姿が有った。
ミシェルは無表情で、的に集中し引き金を引く。

「あ・・・ミシェルちゃん?え、先輩囮!?ちょっタンマって!」

無数のマシュマロがアラモードはもちろん、ヴィオレッタやスピリットさえも無差別に攻撃を仕掛ける。
体中に地味な痛みを受けながらマシュマロを浴びた審判チームの唯一の生き残りだったアラモードもこのマシュマロにはかなわなかった。
この一撃で、勝者が決まった。
そして、ホールに流れていたBGMが静まり返りホールの照明が落とされる。
スポットライトはこのゲームの勝者となったミシェルを照らし出した。
BGMはゲームの勝者を祝うかのように盛大なクラシックを奏で始めた。
ミシェルはマシンピストルから離れ、にこやかに手を振っている。

「さて、皆様。このハロウィンパーティーの余興。楽しんで頂けましたでしょうか?」

「ゲームの結果は僕、アマリー・チームの勝利と決まりました!皆様の予想通りとなりましたか?」

「「余興はこれまで、皆様、まだまだこのハロウィンパーティーをお楽しみ下さい!!」」

ホールの中心では、余興を始めた時の様に、アマリーとリリスが余興を締める。
黄昏の中のTrick or Treat.
盛大なお菓子塗れの悪戯が今、一時幕を下ろす。

その後、リリスの元へ有りと有らゆる菓子がUmpireのメンバーから贈り届けられた事はまた別の話─。

END。

[編集]
PS.
By 風鳳
2010/10/10 21:48
***

太陽は落ち、今空には月が浮かんでいる。
BAR・Dropにて。
パーティーでの役目を終えて、俺は一人バーへ足を運ぶ。
もちろん仮装は解き、シャワーも済ませて夕飯を目当てにやって来たのだが。

「Trick or Treatやでー」

何時もの様に名無は軽快に挨拶を投げかけてくる。だが今日はその言葉に思わずひきつる。

ぎょ。

「何やー「ぎょ」て、ちょっ「ぎょ」ちゃうやんなぁ?何なん「ぎょ」て。」

言ってはいない。顔に出ていたんだろう。

「あぁ、ハロウィンは此処にも広まってるんだなと。」

「当たり前やん、何言うてんの自分。ってかコスもしてへんし、ハロウィン舐めとるやろ?」

「コスって。嫌、知らないのかお前。俺はもう十分過ぎる程堪能しんだよ」

「あ。スピリットくんお疲れ様ー。」

「ディノも居たのか。お疲れ。」

バーに顔見知りを見付け、空いていたその隣に座らせてもらう。

「今日は大変だったねぇ」

「見てたのか・・・」

知らないなら知らないで良いんだが、知られているのも気まずい。

「うん!スピリットくんの戦闘シーン間近で見ちゃったもんねー気付いて無かったでしょ?」

「悪いな。」

「良いって、そんな雰囲気でも無かったしね」

「ディノの凄さが良く分かった」

「あはは。でもテーブルひっくり返すとか有り得ないケドね。あれ自棄?・・・ってゆうかすごく甘い匂いするね。」

「しばらく取れないんじゃないかと思う。」

悪戯用のクリームの香料が此処まで強力だったことに驚いているのは何より俺だろう。
もっと慎重に避けるべきだった。
髪に付けられたから相当の日数は覚悟しなければ成らないだろう。
くしゃりと人工的なイチゴの香りがする髪を掻き上げる。
その指先が既に鬱陶しい程甘い。

「髪くらい鬱陶しいなら切っちゃえば良いのに」

言ってディノは片手に持つハサミを開閉する。

「・・・それはちょっと。」

待て。何処から取り出したんだそのハサミ・・・。

「Trick or Treatだよ。なんか奢ってくれたらハサミ仕舞うよ。」

「ナナミ。ディノにケーキを!」

「まいどー。」

ナナミにケーキを出させ、なんとかディノのハサミを仕舞わせることが出来たか・・・。
隣でディノは限定か最高値かのケーキで迷っているが、まぁ今日くらいはそれで悪戯もチャラになるなら安いとさえ判断できる。

「いやぁ色香も武器やし、かわいらしゅうてええやん。うさミミ付けたら最強やで?」

「止めんか」

よくそんなうさミミを集めたなとすら思う。・・・あの雑貨屋で買いあさったのか?
名無は紫色のうさミミをチラ付かせるがもう勘弁してくれ。

ハロウィン。今日ほど満喫した日は無いだろう。

***


[編集]
後書き。
By 風鳳 彌
2010/10/10 22:13

長々と。
ココまでお付き合い下さり本当にありがとうございますっ!

ハロウィンを乗っ取りスピリットが皆様へ盛大なイタズラをさせて頂きました!←。

そして。
何の前触れも無くお借りしましたUmpireのメンバー方々。
刺草様。
HAL様。
ざくろ様。
凪様。
成田様。
斑鳩様。

並び。調子に乗って最後に友情出演と題しお借りしてしまいましたかのと様と名無さん。あずさんとディノ君に感謝します!

ありがとうございます!

口調等に違和感有りましたらごめんなさいッ!
イタズラしてゴメンなさいっ!
自重を棄てて紡いだ最早俺得なハロウィン小話でした(バックバク)。

そして物語を紡いでいた楽しい時間をありがとうございました。

失礼します。


[編集]
ありがとうございます!
By HAL
2010/10/12 23:24
風鳳さん、こんばんは!
アラモードの親のHALです。息子がお世話になっております。
 
ハロウィンSS、読ませていただきました!以前のスピリットさんのSSも素敵でしたが、今回はキャラクターが多くて賑やかですね!私の場合はきっとごちゃごちゃになるのが目に見えていますが、こんなに大人数をちゃんと分かり易く動かせている風凰さんは流石です……!
 
Umpireらしいイタズラ心いっぱいのパーティと、お菓子な武器がすごく可愛いです!そしてうちのアラドが最後まで奮闘している……(笑)先輩を舐めきった態度ですみません;でもアラドらしさが出ていて楽しいです!
パーティの後の片付けは本当に大変そうですね。甘ったるい匂いが会場全体に染み付いていそうです^^甘いもの好きにはたまらないかな?
 
それでは本当にありがとうございました!また風凰さんのSSが読めることを願っております。

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HAL様へ!
By 風鳳 彌
2010/10/13 21:32
こんばんは。

この度はアラモードさんをお借りしまして、ありがとうございましたっ!

ハロウィンを迎え。
気が付けばUmpireのメンバーも増え、その嬉しさとノリで書いていました。

未、実際に絡んだことの無い方々をお借りするコトの心拍数といったら…←。
そんな緊張感と物語を膨らませる楽しさとでの結果。

アラモードさんをお借りしたHAL様からそう言って貰えると嬉しくもあり、やはりほっとしています。

文章を見て貰う以上で分かりやすいと言って貰えることが何より有り難いですね!
もう本当にありがとうございます。

スピリットとアラモードさんの先輩後輩としてのやり取りは書いていて楽しかったです!
お借りしていて。“らしさ”が難しかったですが楽しんで頂けて嬉しく思いますっ。

あ。確かに後片付けは大変そーだ…。スピリットはひっくり返したモノはちゃんと全部一人で片付けるそうですよ。その後ろ姿の悲しげなコト。(笑)

此方こそ!
暖かいお言葉と物語を楽しんで頂けて。嬉しいです。
ありがとうございました!

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