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始まりの鐘は鳴り止んでいる。 ゲームは既に始まった。 ここは先手必勝と云うことで。 スピリットはアマリーの元から離れると人混みの中へ音もなく消えて行った。 アマリーがその姿を見届けた先には、ユイコが一人視界に入る。 どうやら、ハロウィンのお菓子に夢中の様子。 「うん。このお菓子も美味しいですねー・・・提供しているお店が分からないのが、残念ですね・・・」 「それは、副総統が一押しする洋菓子店のパティシエに作らせた今日の為のシフォンケーキだ。残念だが今日限りの菓子になる」 ホールの人混みに紛れて、ユイコは一人でパーティーに用意された料理の数々の情報を、愛用しているノートに書き込んで居た。 その背後に足音を消して立つスピリットはユイコの疑問符に頼まれもしないのに応える。 「まぁ。・・・それは残念ですねぇ。伯爵」 人混みの中に気配を消していたスピリットだったが、流石。審判として引き抜かれて来ただけは有る。 始めからスピリットには気付いていたのだろう。 一口。ユイコは今日だけと言われたシフォンケーキをほおばると、スピリットと向かい合い微笑んで見せる。 「今のうちに十分堪能しておくと良い」 「でしたら、伯爵もご一緒に・・・あぁでも伯爵は血の方がお好きかしら?」 「そうだな・・・」 「まぁ怖い。ユイコさんの血も・・・飲まれてしまうのでしょうか。」 「嗚呼。お前の血液ならこのチョコクッキーに絡めて頂きたいものだ・・・。さぞ美味いだろうな。」 「風変わりな伯爵」 ゲーム中のそれらしい二人の会話は、このハロウィンパーティーの余興と題されているだけあってホール全体に響き渡る。 ユイコとスピリットの距離は近い。 お互い視線を絡めながら、その次の行動を探り合う。 スピリットは極力神経を使い、ユイコからゆっくりと視線をはずし、お菓子の溢れるテーブルからパラソルチョコレートを口へ運ぶ。 「流石、装飾でしかないチョコレートにも抜かりは無い。・・・ユイコもどうだ?」 「あら。ありがとうございます・・・」 警戒心を解いてチョコレートを差し出すスピリットに、ユイコはそっと手を伸ばす。 これは余興なのだから。 「イタっ・・・あ。」 パラソルチョコレートは結局ユイコに手渡されるコトはなく、まるで子供騙しの様な手口でスピリットはパラソルチョコレートの先をユイコの額に押し当てる。 それは何処までも無邪気な笑顔で。 その瞬間ホールに流れていたBGMは少しばかりテンポの悪い残念そうな音楽に変わる。 動画の画面に映し出されている参加者達の写真の中で、ユイコの写真の明度が落とされ、名前の隣に赤い罰印が付けられた。 意図も簡単に、ユイコは敗退した。 「悪いな。」 「もー。残念過ぎますよー・・・ユイコさんはもっと戦えるんですよ?」 「知ってる。コレは遊びだ」 「んー・・・不服です」 ユイコは納得出来ない表情を素直に浮かべて、結局派手に使えなかったバニラクリームの詰まった鉄砲を残念そうに弄ぶ。 「─3時方向、ヘルさん来ます。─」 「失礼。」 刹那脳に届くミシェルの声に、スピリットの反応は早かった。 スピリットは一言入れてからユイコの後ろへ周り、ユイコが何気なく触っていた鉄砲を素早くユイコの腕ごと3時の方向へ向ける。 スピリットはユイコを盾に、ヘルと対峙する。 「わー。案外ダセぇっすね」 ヘルはお菓子が並べられたテーブルへお構い無しとばかりに飛び乗ると、ユイコの後ろへ隠れるスピリットを見下ろす位置で銃を構え、ひきつった笑顔をスピリットへ送っている。 「せっかくの菓子を台無しにするな。」 スピリットはユイコの真後ろに立ったまま、ユイコの耳元でヘルへ言う。 「ゲーム中にそんなん気にしてられないっしょ」 ヘルは足下に転がるクッキーを踏み砕きスピリットへ飛びかかる。 一瞬でも宙へ浮いたヘルをスピリットは逃さない。ユイコの手を握り、バニラクリームをヘルへ撃ち出す。 バニラクリームは確かにヘルを捕らえ、銃を構えていた腕を汚す。 しかし、ヘルも砂糖でコーティングされた丸いチューインガムでスピリットを狙い撃つ。 ユイコを盾として居たスピリットも、流石に積極的にはユイコを盾に出来ず、ユイコからそっと離れるとチューインガムをぎりぎりで避ける。頬を掠めたか、スピリットは体制を崩した。 「アレ。結構半端じゃないすか」 付着したバニラクリームを舐め取りながら、片膝を付いたスピリットにヘルは間髪入れずにガムを撃ち出す。 「─7時方向より50メートル先アラモードさん、1時方向より60メートル先ヴィオレッタさん接近中です─」 「・・・しょうがないな」 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた後。スピリットはマントを翻し、ヘルの撃ったガム4発を頭と心臓に気を付けて身に受ると、体制を低くしたまま、テーブルクロスを潜りその場を逃れる。 ヘルはその一瞬スピリットの姿を見失う。 「ミシェル、総統と繋がるか?」 「─はい。─」 スピリットはテーブルクロスの中でミシェルと連絡を取る。 どうやら、首輪に内装された特別のマイクにより、通信機での会話はホールには流れ出ていない様だ。 「─苦戦してますね、スピリットさん。後6回攻撃を受けたら終わりですよ─」 数秒もしないうちに、今度はアマリーの声が脳へ届く。 「分かってます。・・・総統。申し訳有りません」 スピリットは深くアマリーに謝罪を告げた。 「─…そうですか・・・しょうがないですね。スピリットさんが気にすることでは有りません。これは余興なのだから。─」 アマリーが告げた後、通信は途絶えた。 スピリットは深くため息を付いてテーブルクロスを潜り抜ける。 「見ぃー付けたっ!!?」 テーブルの下から出たスピリットをヘルは素早く見付け出す。 しかしスピリットが現れた場所は先ほどヘルが台無しにしたテーブルを挟んだ向こう側だ。 ヘルの視界にはスピリットがどこか悲しげな表情を浮かべているのが目に映ったが、ヘルは構うことなくスピリットの頭を狙う。 寧ろ相手の悲壮に自らの勝気を感じている。 が。 ヘルの思考回路は突如として遮断された。 次の瞬間、スピリットにより蹴り上げられたテーブルはその上に乗せている嗜好品を道連れにヘルをめがけて倒れ込む。 ぎょっ。と現状を把握しているヘルの脳が視覚のショックで運動神経を麻痺させている。 その場に立ちすくむしかないヘルは見事にケーキを頭からかぶるコトになってしまった。 ホールにまた、切なげな音楽が流れる。 ヘル、敗退。 「・・・・・・・・・・・・すまない。」 「テメェ・・・マジ許さねぇからな!」 「はわぁ・・・あぁあぁ。」 何処までも悲しげにヘルへ視線を落とすスピリットと、限りない怒りを露わにするヘル。 そして、その状況を誰よりも間近で眺めただただ呆然とするしかないユイコ。 時が一瞬止まった気がした。 周囲の参加者も何事かと輪を作る。人口密度が其所を中心に上がって行く。 「─6時アラモードさん8メートル、10時ヴィオレッタさん10メートル、接近中です─」 ミシェルの報告を受け、その静寂をスピリットが最初に破る。 スピリットは数歩歩き、別のテーブルに置かれたシフォンケーキを丁寧に切り分けると、トッピングも忘れることなく飾り付ける。 そのケーキを立ち尽くすユイコへ、今度は悪戯では無いと視線で云い。そっと差し出す。 「悪かったな・・・後は好きなようにパーティーを楽しめ」 「もーしょうがないですねぇ」 ユイコも流れのままにケーキを受け取り、どこか腑に落ちない表情のままケーキを貰う。 「あークソ有り得ねぇッ誰だよ菓子台無しにすんな言ったヤツっ!?」 「お互い様だ。」 ヘルを後ろに、スピリットは人混みをかき分け消えて行ったら。
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