ぐしゃり、頭の潰れた音。それとも自らが握っていたアルミ缶の潰れた音だっただろうか。目玉が機能せず、声帯も微弱な声量しか出せないこの体では確認することは出来ない。まあどちらでもいい、どうせどちらであろうと私という人物が今虫や蟻の視点と同じように這いつくばって踏めばつぶれるのような虫の命を灯していることには全く変わりはないのだから。ふうと息を吐く妄想をした、口はもう私のいう通りには動きはしない。残っている脳髄も軈ては低下し意識を失うだろう。その時には吐息をはくという妄想さえ出来なくなっているのだろう、私は妄想した、今出来ることを精一杯することにした、もう消えてしまってもおかしくない死を目前とした状態だというのにおかしなことだ。死への恐怖はまるでない、あるのはふう、やれやれというぐらいの軽い落ち着き、生への切望さえ伺い知れることはない。
私はこんなにも淡泊だっただろうか、生きることを本能とする生物に為れなかったのだろうか、そんな思いしかない、自然界でいえば子孫も残せなかった私は負け組なのだろう。この体には立派な子宮がついて子供が育成出来た筈なのにそれさえもままならない体たらくさ、まったく自分の体ながら恥だと思った。
吐息を妄想で吐こうとした、しかしそれが出来ない。思考が海に投げ出されたように青く、白くなっていく。意識が遠退いていくとはまさにこの事なのだろうか。そうだとしたら死ぬ前に体験できてよかった。パズルのピースが外れるように音を立てて一枚一枚が抜けていく、色彩がなくなり鮮やかだった視界はモノクロのように移り代わっていく。
私は死ぬんだ―――。
漠然とした結果に息を詰められて私は死んだ。
死んだら彼が**するのだろうか、其だけが気掛かりだ。







ずっとずっと
を愛してる

注意
01 遠山金太郎
02 一氏ユウジ
03 白石蔵ノ介
04 忍足謙也
05 千歳千里

後書き





‐‐‐‐‐‐







俺はきっと**などしないだろう。何故ならば彼女のことを心の奥でずっと思い続けるのだから。心の中にいる彼女は俺を優しく包んでくれる、例えそれが妄想であったとしても、俺にとってみればそれでもいい。彼女であればなんだっていい、俺は瞼を閉じた。瞼の下に映った彼女の死体はとても美しい、禁断の果実を食べた"聖書"のイブはこんな感じだったのではないだろうか。恍惚が頭を駆けずり回り、脳内を麻薬が汚染しているような快楽に満ち足りた感覚。彼女を独占出来たという至福に揺られる脊髄。享楽である。脳が彼女の最後を焼き付ける。何度も薄れることがないように、記憶に焼き付ける。
やながて下が騒がしくなる。全く、余韻に浸らせてもくれない。俺は恍惚からの快楽を虫殺し、悲痛に顔を歪める。全ては演技だ。警察になど捕まるものか。
下から悲痛な顔をみた生徒が騒音じみた声を聞こえた。どうせ勘違いしかしない奴等の叫びだ、答えるように足の力を抜かしてへたり込むと騒音が爆音に代わる。五月蝿い煩わしい音ながら同情を浴びるのは成功したのだと確認出来た。ああ全くつまらない世界だ。彼女の事を考えられない世界なんてこんなものか。
へたり込んだ足から力を出して立ち上がる。全力疾走を心掛けて彼女の死体に近寄ると彼女はにっこりと笑ながら死んでいた。無性に嬉しくなる。やっぱり彼女も嬉しいんだ。俺に殺されて嬉しかったんだ。
俺は彼女の前で泣いてみせた、彼女は死体で見ることなど出来ないのだけれども俺は嬉し泣きをしてみせた。目頭からポロポロと血が溢れ出す。涙とは血から出来ているそうだ。俺は涙を拭いもせずに泣いた。
俺は今が一番幸せだ。





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