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駆けずり回る快楽に歯止め等ない。至福は満ち足りたら狂気になると誰かがいってもいたような気がするが、俺にとってみれば、狂気が満ち足りた至福になるのだ。彼女を無理矢理抱えてあのとき屋上から落としたように、狂気によってしか至福は生まれはしない。

×××、彼女に会ったのは一年生の頃だった、俺達と一緒にマネージャーとして入ってきた一年生。話すと何処か楽しくなる、魅惑的な話術、俺はそれに憧れていた。目付きが悪い俺はどんな人間からも畏敬されていて、低い声は威嚇をしている動物みたいだと、昔陰口を叩かれたことがあったからなのだろう。だから話しているだけで楽しくなって好印象になれる×のことを羨ましく思っていた。切っ掛けはそんなもの、羨ましいが愛らしいにかわったのは、彼女が公園のブランコに腰掛けて一人悲しげに泣いていたのを目撃してから。悲しげに睫毛を伏せて願いかけるかのような姿をみたあの時から。誰にも見せない小さな殻に閉じ籠った雛鳥のような姿を見てから、俺の気持ちは愛しいという感情で変わらへん。愛らしい泣き顔、その顔、俺の、ものにしたかった。俺の物になった。愛しい、×。
その死体を抱いたときにどれほどの狂喜が胸に渦巻いたか。まるであの時の俺は鬼のようだった。狂乱を舞いながら、死を喜ぶ人間ならざるもの。殺人鬼、平気で人を殺せるもの。俺は純粋に彼女を抱く欲に溺れながら、人間からの疎外を受け入れていく、それも罪の罪悪感が滑りを早め、罪悪感という快楽に酔いしれる道具になる。彼女を殺したことを**などしない。**などしてたまるものか。彼女は俺の物だ。誰にも渡さない。この繋がりだけは、渡さない。



屋上から見上げる景色が何処か風情があっていい、彼女はそういって微笑んだ。俺からみたら完璧な笑顔、白石みたいやと笑ったら、拗ねるように返された。大切な思い出の場所、やから、たとえ今が授業中であろうとも、俺がここにきたのは普通で日常的なことだった。そこでフェンスにのぼって今でも風が強く吹けば吹き飛んで転落してしまいそうな場所にいる、白石を見つけるまでは。白石は虚ろな顔をして、空を見上げる。快晴、晴天、そんな言葉が似合う頭上は彼女が死んだ日と同じようにきれいな海の青さを出していた。
「はははっ。なんや白石、死にそうやなあ、あはははっ、聖書?バイブル?そんなんやなかったんか?聖書には自殺は罪て書かれとらんかったか?」
「……謙也。」
薄い色素の髪が震えながら白石は俺を見据える。瞳には生気がない、死に対する欲望だけがありありと伺えた。俺は両手を伸ばした、白石は突き上げられた俺の拳を焦点の合わない目で見つめながら俺を見る。
「なあ白石、死ぬつもりなんやろ。やったらもっと右側にいかんと×と同じ場所じゃないで。」
「……あははっ、なんやそれ、まるで×が死んだところ見たみたいやないか殺人犯の謙也クン。」
「ありゃ、なんや、白石も気がついとったんか。だめやなぁ、俺、演技力ないかも知れへんな。」
口をつり上げる、白石は挑発するように俺に笑った。その笑みが見たことない、白石の怒りを表している。憤怒している白石を見たのは初めてだった、人間らしい感情なことだ、俺にはそんな感情さえないというのに。
「…謙也の演技は完璧と言えるほど凄かったで、でもな、このフェンス登ってみると分かるんやけど、アルミ缶なんか持ちながら登れるほど登れ優しくなければ低くもないんや。」
「そういえば×はそんなもの持ってたなあ。あはは、いつから俺のこと疑ってたん?」
白石は俺をきっと睨む、そういえば光が謙也さんは殺されると、そう忠告してきたか。白石に殺されるんは嫌やなあ。×に殺されたい。殺されるのならば。
「×が死んだ日や。お前は屋上から全力でかけてきたんやろ?×が落ちるのを『偶々』目撃したんやろ。だったら、なんで下を覗きこまんかった。普通やったら確認するやろ、下を見て、本当に人が落ちたかどうかをな。」
ああ、そういえばそんな行動をしなければならなかったのやったか。酷くめんどくさかったから、忘れていた。彼女を支配出来たという恍惚を咀嚼するので手一杯だったから、下を覗き込むような行動はしてはいない。白石、調べとるなあ。俺の行動、よく調べとるわ。
「お前が下を覗き込まんでへたり込んだのは聞いとる。そのあと全力で×の元に下りていったのも知っとる。だけど、一つだけ間違いやったな。お前は落ちた確認なんてやらんでよかったんやから。」
お前が落としたんやからな。人差し指を真っ直ぐ伸ばされて、犯人だと名指しされる。観客は俺一人、指している人間は今にもフェンスから落ちそう、探偵シーンもあったものじゃないこの現状にしかし俺は誇らしかった。白石は俺をここで断罪する、しかし白石は彼女を殺すことは出来なかった。探偵なんてバカらしい。ただの妬み、白石だって彼女を殺したかったのだから。独占したかったのだからおあいこ様だ。白石は俺を断罪する、しかし白石は警察には言わないだろう、全てが状況証拠、本当に俺が落としただなんて証拠はどこにもない。それに白石は俺が殺しただなんて認めない。認めたら俺が×を独占することが出来ましたと認めるようなものだから。それだけは認めはしない。俺に指を指したのだってただの八つ当たりに過ぎない。あはは、白石、お前ほんまに甘いやつなあ。完璧やなんて、お前はちゃうよな、お前は幼稚で大人ぶってる可哀想な優等生やろ。好きな人にまともに声かけられへんで、やっと声をかけよう思った日に、殺されてしまう、可哀想なお坊ちゃん。此方が指をさして笑いたいほどなんやで、白石。お前はほんまに何も大切なものはつかめへんよなあ? いい気味やで、白石。お前には、×の気持ちも、俺の気持ちも絶対に分からへんやろからな。
「……謙也。」
「なんや、白石探偵。」
「お前は、なんで×を殺したんや?×はお前のこと――――」
「あはははっ、なーんや白石、まだ分からへんかったん?」
×が俺のこと嫌いやったからに決まってるやん。
言葉から出たそれを白石は否定した。ほら、やっぱりお前は分かっとらんやんか、白石。お前は真実なんて知らないんやからなあ。本に哀れ過ぎて、可哀想やで、何もしらないお前はな。
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