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あれ。と思った。よくわからない、焦燥感? というやつ。白石を見て思ったワイに、光はこのゴンタクレと頭を叩く。なー光。なんや。……。黙り込んでしまうワイに光はもう一回チョップをかました。痛い。白石がいつもやるやつよりずっと。×ねーちゃんがやるやつよりもずっとずっと。
×ねーちゃん。屋上から飛び降りて死んだ。それを聞いたときワイは泣き叫んだ、ありえへんって、何回もタダを捏ねた、その度に白石達に止められた、それももう大分時間が、時がたった。それでもこの部には×ねーちゃんを呼ぶ声が後をたたない。ドリンクがなくなったとき、タオルの束がどこにあるか聞くとき、ネットの修理をお願いするとき、みんながみんな×ねーちゃんの名前を出す。そしてそのあとハッとして、居心地悪そうに顔をしかめて、その後に心配かけへんように楽しいそうに作り笑顔をする。
ワイにはそれが悲しくうつってしょうがない。×ねーちゃんがいなくなったのも寂しいけど、その×ねーちゃんがいなかったように扱うのが嫌で仕方がない。やから、ワイは×ねーちゃんの名前を何回も出す。ワイは×ねーちゃんをいなかったみたいには扱わへん。×ねーちゃんはいなかったわけやあらへん。全国大会、一緒に頑張ってきた仲間なんや。存在しなかったやなんて、そんな表現させたくなかった。
俺の隣にいた光が小さく×ねーちゃんの名前を呼んだ。無意識だったらしく、すぐに口元を押さえる光をみて、ワイはなんだか悲しくなった。光も、×ねーちゃんのこと、忘れたいん? そう聞きたくなった、光は悲痛そうに眉を潜める。先輩はもういないのだから。そう表情が語っているように思えて違うのだと意見したかった。
「×ねーちゃん。」
「もうそうやって名前呼ぶのやめへん、金ちゃん。」
「なんでや光。」
「先輩はもう死んだんやで、いつまでも覚えとったらあかん。」
「光なにいっとんねん。×ねーちゃんは、」
「死んだんやで、金ちゃん」
財前が、目頭を拭う。涙? はは、光泣き虫やなあ。なんて言えんかった、俺の目の前も滲んでいたからや。何かがこぼれ落ちた。それが涙だということは簡単に分かった。光も隣で泣いている。光も辛い、んやろな。なんて今気が付いた。ワイは頭がないから分からんかったけど、光やって辛いんや。みんな仮面を被ったように感情を押し殺すからよう分からへんかった。
光は俺をみて、涙をポロポロと流しながらぐちゃぐちゃの顔で俺にそっと笑かけた。その笑いは凄く悲しそうで、ワイは光をみて、また泣いた。
「どうして死んだんやろか」
「分からん……。」
「光…」
「分からんもんはわからへんねん。白石部長も知らへんの、それやのに俺が知るはずないやろ?」
「白石も知らへんの…?」
「おん」

ワイの胸が少しだけ熱くなった。なんなのかは分からへん、だけど胸をうつような、どこかおかしいような違和感? というやつ。別に白石のこと疑っているわけやない。白石は部長やし、×ねーちゃんのこと大切に宝石みたいに扱っとったから。だけど、どこかふにおちないなにかがあった。分からへん。胸の中がギシュギシュした。何かが挟まってとれないみたい。
「×ねーちゃん。」
目頭に熱がこもる。部中やのに泣いていた。×ねーちゃんの名前、大好きやった。意味なく呼んだらしょうがないというように、なあにと答えてくれるのが大好きな仕草やった。それをされるだけで嬉しくていつも周りにいた。もうできへんやなんて、いやや。
それでも、×ねーちゃんは還ってこん。ワイはきっと×ねーちゃんのこと忘れられへん。
空は晴天、隣にいる光は目を腫らしてやっぱりまだ泣いていた。

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