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別に、あいつのことが好きじゃなかった。ただ、楽しそうに笑う白石達を見てまあ許してやってもいいかな、なんてはおもとった。小春もあいつがいてくれて嬉しそうやったし、部内ではあいつがいると少しだけ盛り上がるのも事実だった。ただその時、白石がまるで今から殺さんばかりの殺気を出していたのは、ほんの少しだけ気にはなっていたけれど、ただそれも可愛い嫉妬心というやつなのだろうと思って誰にも言わんかった。俺はそれを少しだけ後悔している。
「小春」
「なあに、ユウちゃん。」
「白石、この頃おかしいよな」
「…そうねぇ。まだ立ち直れてないんじゃないかしら」
小春は悲しそうに眉を潜める。自殺。うちのマネージャーだった××は自殺した。屋上からダイビング、といったらカッコいいが、命綱なしの一発勝負だ、自殺防止のフェンスを越えての本格的な自殺。持っていたのは遺書ではなくアルミ缶だったけど、××は死んだ。自殺だった。もちろん××だってこの男子テニス部のマネージャーである前に一人の人間だ、だから悩むことなんていっぱいあっただろう、だけど周りにはそれをおくびにも出さず、誰にも相談もせず、知らない間に死んでいったというのは白石には堪えたのだろう。試合ではそうでもないのに、基礎練習に完璧と言われたそのテニスが崩れていた。白石も人間やったんやなあだなんてオサムちゃんは笑いながら言っとったけど、そんなことですませられる範囲を軽々と越えていってしまっている。話し掛けられても無表情で反応しないあいつを目の前にしたら笑い事なんかですませられる筈がない。今のあいつは人間なんかじゃない、無機物のなにかだ、ロボットといっても差し支えがない。そのぐらい白石は衰勢仕切っていた。
「××ちゃん、なんで死んじゃったのかしら。」
「俺には、よくわからへん」
「本当に自殺、なのかしらね」
「それも、よくわからん」
でも、そうであって欲しいとは思う。今の白石だったら、××を殺した人間を殺しにいく、ぐらいのことをやってみせるだろう。それぐらい白石は思いつめている。追い立てられているといっても過言ではない。
―――白石はなんでそんなに怯えてる?
いや、怯えているというのかは分からない。本当に怯えているのか、俺には分からない。ただ、一瞬、肩をガタガタ震わせて怯えているように見えた白石が居たのだ。質素の薄い綺麗な髪の毛に爪を突き立てて、ブルブルとまるで何事かを否定するように首を横に振っていた。俺はその姿を見たときに背中を掛け上がるなにかを押さえられなかった、だからそう思ったのかもしれない。
白石がなにかに怯えていると。
悪夢を見せられているかのようだった。

小春が金ちゃんが泣いていたのよ、と悲しそうな声で言った。小春が悲しいと俺も悲しくなった。××、なんで死んだんや。快晴の空にそう問いかけたところで返ってくるわけがない。俺はテニスボールを持ち直した。そのテニスボールには小さくて薄い血がついていた。

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