Salty blog
創作以外にもつらつらと塩っぽくボヤいています。

【140字では語れない読書感想文】


平衡世界がクロスする

「日常」が「非日常」に変わるパラレルワールドでも、
人は生きていくしかない



凡符さん「He is Ms.ゆうき」読了。
webカタログには、こう記されていた。

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「暗い。闇が、いまだに空間を飲み込んでいる。朝が訪れていない」

ここは間違いなく普通の現代日本で、
ここにいる人たちもみんな普通の日本人で、
なのに今日の出来事は普通じゃない。

現代ファンタジーを3本収録した短編集。

通称「ゆうきシリーズ」

短編なのでもちろん単独で読めます。
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全編通して、「うさみ ゆうき」という人物が関与している物語で、

一本目は、本編主人公が主役の「He is Ms.ゆうき」
二本目は、その友人が主役の「黎明を頂く」
三本目は、ゆうきの叔母(に言い寄るクズっぽいイケメン)が主役の「アイコニック・アイロニー」

の三本仕立て。短編読み切りとして楽しめるが、この本の真骨頂は、なんといっても三つがきちんとクロスするパラレルワールドと言って良いだろう。

パラレルワールド、というと、基本的に「ありえないコト」を軸として本編とは別に構成されていくが、本作は「ありえない」はずなのに、三つがきちんとクロスすることによって、現実世界であることを肯定してくれる。

まさに「現代ファンタジー」。


一本目の「He is Ms.ゆうき」は、転生のファンタジー。
男子大学生(ゆうき)が不慮の事故で亡くなった後の生まれかわりから物語が始まる。
しかも、女の子、として。
男の、しかも大学生の思考回路のまま、一からのやり直しは苦労の連続で、事あるごとに壁にぶち当たる。
性の違い、埋まらないジェネレーションギャップ。
主人公と同年代(三十代以降)の読者なら、首を縦に振って分かる分かるの連続で、それゆえに、主人公の苦労が身に染みる。
そのなかでもあえて、「高校生」の部分を切り取ったところが本作の見どころだろう。

大人でも、子供でもない、ちょうど中間。

子供とはちがい、既に自己アイデンティティーが確立していても、大人に強引にねじ伏せられてしまう理不尽さ。

(生まれかわってからの)クラスメイトが歯がゆい思いを抱いている中、思考だけは三十過ぎの主人公の痛快な一撃は、まさに胸がスカッとする。ただ、その一方で、主人公が抱いている昔の自分と今の自分の差でもがいている姿はホロリとしてしまう。


二本目の「黎明を頂く」は、テキレボアンソロで出てきた大学生二名のやりとりだ。
アンソロジー「僕は魔王にはなれない」→

真面目な感じなのに斜め方向の発想を持つ後輩と、ツッコミの先輩。
(なお、後輩の方が一作目の死ぬ前の主人公の同級生)

最初は、コミカルで笑い転げる会話劇(紙面版お笑いと言った感じ)で進むのに、ラストにスコーンとホラーファンタジーに落とされる。
「日常」が「非日常」に変わるパラレルワールドを一番感じられる作品だろう。

終わりの切り方は、読者に空想の余地を残しながらも、ジリジリとさせられてしまうあたりは、もう、「くっそう!」と思いつつ、指は既に次ページを捲っている状態だ。


そしてラストの「アイコニック・アイロニー」は、「He is Ms.ゆうき」と同じ世界でありながら、時系列が少し違う物語。
男勝り(だけでは済まない)叔母と、「俺に落とせない女は居ない」と豪語するややクズな部下の恋愛小説。
何があっても通常運転な叔母と、振り回される部下のやりとりが痛快だ。
これは、女性だからこそ描ける物語であり、女性読者は「ざまぁみろっ」と笑いながら読める。
(何十年たっても女性は待ってくれているという幻想症候群を患っている男性が描くと物語は正反対になる)
しかし、ここの見どころは、そこではない。
クライマックス導入からラストまで駆け抜けるところが、この作品を一つとしてまとめ上げており、最大の見どころである。

一本目、二本目は、ここにつながる布石。

日常だったはずなのに、非日常が混じり込む、パラレルワールド。

まさに、「パラレルワールドのクロス」で、前の二本が重要な意味を持ち、ドンと胸を突いてくる。

ここはネタバラシをしてしまうと作者の意図もスピードも削がれてしまうので、どっぷりと本作の世界に浸って読んで欲しい。


この作品は、どこまでいっても、現代で、そしてファンタジー。
そして、登場人物はパラレルワールドに放り込まれても、くじけることなく、懸命に前を向いて走っていく。
その姿は、きっと「人生ロクなことがない」と思っている気持ちを吹き飛ばしてくれるだろう。

一度きりの人生。

人の《生きる理由》を勝手に決めては、いけない。
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13th.Apr.2017


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