右目を覆う感触が消えた。
眼帯が外れたのだと思った瞬間、手で覆い隠していた。

「見るな」

傍らで沈黙したままの男を睨むが何の反応も返して来ない。瞬きもせず視線も逸らさず、ただ沈黙を守っている。

「見るな!」

力任せに殴り付けると床に倒れる。橙色の髪を鷲掴んで畳に押しつけると、ざらりと畳で擦れる感触がした。手の下から短く息を吐いた音がして、笑ったのだと馴染んだ感覚で知る。
頭から手を放して相手の腹に跨る。驚いたような顔をする男の首を絞めると、押さえた手を引き剥がそうと手を重ねる。構わず更に指に力を込めれば、ぐぅ、と喉から空気の漏れる音がした。

「HA!…如何する?」

抗う腕が爪を食い込ませて薄く皮を裂き、逃れる腕は自分の左頬を掻いた。

「どうするんだ」

問い掛けて、答える声は出せる訳も無い。
足掻いた脚が畳を摩る音が重なる。瞬きをする度、涙が目尻に溜まっていく。左手が脱いだ装束を手繰り、その手には落とした眼帯が掴まれている。焦点が合わないのか視線が搗ち合わない。
反応に飽きて喉から手を放した。ひゅぅ、と音を鳴らし空気を吸い込み、男は躰の下で腹這いになって咳き込みながら言う。

「か、げん、してよ」
「命乞いぐらいしろよ」

感慨も無く答えて上から退いた。
生理的に浮かんだ涙を拭って、橙の髪が揺れる。

「……そうゆうもの?」
「つまらねぇ男だな」
「愁歎場なんて未経験なもんで」

息を整える様に何度か咳を繰り返す。その都度揺れる髪を指に絡ませた。

「だからてめぇは浅いんだ」
「……一途だから?」
「何が本物かも知らないくせに」

髪から離した指で、頭蓋を掴んで力を込めた。痛がりながらも男は笑う。
何一つ、本物なんてない。
目を逸らさなかったのも殴られてみせたのも笑ったと気付かせたのも。全部計算なんだろう。


例えばさっきまで喘いでいた喉だとか



(何もかも、似而非なんだ)(それで痛み分けだとでも)


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戦国 政→佐
眼が出て膨らんだムカつきは人情の機微も知らない忍には馬鹿馬鹿しいだけだなと思う筆頭の話

人でなしだって恋くらいすると思うなら→

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2014/10/31 ( 0 )






躓いて膝をついた政宗に、前を歩いていた佐助は何も言わずに腕を掴んで立たせた。
政宗は礼も言わないし、佐助は肩を貸さない。掴んだ腕を放しはしなかったが手を引く様な親しさは無く、ただ同じ方向へ黙ったまま歩く。
地には骸が散在し、空には鴉が行き交う。立って歩く人間はその場には二人の他におらず、誰の目にも二人の姿は写っていない。

「逐電するか」

引き摺る様に歩を進める政宗の呟きに佐助は吐き捨てる。

「一人でしろ」

返すが腕を放したりはしない。
二人の向かう先は同じだった。人を待たせているという目的も同じだった。ただ相手が違うのだけれど大した差異はもう無い。
きっと二人は同じものになっている。
鴉に視界を遮られ転がる屍体を避けながら辿り着いた場所には二人が睦まじく重なっていた。

「なにそれ」

むっとした顔で呟いた佐助の腕から逃れ、政宗は膝をついて幸村の躯を小十郎の上から降ろした。避けられた幸村を抱えるように佐助も同じように膝をつく。

「忍」
「なに」

呼ばれて、佐助は胸を貫く刃に気付いた。正面から政宗が刀を引き抜く。

「なんで」

声を出すと溢れた血が喉を塞いだ。吐き出す様に咳き込んだ佐助を嗤い、政宗は刀を落とす。

「序でだ、彼岸まで同伴しろ」
「あんたなんかと」
「嬉しいだろ」

言って、政宗は小十郎の上に臥した。
佐助は手の甲で口を拭い、幸村を見る。主を下に敷く訳にはいくまいと、移動しようとするが足は立たない。目を開けたままの政宗を睨んで、ふと佐助は己の躰を確かめる。

「やっべ。どうしよ」

傷を押さえて穴を塞ごうとしたが、徒に手が染まるだけだった。

「お揃いだ」

地に横になり、穏やかに見える主の顔を眺める。
しかも同伴か。ああ、どう言い訳するかな。

見えない再会に佐助はわらって息を吐いた。


世の中最期はわらえるようにできてる



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戦国(死ネタ) 政×佐
×片倉→←旦那×
×かすが→←佐助◎
×大将→←軍神○←筆頭◎
×負(死) ○勝 ◎生 という事情の全滅する話

片倉vs旦那に戻るなら→

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2014/10/31 ( 0 )





繋いだ指の間から地を這う汚い雲を見た


「なぁ」
「なに?」

通り雨はこの雲が抜ければ止みそうだ。
雨宿り中に偶然会った中学の時の同級生は、隣に立ったまま足下の水溜まりを睨んでいた。

「女できたか?」
「え。いや、まだ……」

待て。
なに正直に答えてんだ俺さま。此処は最近別れちゃってーとか見栄を張るところじゃないか?どうせ学校違うんだ、バレたりしないだろう。しかし今さら言い直すのも面倒で、好奇心にも勝てないので。

「そっちは?」
「いいや」

なんかいまいちだと言う。選り好みする程の出会いはあるらしい。別に羨ましくなんかない。

「……あれ?男子校じゃなかったっけ?」
「彼氏も出来ないぜ?」
「その訂正はどうかなあ……」

節操無いみたいだな。節操無い癖に選ぶんだ。別に羨ましくなんか。
なんでだろうな、と本気で不思議がる隣人は、生長する水溜まりに追いやられて肩をぶつけてきた。

「雲の上の人なんだよ」
「仙人かよ」

冗談か本気かわかんなかったので、とりあえず違うよーと笑っておいた。

「有名進学校だし、お金持ちだし、一応美人だしさ。なのに喧嘩っぱや……腕力あるし?」

やっぱり進学校はガリガリ勉強してる眼鏡の人ばっかりなんだろうか。その中に一人眼帯したヤンキー(っぽい人)が居たら。

「一歩引いちゃうっていうか、壁を感じるっていうの?」

良く言えば雲上、悪く言えば浮いている。出来れば話し掛けたくはない。
でも中学の時は女子の間で王子って渾名だった。孤高な感じだったらしい。

「アンタもか?」
「俺ぇ?」

旦那と早食い競争したり、体育の授業に真剣勝負したり、意外と鍋奉行だったりをどう見たら王子になるんだ。

「……うん、そうだね」

それでも。
高校が別々になって、一人ならご飯食べにおいでなんて気軽には言えなくなった。

「だからあんたから近付かないと」

彼女どころか友達もできないよと、言おうとした口は相手のそれで塞がれた。

「……あんたさ」

彼氏が欲しいのか。それとも敷ければ何でも良くなったのか。

「……あー……」

どうしようか。
離れる時に見た睫毛が緊張にか揺れ過ぎだったとか。安定の為に掴んだだろう手を放せないでいるだとか。見てしまうと。脳内を駆け巡る雑言を吐き出すか否か。

「……やっぱいいや」

仕方が無いので掴まれた指を交叉してやると、握り返してきた。なんて単純。

「そこでウチ来る?が言えないダメな奴だよアンタは」
「ってーか来る気かよ!」

何があろうと上から目線は変わらないのか。生意気な。やっぱ手を離そうとしたら、がっちり捕まえられていた。
振り解こうとしたその不自由な掌の下、水溜まりに映る白い影を見た。

案外雲の上なんて近いのかも知れない。

「……あれ!? やんでる!?」
「むしろ晴れてる」


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高校生 政→佐
わざわざ会いに来た政宗様

若干の政←佐に続くなら →

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2014/10/31 ( 0 )






月が蒼い夜は予感がする。
屹度彼は此処に来るだろう。

あの夜の月も蒼かった。
呼ばれた気がして棲家から顔を出せば、幼子を抱いた母親が跪いて泣いていた。言葉と光を知らない子供を救って欲しいと髪を振り乱し懇願した。人間が生きようが死のうがそんな些事はどうだってよかった。
ただ月が蒼くて気分が良かった。子供の髪の色も、人間にしては中々に立派だった。だから子供に片眼を呉れてやった。それ以来片目の見る景色が見える様になった。
木を切り刻んで組み立てたような住家だった。堅苦しい父親に穏和な母親によく笑う赤い髪の子供と暮らした。目線が同じだからか、誰よりも子供と一緒だった。いつも赤い髪の子供を見ていた。
ある日住んでいた屋敷が火に飲まれた。二人で手を繋いで逃げた。親とはぐれた。探しても親を見つける事は出来なかった。それでも繋いだ手は放さなかった。子供も離さないでいてくれた。月が蒼かった。
二人で話して、二人で生きていく事を決めた。いつだって二人でいた。赤い髪の子供が大人になってもずっと一緒にいた。二人でいるうちに回りに人間が増えた。徒党を組んで物を奪う事を生業にした。敵も増えた。けれど赤い髪の彼が笑っていられる事が肝要であって、そして彼はいつだって笑っていた。泣いた顔は見た事が無かった。
月の蒼い夜だった。
武器を持った人間が押し寄せてきた。逃げ惑う人々に辺りを舐める炎。身体は傷を負っていて動けない。目の前で初めて泣く彼を。
ずっと守っていくのだと思っていた。
ずっと一緒にいるのだと信じていた。

最後に見た景色は目玉に触れる指。頷く赤い髪。蒼い月。それ以来失った目は何も映さない。

予感がある。
屹度彼は此処に来るだろう。
失った目を持って。

自分の眼で彼を映して、名を訊ねる。
許されるなら触れて。

屹度彼は来るだろう。
だって今夜の月はこんなに蒼い。

跳ねる鼓動の理由は、きっと。


おまえの所為だというのにね



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妖怪(和式)モノ 小太×佐←政
母親は狐と人間の子、子供は双子。目が見えない方が風魔
別名、月のwaltz ≫ 月の宮殿の王子さま(筆頭)は貴方(風魔)に似た瞳で笑うので

どこか深い森の中で貴方を捜しさまようなら →

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2014/10/27 ( 0 )





記憶いっこ100万円


「うろには秘密が隠されてるんだよ」

ウロは何かと嘯けば穴だと答えた。
声の合間に鋏の音がする。指が微かに触れては離れるを繰り返す。

「王様のろばの耳だって、穴に隠したんだから」

それは床屋が穴に向かって喚いただけじゃねぇのか。
喉の奥の笑いを、後ろから両手で頭を押さえて上向かされて遮られる。

「蓋をしたら中は誰にも見えなくなるでしょう」

前髪を摘んで見下ろすからその手を払うと、ふ、と納得したような息を吐いて鋏を置く。

「ほんとうに何もなくても、ないかもしれない、になるわけよ」

くしゃくしゃと掻き回された後、撫で付けられて、耳元を指が這う。

「何が隠されてるんだろうね?」

眼帯の紐に指が掛かる。
知っているくせに。

「幾ら払う?」
「髪切らせといて巻き上げる気かよ」

手鏡を突き付けながら、ぼったくりだ、と唇を尖らせた。


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現代 政×佐
髪の毛を切りに行きたいけど他人に眼の話をしたくないし訊かれたくもない政宗様に、んじゃ切ってあげようか?なだけの話

アニキの髪の話に続くなら →

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2014/10/27 ( 0 )




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