さよならとあいしてるの間



小十郎が片膝をつくと砂利の音が異様な迄に大きく響いた。
その場は戦場だというのに静まり返っていて二人以外誰もいない様に思われた。

「…くっ」

俯いて短く息を漏らすと、傍らに立っていた幸村が浅く息を吸う。

「…はっ」

中空を見据えて、息を吐き、片手に握った槍を地に刺して、もう片方で腹を抱える。

「ははは!あっははは!」
「真剣勝負に笑うんじゃねぇ」

下から睨む小十郎に、幸村は御免、と緩んだ口許を引き締めた。それでも弧を描くのは止められない。
窘めた小十郎の口も笑むように歪んでいたが、幸村はそれを責める程に幼くはなかった。

「流石、竜の右目、だと」

言葉を切りながら言う幸村に小十郎は喉を震わせる。

「虎若子も伊達じゃねぇ、とでも、言うか?」

肉を削がれた脇腹は赤々と染まり流れ出る血を止める事は出来ないだろうと、小十郎はいやに冷静に穿たれた己の脇腹を眺めていた。

「戦で、ありました」

幸村が呟いた。
仕合いではなく況して稽古でもないこの勝負に、引き分けも次も有り得ない。
知っていたのに、と呟いた顔は苦く歪んだ。

「政宗様には、無い戦法だからな」

自ら相討ちなどする武将はいないだろう。けれど先を考えれば此所で絶対に仕留めておくべきだと小十郎は考えてしまった。

「政宗様の天下、が、見られないとは、」

不覚、と呟くと小さく笑った声が上から降ってきた。

「致し方、ありませぬ」

腹を押さえた手は赤く濡れている。槍を手放し前方に倒れる幸村を、向かい合う形で膝をついていた小十郎は不意に手を出したが支えきれずに尻をついて倒れた。

「……天下はお館様の、ものでござる、故」
「吐かせ」

上に乗る幸村を除ける力も無い。仕方なく手に触れた髪の毛を引っ張った。
その勢いで顔を上げ、幸村は小十郎の顔を見て苦笑のような顔をした。

「道行は、佐助とばかり」

切れ切れに息を吐き、幸村は小十郎の羽織を掴む。力が入らない手では指が掛かる程度だったが。
ああ、と何かに詫びるように息を吐いた。
そのまま黙り込んでしまう。
小十郎が掴んだ髪の毛を放すと俯いた。
体の上に温い液体が広がっていく感触を感じながら手に広がった血を眺めて、小十郎は拳を握り締める。


「……お先に、」


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小十郎×幸村というには微妙。
さよならとあいしてるの間はごめんと行ってきますだと思った。



2014/10/31 ( 0 )







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