シベリアンハスキーは泣かないよ「器用だなー」
「そぉ?旦那の頭毎回いじってるからねー」
机に座ってバイク雑誌を見ながら言う男に、鋏の手入れをしていた男はふふ、と笑う。
「旦那がさ、髪切りに行くと野球部みたいになって帰ってくるんだよ」
髪型になど頓着しなさそうなあの男の坊主頭を想像して思わず小さく噴き出してしまった。
無いよね、と苦笑しながら佐助は鋏を仕舞い、雑誌を睨む男の髪を指で梳く。
「ん?あれ?意外に……もっとこう……ハスキーみたいな……」
「犬かよ」
「ごあごあしてると思ってた……毛利さんに嫌われちゃうから?」
「なんで元就だよ……」
うんざりした声で言う男からバイク雑誌を奪い返して、なんとなく自ら話題を繋げる。
「そういえば今日は一緒じゃねぇんだな」
「ああ、生徒会があるから遅くなるって」
言われて、もう一人と見つめあってしまった。教室の隅に置かれた掃除用具入れを開けながら、机に座ったままの男を見ずに佐助は言う。
「さっき……下歩いてたよ、毛利さん……?」
「完全に帰ってたぞ一人で」
「何!?」
「先に帰ったと思ったんじゃないの?」
驚いて目を見開いた男に、箒を握って佐助は気遣うように続けた。
「確認するの忘れちゃっただけだよ、きっと」
「忘れられるほど軽くて薄いのか、存在が」
「携帯みたいに言うなっ」
「cellularphoneより必要性が無い分toobadだろ」
「こらっ……って、どこ行くの?」
「追いつく」
言い合っている間に、男は置いていた鞄を掴んで教室を飛び出した。
箒に寄り掛かり立っていた男は、廊下を走り去る背中を眺めながら笑う様に目を細めた。
「意外と忠犬」
……やっぱり犬扱いか。
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実は教室で高校生だったんですよという話。