95:2日後は花のような笑顔が溢れる日にしよう
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77話の炭治郎視点
東の町から無事帰って来た桜さんと一週間ぶりの再会を喜び合った夕食後。しのぶさんと甘露寺さんからのお土産だというカステラを皆で食べていると、桜さんがしゃもじを手に持ち、時は満ちたとばかりに目を輝かせながら話しだした。
しのぶさんに1000本の花を納品した。売り上げとして沢山のお金をもらった。そのお金で皆へのお土産を買ってきた。
そう楽しそうに話した後、部屋の隅に置いてた籠からお土産を取り出し、説明しながら各々に手渡していった。
「〜二冊でしょ。で、禰豆子ちゃんは、ピンク色のワンピースと、可愛い着物、髪飾り、口紅ね。炭治郎君は着物と、青色のマフラーと手袋と本五冊と洋服ね!それと皆それぞれ普段着用の着物と私コーディネートのお洒落なお出かけ用の着物、高級お菓子詰め合わせです!」
この場の誰よりも明るく幸せそうに笑う桜さんから渡された贈り物に、母さんと禰豆子以外の弟妹達は嬉しそうに大騒ぎをしている。
過去に東の町に桜さんと訪れた時に、「これ、禰豆子ちゃんに似合いそう。……でも値段高いな」と呟いてた髪飾りや、「このお菓子、茂くんに食べさせてあげたい……って1個1000円もするの?!」と驚いていた洋菓子も、今本人達の手元にある。一人一人の個性や趣味に当てはまった贈り物を見るに、おそらく前々から目星をつけていたのだろう。
喜ぶ皆を見て嬉しそうにする桜さんと、桜さんから俺への贈り物に多幸感を抱くがそれと同時に、心配にもなる。
「桜さん…。こんなに買って大丈夫なの?」
母さんが、俺と禰豆子の気持ちを代弁するかのように言った。正確な金額は分からないが、しのぶさんから「いっぱ〜い」もらったというお金。それでも、家族それぞれにこんなに買ってお金は足りたのかという心配が浮かび上がる。そんな俺達の心配を打ち消す様に、桜さんはあっけらかんと言った。
「大丈夫というより、まだあります」
「「まだある?」」
「うん。後は、皆の分のフカフカのお布団でしょ?皆の防寒服セット、調理器具一式、お正月用の白米とお肉、家の修繕するための大工さんの手配、薪割用の斧二つです。もちろんここまで運んでくれるように手配してあるし、すでにお金も払ってあります」
一体いくらしのぶさんから貰ったのか。低く見積もった最低金額でもかなりの大金が想像でき、驚き固まる。そしてその金額を一度で支払えるしのぶさんは一体何者なんだ。
「本当に全部買ったんですか?」
禰豆子が、信じられないといった様子で口を開く。
「うん。だってお金いっぱいあったんだもん」
「さすがに使い切りましたよね?」
「まだ少し残してあるよ。皆でおしゃれして都会にご飯食べに行こうと思って」
「こんなに買ってまだあるんですか?!一体いくらもらったんです?!」
「むふふ。いっぱい」
そこでふと、気付いてしまった。贈り物が入っていた竹籠はもう空だし、桜さん自身が何か変わった物を身に着けている様子はない。まさかそんなはずはと思いながら、言葉を零した。
「……桜さんは?」
「私がどうしたの?」
桜さんが、可愛らしく首を傾げる。
「桜さんは、」
「うん」
「桜さんは、……自分に何を買ったんですか?」
桜さんが次に放った言葉に、予想以上に衝撃を受けた。
「え?買ってないよ?」
「は?」
「え?」
「あら」
禰豆子も母さんも、目を見開いて桜さんの言葉を待った。
「私は今あるもので充分だし、それにお花を売ったのは私かもしれないけど、でも、そもそもお花を咲かせられるのは、《幸せ》が条件でしょ?私が、今幸せでいれるのも、今生きていられるのも、皆のおかげ。だからこのお金は皆のもの。皆が私にくれたものを今、返しているだけ。私は皆が喜んでくれるならそれが、幸せなの。……って言いつつ、本当は、恩返しの一環になればなって不純な理由もあったり」
そう言って、頬を桃色に染め可愛らしく笑った桜さんに、「家族のためにありがとう」や「もっと桜さん自身を甘やかしてもいいんだ」と言った感謝や案じる気持ちよりも、なんて愛おしい存在なんだ、と言った感情と言葉が心を占めた。心に直接、春が訪れたかの様な気持ちに、無意識に胸あたりを握りしめた。
母さんが愛情の匂いを強く纏いながら桜さんを抱きしめている横で、隣の禰豆子と目を合わせて、無言で頷きあった。前から話し合っていた計画を実行する時が来た、と。
騒ぎの中そっと居間を抜け出し、父さんの寝室だった部屋に禰豆子と共に入る。
「桜さんったら…本当にもう……」
部屋に入った直後、禰豆子はしょうがない人と独り言のように漏らしていたが、贈り物を抱きしめて見つめる潤んだ瞳とあたたかい匂いが、禰豆子の心情をよく表していた。
「明日、炭を売りつつ隣町に行ってくる」
禰豆子の幸せな匂いと、家族の嬉しそうな様子、そして桜さんを思い浮かべ、心満たされた優しい気持ちのまま禰豆子に宣言する。
「私も一緒に行こうか?」
「ありがとう。でも一人で行ってくるよ」
いや、違う。今の気持ちに当てはまる言葉はこちらだと、あえて言い直す。
「……一人で行きたいんだ。一人で行かせて欲しい」
禰豆子は自分の事のように嬉しそうに声を出し笑った後、引き出しの奥からこの時のために少しづつ貯めていたお金が入った封筒を、俺の胸に押し付けた。
「じゃあ、お兄ちゃんお願いね」
「あぁ」
「ところで、何にするかもう決めたの?」
「まだ決めてないけど、……心から選ぶよ」
「101本の赤い薔薇と7本の白い薔薇の中から指輪を取り出して、町が見下ろせる《夜のあの場所》で渡す…っていうのはどうかな?」
「ね、禰豆子…!!」
イタズラ気な表情で、いつかの桜さんの台詞を声まねしつつ言った禰豆子の言葉に、思わず想像してしまい、顔が熱くなる。
「ふふ!お兄ちゃんったら顔が真っ赤。……でも、桜さんなら、お兄ちゃんからの贈り物だったら、なんでも「家宝にする!一生大事にする!」って飛び跳ねて喜びそう」
桜さんが自分を贔屓目にしてくれているのは、態度と匂いで分かっていたので、そんな事ない、と謙遜はしなかった。
「私は、沢山のごちそうを作るね」
「頼んだ、禰豆子」
「うん任してお兄ちゃん!……素敵な一日にしよね」
「あぁ、そうだな」
桜さんが、俺たち家族と一緒に居て幸せを感じてくれているように、俺も…いや俺たち家族も、桜さんと一緒に居れて幸せなんだという事を、改めて知って欲しい。そんな日にしたいんだ。
「今日は12月9日。あと2日だね」
頷きながら、贈り物をもらって幸せに笑う桜さんを想像して心が浮き立つ。
「2日後の12月11日は、………桜さんの誕生日だ」
※大正コソコソ噂話※
夢主の誕生日の記載は52話。薔薇のお話は43話。86話タイトルの〇〇の中に当てはまる文字は18です。
関連話 43・52・77