43:雨が降りそうな匂いがしたので、先に教えに帰ってきてました

炭治郎君の誕生日から数週間後。まだ季節は夏だけれど、竈門家が山の中腹にあるせいか、空気調節機がなくても比較的涼しく過ごせている。


今は、竈門家秘密のあの場所で2回目のピクニックの最中。竹雄くんと茂くんがカブトムシを獲りに行きたいと言うので、保護者代わりの炭治郎君とお兄ちゃん達に着いていきたい六太くんの男衆四人組で森へと出掛けて行った。

私たち女性陣は見晴らしのいい場所に敷物を敷いて、四人で女子トークを繰り広げている。麦茶とお饅頭をお供に話に花を咲かせるけれど、やはり一番盛り上がるのが女子会の定番トーク。恋愛話。

「禰豆子ちゃんはどんな人が好きなの?」

葵枝さんと炭十郎さんの出会い話で一通り盛り上がった後、興味深々の私の質問に、禰豆子ちゃんは桃色に染めた頬を両手で押さえながら、恥ずかしそうに口を開いた。

「飛車みたいな人です」
「ひしゃ?」

照れる禰豆子ちゃんはとても可愛らしいが、例えが謎すぎて首を傾げる。

「飛車…ってどんな人?」
「もう、何度も言わせないでください…。将棋の飛車みたいな人です」
「将棋はよくわからなくて…あ、もしかして特定の誰かの事言ってるの?!」
「違います。好みの男性の話です」
「そっか…よかった」

好きな人がいるのかと思ったけど、初恋もまだみたいだ。

なんとなくだけど、禰豆子ちゃんは、人気者な爽やかイケメンサッカー少年とか似合いそうだな。手作りお弁当とか渡して、付き合う前から、本人たちが知らない所でクラスメイト公認の美男美女カップルにされてそう。もしくは、食パンをくわえた禰豆子ちゃんが曲がり角で転校生とぶつかってそこから繰り広げられる日常ラブコメが合うな……、
と妄想しながらお饅頭を口にする。

「桜さんはどのような男性が好みなのかしら?」

葵枝さんの質問に、花子ちゃんと禰豆子ちゃんの纏う空気がピリっと真剣なものに変わった気がするけど、特に気にせずに考え始める。

「うーん、もぐ。そうですね、好みのタイプは……。う〜ん」

絶対こうだっていう理想がないので何て言おうか悩んでいると、花子ちゃんが痺れを切らしたように叫ぶ。

「優しくて真面目で家族思いで、たまに頑固な石頭な年下とか?!」
「なんでそんなに具体的なの」

てか、それ思いっきり炭治郎君の事だよね。

「う〜ん。理想のタイプとかはこれと言ってないんだけど、理想のプロポーズならあるんだ」

友達に初めてこの話をした時に「夢みすぎ!陳腐な安いドラマみたい」って笑われた事があってからは、誰にも話したことはないんだけど、皆なら笑わないで聞いてくれそうだと信じて、ちょっぴり照れながら話す。


「えっとね、百万ドルの夜景を見ながら、101本の赤いバラに7本の白いバラを混ぜて、バラの中から指輪を取り出してプロポーズして欲しいの」
「薔薇はなんでその本数なんですか?……あ」
「プロポーズする時のバラには本数によってそれぞれの意味があってね。101本は《これ以上ないほど愛しています》。108本は《結婚して下さい》。赤いバラの中に白いバラを混ぜると《あなたと温かい家庭を築いていきたい》。って意味になるの!すっごい愛されてる感じがして素敵じゃない?」

皆は素敵だね!と共感してくれて嬉しいけど、バラって意外に値段するし、すぐ枯れちゃうから現実的じゃないのはわかってるんだけどねと思いながら、はっと気づく。そうだ今の私なら簡単にできるじゃん、と。これは、バラのプロポーズの噂をながし流行らせ、バラの需要を増やせば、いい商ba…ごほん。素敵なプロポーズ方法がこの町を幸せに彩るかもしれない。
そんな事を考えていると、葵枝さんが手に持った麦茶を置いて、一言。

「うちの竹雄はどうかしら?」

竹雄はどうかしら?とは?と一瞬考えて、奥様会議でみかける「うちの子はどう?」っていう、よくある例え話の会話だと気づく。

「そうですね。ツンデレでかわいいと思います。きっと高校生くらいの竹雄くんは、ちょっと気の弱いかわいい女の子と少女漫画的な恋愛か、気の強いツンデレの女の子と喧嘩ップルするラブコメ漫画的な恋愛をしていそうです。あと、うちの弟と仲良くなれそうだなって思います」
「炭治郎はどうかしら?……あら」
「炭治郎君は優しいし、家族思いなので温かい家庭を気づけそうですね。ずっと一途に想ってくれて、おじいちゃんおばちゃんになっても仲良しな夫婦になりそうです」
「じゃあ!お兄ちゃんと結婚したいと思う?!……あ」

言った後に固まり、妙に緊張を孕んだ雰囲気の花子ちゃんに、声を出して笑う。

「あはは。ないない。炭治郎君は年下すぎて旦那さんって感じじゃなくて、例えるなら……弟?恩人?」

炭治郎君は尊敬してるし、大好きだし、いい子だなとは思うけど、恋愛感情はない。しっかりしてるとは言え、まだ13歳で中学生な訳だし。

「で、でも!風のうわさだと13歳と17歳で結婚した人いるって!」

何故か目を泳がせて動揺した様子の花子ちゃん。必死さを感じる。

「今の時代は大丈夫かもしれないけど…未来だと私、危ない人扱いになっちゃう。ショタコンって事で白い目で見られちゃうよ」
「今は、ですよね?十年後はどうですか?想像してみてください!」

珍しく焦りぎみな禰豆子ちゃんの問いかけに、想像してみる。23歳と27歳って聞くと年齢的には問題なく感じるし、未来でもこのくらいの年齢同士で結婚している人は沢山いる。

「その年齢までいけば、犯罪チックな感じはしないね」
「じゃあ、お兄ちゃんと結婚する?」
「しないよ?なんか妙に押してくるね?というか結婚は本人同士の気持ちが一番大事だし、まず両思い、告白、付き合う、愛を育むって順番が必要だからね?それと炭治郎君の気持ちも考えてあげて?」

炭治郎君からしたら、私となんて嫌だろうし、やっぱり同い年くらいの子とかがいいんじゃないかな?



「ただいまー!」

森の方から、竹雄くんと茂くん、六太くんが満足そうな顔をして帰ってきた。

「お帰り〜。男のロマンのカブトムシはとれた?」
「うん!おっきいの二匹とれたよ。見て!」
「わ〜見して見して〜」

茂くんと六太くんは嬉々として私に近づき、手のひらを広げて見せた。そこには、黒と茶色に光る二匹の生き物。これに似たのを最近町の下水近くで見たことがある。

「きゃあー!!!!ゴキブリ!!それゴキブリだよ!!!触っちゃダメだよ!今すぐあっちにポイッてして!」
「なんとなく想像はついたけど、男のロマン、カブトムシになんてこと言うんだよ!」
「見た目完全にゴキブリだよ!?」
「ちげーよ!よく見ろよ!かっこいいだろう?角とか特に!」
「いやー!!!近づけないで!!」

竹雄くんの猛烈な抗議に、自分の中での最速バックステップで避けると、背中が何かにぶつかり止まる。
見ると、炭治郎君だった。

「あ、ごめんね。………どうしたの?大丈夫?」

いつの間にいたの居たのだろうか。左胸辺りをぎゅっと抑え棒立ちする炭治郎君。辛そうな感情と不思議そうな表情を含ませ、痛む心臓を抑えているように見えた。

「…大丈夫です。なぜか急に少し心臓が痛くなっただけです」
「そっか、心臓が痛いのかと思って心配したよ。心臓病は恐いからね。最強のサイヤ人でさえ勝てないから…………って、心臓が痛い?」

顔がサーっと青ざめる。

「心臓痛いの?!うそ!どうしよう!」
「兄ちゃん大丈夫か?!」
「嵯峨山おじいちゃんに来てもらおうよ!」
「おにいちゃんしんじゃやーーー!」

竹雄くん達が大好きな兄の様子に慌てだす。というより、パニック状態寸前。

「や、だいしょうぶだ、心配しなくても」
「だめ!とにかく寝て安静にして!」

急いで炭治郎君を敷物に寝かせる。

「炭治郎君待っててね!今、嵯峨山さん呼んでくるから!意識はしっかり保つんだよ!」

未来では簡単に治る病気でも、病気に対する治療薬が発見・開発されいていないこの時代じゃ、もしかしたら、手遅れになる病気かもしれない。男の子達が炭治郎君に群がるのに続き、炭治郎君の片手を両手で握り頬にくっつけ、涙を流す。

「炭治郎君、絶対に助けるからね!一生かけてでも絶対に助けるから!」
「あ。なおった」

ケロリとした表情で上半身を上げる炭治郎君。

「駄目だよお兄ちゃん!寝てなきゃ!」
「いや、本当にもう大丈夫だ。治ったみたいだ」

炭治郎君は不思議そうにして首をかしげている。確かに顔付きは悪くないけれど、それでも今まで健康そのものだった兄が初めて見せた姿に、病気で亡くなった父親の姿を重ねたのか、竹雄くん達はまだ安静にしてと泣きながら訴えている。炭治郎君は弟達の頭を撫でて慰めるのに忙しそうだ。
私は心の中で今日中に嵯峨山さんに強心剤を100個くらい貰いにいこうと決意した。


「…………え、どうしたの」

視線の先には、表現できない表情の禰豆子ちゃんと花子ちゃんの二人。葵枝さんはいつものようにほわんとほほ笑んでいる。

「使い古されたネタだなと思いまして…」

禰豆子ちゃんが、花子ちゃんの気持ちも代弁するようにそう言った。






※大正コソコソ噂話※
花子ちゃんが言っている13歳と17歳ってのは、耀哉様とあまね様の事です。


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