52:お礼の未来の料理

花子ちゃんと和解して家に帰った後、皆に今の私の答えを伝えた。皆、泣いたり騒いだり色々あったものの、最終的には私の気持ちを受け入れてくれて、未来に帰る帰らない問題はひとまずの終着点に辿り着いた。









騒動から数日後の今日。お礼も兼ねて、紅葉の景色が美しいあの場所へピクニックに来ていた。

「桜17歳。誕生日は12月11日。今年で18になります。趣味はおしゃれと、好きな食べ物はカロリーが高そうなゴテゴテの洋菓子。得意科目は科学、苦手科目は歴史です。家族は、しっかり者のお母さんに天然で優しいお父さん。8つ下の弟はいたずら好きでやんちゃ。おばあちゃんは料理が上手で(未来基準)、おじいちゃんはちょっと頑固。そんなありふれた家庭の中で育ちました!」
「…急にどうしたんですか?」

禰豆子ちゃんは首を傾げて不思議そうな顔をする。

「なんか、私自身の事あまり話したことなかったかなと思ってね」

それに、私の家族の事も知ってもらいたいなって、この間の事があってから改めて思っていたのもある。

「そして、今日はお礼も兼ねて、私の家系に代々に伝わる家庭料理を作ってきました!」
「未来の料理ですか?」
「うん。未来だと、材料全部ポイって入れてボタン1つで完成だし、未来ならではの材料がなくて代替え品探すのに苦労したけど、なんとか味の再現に成功しました!」
「だから、朝早起きして厨で何かしていたんですね。……お兄ちゃんなんでずっと口呼吸してるの?顔色も悪いし、大丈夫?」
「………」
「?」
「へー300年先の未来の料理か。何が入ってるんだ?」

風呂敷に包んだ鍋に目線を映した竹雄くんに、いい質問だとグッとサインを送る。

「完熟桃と蜂蜜、砂糖」
「すでにうまそう」
「だし巻き卵、生姜の佃煮、藁納豆、カビたチーズ」
「…ん?」
「塩漬けしたくさや」
「……組み合わせおかしくね?」
「を、青汁とラムネ水で煮込んだ、代々家に伝わる家庭料理だよ!」

その組み合わせ大丈夫なの?という竈門家の反応は予想済なので、安心させるように自信満々に発言をする。

「長い歴史があるんだから絶対に大丈夫!ぜひ食べてみて!本当に美味しいから!家族や親戚に大好評なの」

笑顔で家から持ってきた鍋の蓋を開けた瞬間、皆が鼻をつまんだり、手で覆ったりしている。もちろんこの反応も予想済。

「匂いはちょっとキツイけど、味はすっごく美味しいから大丈夫!納豆とかチーズも臭いけど美味しいでしょ?」

皆のお皿によそいながら、召し上がれと笑顔ですすめるけど、皆は真っ青な顔をして手をのばそうともしない。むしろおぞましい敵に遭遇したかのように後退している。

「そんな顔しなくても大丈夫だよ。料理下手なヒロインが味見をしないで出す、激マズ暗黒物質料理とかじゃないから。来る前にちゃんと味見をして確認したよ。家族に好評のいつもの味だったから」

さぁさぁと、お皿を差し出すけど、首を激しく振ったり、視線を合わせまいと遠くを見たり、お腹いっぱいで……。なんて言い訳したりして食べる気配はゼロ。

「食べないの………?」

せかっく皆のために作ったのにと、しょぼりん。とする。


「タ、タベマス」

鼻声の炭治郎君が挙手をした。皆がやめろ行くな!と、嵐の中畑の様子を見に行くと言い出したおじいちゃんを見る目をしている。

「わぁ、うれしい!頑張って作ったんだ。匂いが少しキツイし、最初の一口目は独特かもしれないけど、二口目から癖になるおいしさを感じるから」

料理と匙を炭治郎くんに渡し、どんな反応かわくわくしながら、炭治郎君の一挙一動を見守る。
炭治郎君はお皿に盛られた料理を匙でゆっくりすくい、数十秒じっと見て生唾をゴクリ。そのまま、勢いにまかせ口に匙を突っ込んだ。

「どう?どう?美味しい?」

たっぷり数十秒間をおいて一言。

「……オイシイdeath」

炭治郎君は今まで見たことがない形相をした。

「それ絶対美味しいって顔じゃないよ!口に合わないなら無理しないで!」
「……オイシイdeath」
「無理して嘘つかなくていいから!」
「……オイシイdeath」

物凄い顔をして昔のロボットのように言葉を繰り返す炭治郎君からお皿を取り上げるようにもらい、代わりにお水を渡した。
まあ、食べ物って好き嫌いがあるからね。炭治郎君は苦手そうだったけど、他の皆はどうかなと振り向く。

「皆たべ………誰もいない」

敷物の上には誰もいなくて、回りを見渡せば、遠くの森の木々の影に隠れるように、こちらを伺っていた。その姿は、なまはげに怯える幼児にしか見えない。

「炭治郎君はだいじょ………って!炭治郎君!気絶してるの?!!し、しっかりして炭治郎君ーー!!!」

その日、竈門家に未来の料理は毒物に近いと、間違った認識が植え付けられた。





※大正コソコソ噂話※
シュールストレミングみたいに、めっちゃクサイけど、ごく稀に好んで食べる人がいる。みたいな味。夢主の味覚が可笑しい訳ではない。


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