051.22日目『シ者』



美海
(…………あたしは、拳銃を持ったまま、地下牢のようなところを歩いていた。
 アキラや小田切くんが言ったように、やっぱりあたしたちが閉じ込められていたのは地下だったんだわ。
 …………出口はどこなのだろう)
美海
「…………みんな」
(越えて行く。みんなの死を、あたしは)
美海
「……………………」
(曲がり角へ出た。

 …………そこで、あたしは)
美海
「紗枝子…………ちゃん…………?」
紗枝子
「お久しぶり、白百合さん」
美海
「……………………!」
(紗枝子ちゃんはそう言って、あたしに銃口を向けていた)
美海
「紗枝子ちゃん……? なぜ、どうして」
紗枝子
「私だってこんなことしたくないのよ?
 ……でもね、これが私のゲームなの。
 あなたをこのまま逃がして負けるか、……あなたを殺して、勝つか。
 負ければ死、勝てば、…………三億円だそうよ」
美海
「…………っ!」
(紗枝子ちゃんまで巻き込まれていたなんて思わなかった。
 あたしは、混乱していた。
 そんなあたしに、紗枝子ちゃんは微笑んだ。……悪魔のような笑顔を)
紗枝子
「どちらを選ぶかなんて、考えるまでもないでしょう?」
美海
「なぜ……誰なの、誰があなたにそんな命令を、なぜ」
紗枝子
「それは私もわからないの。
 けれど、考案したのは、菫谷だそうよ。
 それはあなたもさっき聞いた通り……ああ、モニターで見ていたの。
 あたしも部屋を与えられてね、そこへ、閉じ込められていた。ずっと」
美海
「……………………」
紗枝子
「あなたたちが殺し合う様子をね、
 …………ずっと、見ていた」
美海
「……………………」
紗枝子
「…………虫も殺せぬようなあなたが、
 彼氏を見殺し、親友を裏切り、友達を殺して、生き残った。
 ここまでは菫谷の野望通り。

 彼の勝利条件はね、あなたが一人で生き残ることだったのよ。
 彼も、プレイヤーだったの。

 でもあなたは彼をも殺した。
 ずっと罪を償い続けて来た相手を、みんなの命の重さと引き換えにね。
 ……そして、あなたはそれすらも背負おうとしてる、そうとうの覚悟を以てしてね」
美海
「……………………」
紗枝子
「……わからない?
 そこまでのものを背負ったあなたを撃ち殺すことが、
 …………それも、大金に目が眩んだ私に、嬉々として殺されることが、
 どこぞの変態さんの興奮ポイントなのだそうよ?」
美海
「……………………」
紗枝子
「あなたが菫谷を殺さなければ、私もこんなことをしなくて済んだのに……残念だわ」
美海
「……っ!」
(紗枝子ちゃんはそう言って、銃弾を放った。
 あたしは、その場に伏せた。
 間一髪弾は逸れ、あたしの頭上を通過していった)
紗枝子
「あら、意外と難しいのね」
美海
「……っ! 紗枝子ちゃん!」
(あたしも銃弾を放った。
 あたしが放った弾は、油断していた紗枝子ちゃんの右肩を見事に撃ち当てていた)
紗枝子
「うっ……」
美海
(呻き声をあげて、紗枝子ちゃんがよろめく)
紗枝子
「…………白百合さん、あなた…………」
美海
「……死ねない。死ぬわけにはいかないの」
(紗枝子ちゃんはあたしの言葉に、憎悪を剥き出したように睨み付けた)
紗枝子
「…………話が違うじゃないの。
 …………白百合さんにまで銃を与えているなんて」
美海
「はぁ…………はぁ……」
紗枝子
「いい? 白百合さん、あなた、犯人を殺したいみたいだけど。
 ……彼らは捕まらない、見付からない。
 あなたの想いは、願いは叶わない、絶対に」
美海
「なぜそうと言い切れるの!」
紗枝子
「直接話したからよ。
 ……そもそもね、このゲームはあなたのために用意された舞台だった。
 あなた、裏ビデオで相当のお金持ちに売られていたそうじゃない。
 それで目をつけられちゃったのね。菫谷は、利用されただけ。
 ……裏社会に精通している人物で、そうとうの金持ちで、強者。
 警察が見付けられないのに、どうやってあなたが見付けるの?
 無理よ、無理無理、あなたには絶対に無理。

 …………大人しくわたしに殺されなさいよ」
美海
「…………それでもあたしは……諦めない」
紗枝子
「……………………」
美海
「……………………」
紗枝子
「……っ」
美海
「…………っ」
(あたしたちは同時に銃弾を放った。
 何度も何度も撃ち合いになり、あたしの体を弾が貫通していく)
紗枝子
「っ……ぁあ」
美海
(紗枝子ちゃんも…………ぼろぼろだった。
 そして…………あたしが放ったひとつの銃弾が)
紗枝子
「っ!!!」
美海
「…………っ、……うぅ」
(あたしの放った銃弾が…………紗枝子ちゃんの額を貫通した)
紗枝子
「………………………………」
美海
「はぁ、はぁ…………っはぁ」
(紗枝子ちゃんは膝から崩れ落ちて、起き上がることはもうなかった)
美海
「……はぁ、っつぁ……はぁ、はぁ」
(身体中が痛い。
 見ると、肩と、太股と、鳩尾の辺りから血が溢れ出していた。
 …………時期に、この痛みも麻痺していくだろう。
 あたしは、かろうじて立ち上がった)
美海
「はぁ、はぁ、……はぁ、はぁ」
(あたしは、足を一歩、二歩と踏み出した。

 生きていく…………。
 みんなの死を、背負っていく。

 あたしは……あたし、は…………)
美海
「………………ぁ」
(あたしは崩れ落ちた。

 生きていく…………なにがあっても必ず。
 アキラ、朔也、果帆、由絵、勝平くん、小田切くん、……みんな。
 …………昂太、如月くん…………)
美海
「………………………………」
(生きて、いく…………。

 ………………………………。

 …………………………………………。)




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