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051.22日目『シ者』
(…………あたしは、拳銃を持ったまま、地下牢のようなところを歩いていた。
アキラや小田切くんが言ったように、やっぱりあたしたちが閉じ込められていたのは地下だったんだわ。
…………出口はどこなのだろう)
「…………みんな」
(越えて行く。みんなの死を、あたしは)
「……………………」
(曲がり角へ出た。
…………そこで、あたしは)
「紗枝子…………ちゃん…………?」
「お久しぶり、白百合さん」
「……………………!」
(紗枝子ちゃんはそう言って、あたしに銃口を向けていた)
「紗枝子ちゃん……? なぜ、どうして」
「私だってこんなことしたくないのよ?
……でもね、これが私のゲームなの。
あなたをこのまま逃がして負けるか、……あなたを殺して、勝つか。
負ければ死、勝てば、…………三億円だそうよ」
「…………っ!」
(紗枝子ちゃんまで巻き込まれていたなんて思わなかった。
あたしは、混乱していた。
そんなあたしに、紗枝子ちゃんは微笑んだ。……悪魔のような笑顔を)
「どちらを選ぶかなんて、考えるまでもないでしょう?」
「なぜ……誰なの、誰があなたにそんな命令を、なぜ」
「それは私もわからないの。
けれど、考案したのは、菫谷だそうよ。
それはあなたもさっき聞いた通り……ああ、モニターで見ていたの。
あたしも部屋を与えられてね、そこへ、閉じ込められていた。ずっと」
「……………………」
「あなたたちが殺し合う様子をね、
…………ずっと、見ていた」
「……………………」
「…………虫も殺せぬようなあなたが、
彼氏を見殺し、親友を裏切り、友達を殺して、生き残った。
ここまでは菫谷の野望通り。
彼の勝利条件はね、あなたが一人で生き残ることだったのよ。
彼も、プレイヤーだったの。
でもあなたは彼をも殺した。
ずっと罪を償い続けて来た相手を、みんなの命の重さと引き換えにね。
……そして、あなたはそれすらも背負おうとしてる、そうとうの覚悟を以てしてね」
「……………………」
「……わからない?
そこまでのものを背負ったあなたを撃ち殺すことが、
…………それも、大金に目が眩んだ私に、嬉々として殺されることが、
どこぞの変態さんの興奮ポイントなのだそうよ?」
「……………………」
「あなたが菫谷を殺さなければ、私もこんなことをしなくて済んだのに……残念だわ」
「……っ!」
(紗枝子ちゃんはそう言って、銃弾を放った。
あたしは、その場に伏せた。
間一髪弾は逸れ、あたしの頭上を通過していった)
「あら、意外と難しいのね」
「……っ! 紗枝子ちゃん!」
(あたしも銃弾を放った。
あたしが放った弾は、油断していた紗枝子ちゃんの右肩を見事に撃ち当てていた)
「うっ……」
(呻き声をあげて、紗枝子ちゃんがよろめく)
「…………白百合さん、あなた…………」
「……死ねない。死ぬわけにはいかないの」
(紗枝子ちゃんはあたしの言葉に、憎悪を剥き出したように睨み付けた)
「…………話が違うじゃないの。
…………白百合さんにまで銃を与えているなんて」
「はぁ…………はぁ……」
「いい? 白百合さん、あなた、犯人を殺したいみたいだけど。
……彼らは捕まらない、見付からない。
あなたの想いは、願いは叶わない、絶対に」
「なぜそうと言い切れるの!」
「直接話したからよ。
……そもそもね、このゲームはあなたのために用意された舞台だった。
あなた、裏ビデオで相当のお金持ちに売られていたそうじゃない。
それで目をつけられちゃったのね。菫谷は、利用されただけ。
……裏社会に精通している人物で、そうとうの金持ちで、強者。
警察が見付けられないのに、どうやってあなたが見付けるの?
無理よ、無理無理、あなたには絶対に無理。
…………大人しくわたしに殺されなさいよ」
「…………それでもあたしは……諦めない」
「……………………」
「……………………」
「……っ」
「…………っ」
(あたしたちは同時に銃弾を放った。
何度も何度も撃ち合いになり、あたしの体を弾が貫通していく)
「っ……ぁあ」
(紗枝子ちゃんも…………ぼろぼろだった。
そして…………あたしが放ったひとつの銃弾が)
「っ!!!」
「…………っ、……うぅ」
(あたしの放った銃弾が…………紗枝子ちゃんの額を貫通した)
「………………………………」
「はぁ、はぁ…………っはぁ」
(紗枝子ちゃんは膝から崩れ落ちて、起き上がることはもうなかった)
「……はぁ、っつぁ……はぁ、はぁ」
(身体中が痛い。
見ると、肩と、太股と、鳩尾の辺りから血が溢れ出していた。
…………時期に、この痛みも麻痺していくだろう。
あたしは、かろうじて立ち上がった)
「はぁ、はぁ、……はぁ、はぁ」
(あたしは、足を一歩、二歩と踏み出した。
生きていく…………。
みんなの死を、背負っていく。
あたしは……あたし、は…………)
「………………ぁ」
(あたしは崩れ落ちた。
生きていく…………なにがあっても必ず。
アキラ、朔也、果帆、由絵、勝平くん、小田切くん、……みんな。
…………昂太、如月くん…………)
「………………………………」
(生きて、いく…………。
………………………………。
…………………………………………。)