052.『The end』


千恵梨
「……………………」
(そうして、白百合さんは死んだ。
 あたしは物陰から、その様子を眺めていた。
 …………ほくそ笑みながら)
千恵梨
「……………………」
(全ての元凶は、あたし。

 あたしには、父が二人いる。
 今一緒に暮らしている血の繋がらない父と、実の父親が。
 実の父のことは、実はあまりよく知らない。
 ただ、莫大な資産家だと言うことは知っていた。

 あたしは実の父に接触した。去年の5月のことだ。
 実の父はあたしが会いに来たことを非常に喜んだ。
 そして…………、あたしは両親にも内緒にしたまま、実の父との密会を繰り返した。)
千恵梨
「……………………」
(…………ある日のこと。
 父の家に泊まりに行ったときのこと。
 父はあたしを溺愛していて、寝泊まりはいつも父の自室だった。
 夕飯の準備をしていたのに、仕事が遅くなると父はあたしに言った。
 仕方がない。あたしは暇をもて余していた。

 探検がてら、父の屋敷を探索していたあたしは、あるものを発見してしまったの。
 それは…………広大な地下室と、白百合さんの裏ビデオだった)
千恵梨
「……………………」
(白百合美海…………。
 あたしがこの世で最も憎んでいる女。

 なぜ? …………乃木坂くんの求愛を受けているからよ。
 中等部の頃から、彼女が憎くて憎くて堪らなかった。
 そんな彼女の…………ポルノ映像にあたしは興奮を隠しきれなかった。
 父が裏ビデオを見てるとかそんなことどうでもいい。
 ただ、彼女の弱味を握れたことが嬉しくて仕方なかった。

 あたしは迷った末、父に説明を求めた。
 父は始め、なんとか誤魔化そうとしたものだけど、…………あたしの中に眠っている歪んだ人格を見抜いたみたい。
 親子である証拠よ。結局は、あたしも父も、歪んだ人格を隠して生きているクズ人間だったと言うこと)
千恵梨
(…………父のポルノ映像は、他にも様々な種類のものがあった。
 そのほとんどが、女の人が惨殺されたり、拷問に合ったり、凄惨なものばかりだった。
 白百合さんはそんな扱い受けていないけれど…………疑問に思ったあたしは、彼女は平凡なポルノ映像だけど、それで満足なのか問い掛けた。
 父は言った。この子が苦しむところが見たいんだと。
 あたしはほくそ笑んだ。黒い闇を隠しきれなかった)


千恵梨
ねえ、パパ。
 この子、あたしの中等部時代の元クラスメイトなの。
 そして、あたしが世界で一番憎んでいる女なのよ。



千恵梨
(父は大声をあげて笑い転げた。
 それは、あたしと同じ黒い闇に包み込まれていた。
 父は言った。殺しちゃおうか、と。
 あたしは言った。ただ殺すだけじゃつまらない、と)
千恵梨
「……………………」
(そうして、あたしと父親の計画が始まった。
 あたしは言った。どうせなら、ムカつく奴ら全員殺してやりたいと。
 父は笑って頷いた。

 まず、あたしがムカついている奴らのリストを書き出した。
 白百合美海、佐倉小桃、七瀬和華、乃木坂朔也、道明寺晶、有栖川直斗、筒井惣子郎、都丸弥重。
 なぜ? 白百合美海は乃木坂くんに好かれていたから。
 小桃と弥重は乃木坂くんのことが好きだったから。
 道明寺晶と有栖川直斗は乃木坂くんと親友を公言するほど仲が良かったから。
 乃木坂くんはあたしに見向きもしなかったから。
 筒井惣子郎と和華はあたしを差し置いてみんなの信用を集めていたから。

 この7人を中心に、メンバーが選抜された。
 間宮果帆や八木沼由絵、千景勝平、和歌野岬や小日向花菜は、白百合さんや乃木坂くんたちと仲が良かったから。
 竜崎圭吾は筒井くんと仲が良かったから。
 目黒結翔と小田切冬司は、筒井くんとも仲が良いし、白百合さんにも並みならぬ感情を抱いていたから。
 秋尾俶伸は弥重と付き合っていたから。
 …………本堂空太に関しては、おまけみたいなものよ。小桃のことが好きだったし、間宮さんと付き合っていたから。

 ただ、父親は美少年や美少女が好みらしくて、秋尾俶伸と都丸弥重はただの捨てゴマにされてしまったけどね。

 そうして計画を立てる内、白百合さんと菫谷昴の過去と関係性を知った。
 ぞくぞくしたわ。こんな上手い話があるだなんて。
 しかも菫谷くんは美少年だったから、父の食い付きもよかった。
 あたしたちは彼を利用することに決めた。
 菫谷くんは、それはもうノリノリだった。よっぽど白百合さんのことを愛してたみたいね。
 可愛さ余って憎さ百倍というのは、あたしも乃木坂くんに対してそうだったから、なんとなく理解はできた。

 如月仁に関しては菫谷から直々に申し立てがあった。
 ゲームの内容についても、こうしたいとか、ああしたいとか、あたしたちが決めなくても勝手に彼が提案してくれた。

 …………水鳥紗枝子?
 …………あれは完全に父の好みなだけ。それだけの理由で巻き込んだだけよ。
 あたしはどうでもいいわ)
千恵梨
「……………………」
(とにかく、そうしてこのゲームは開かれることになった。
 父が地下にあんなものを作った理由も、いつか誰かでデスゲームでもさせて楽しむためだったみたい。
 とにかく、上手くいきすぎていた。

 彼女たちの誘拐や、秋尾くんや弥重の殺害は、裏業者にお金を払ってやらせた。絶対に足がつくことはないと言う。
 まあ、父がそう言うんだから、そうなのだろう)
千恵梨
「…………パパ」
(パパはあたしに微笑んだ。闇が渦巻くような黒い微笑みを)
千恵梨
「楽しかったわね、パパ」
(ああ、と、パパは頷いた)
千恵梨
「…………白百合さん、あなた、やっぱり綺麗だったわ」
(あたしは白百合さんの頭を足で小突いた。
 綺麗な薔薇にはトゲがある。まあ、あなたの場合、散々周りを巻き込んで、毒にしかならなかったわけだけど。

 それにしても…………喜劇よね。
 大切な人を亡くして、殺して、ここまで苦しめられて、それでも生きていこうと頑張ったのに結局殺されてしまうなんて。
 ……こんなに愉快なことはないわ)
千恵梨
「ふふふふふ」
(あたしは、笑いが止まらなかった)
千恵梨
「ふふふふふふふふふふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」


 ――――ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!


千恵梨
(薄暗い地下牢で、あたしとパパの笑い声が響いていた。
 いつまでも、…………いつまでも)



【完】


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