は?
050.22日目『追憶』
「…………どういう、こと?」
「…………俺が首謀者だった、ってこと」
「…………あなたが?」
「そう…………俺が」
「…………まさか、……まさかよ。
あなたにそんな力なんてない!!」
「もちろん、場所を提供してくれたのは俺じゃない。
…………当然、ボスでもない」
「じゃ、じゃあ! いったい誰が!?」
「さぁてな。……それは俺もわからねえんだ。
基本的に電話のやりとりだったし?
だが……お前のことを、お前たちのことをリークして、差し向けたのは、
……このゲームを考案したのは、俺……」
「っ、なんで! なんでそんなことを!」
「なんでだと思う?」
(そう言って、菫谷昴は…………昂太は横たわる如月くんの首根っこを掴みあげた。
呻き声をあげる如月くん。肌を露出させられていた彼は、全身アザだらけだったし、痩せ細って、衰弱が激しかった)
「如月くん!」
「…………さて、お別れだ、チェリーボーイ」
(彼はそう言って、拳銃を如月くんの頭部に当てた)
「……っ、だめ!」
(あたしは持っていた拳銃の銃口を、菫谷昴に向けた)
「っ…………!?」
「……………………」
(彼は驚いた顔をして、あたしを見た。
…………なぜ自分に銃口が向けられてるのか、わからないと言う様子で)
「…………どういうこと?」
「…………如月くんを離して」
「…………ああ。そうか。そういうことだったのか」
(俺の勝利条件は、単純に美海が生存することだけじゃなかったんだな。
美海が俺を殺すかも知れない可能性を与えた。
…………なるほど、な)
「…………美海」
「…………なによ?」
「如月を殺して、お前と生き残る。
…………それが俺のゲームで、勝利条件だったんだ」
「……っ、意味が、わからないっ!」
「お前が俺を殺すか、それとも生かすか。
…………それが『上』が俺に指定した、勝利条件だったってこと」
「……『上』ってなにっ、勝利条件ってなによっ!」
「ちなみにこいつの…………如月の勝利条件はな」
「話をそらさないで!」
「こいつの勝利条件はな、お前がとっとと死ぬことだったんだよ。
そうすれば俺はゲームを降りるからね」
「…………白、百合……」
「…………あたしが死ねば、彼は解放されたと言うこと?」
「…………そう。早い段階でな。
ご覧の通りほぼ飲まず食わずで、かろうじて生きてるだけなんで。
お前たちがとっととゲームを進めて、そしてお前が死んでれば、如月は助かったんだよ」
「な、なによそれ……あたしそんなの知らない!
聞いてない!」
「当たり前だろーが。
知らせないようにしてたんだから」
「…………もう一度言うわ。
…………如月くんを離して」
「…………もう手遅れだ」
「……撃つわよ!」
「だから、手遅れだっつってんだよ。
…………とっくに死んでてもおかしくなかったんだ。
どの道こいつは死ぬ、お前のせいでな」
「……っ、昂太!」
「…………その名で呼ぶなよ、美海」
「っ…………」
「…………可哀想な美海。
俺の人生を狂わせた元凶のくせに、綺麗なまんまの、可愛い美海。
…………やっと落ちぶれてくれたな。
一緒に生きようぜ、死んだように」
「…………あたしが生き残ることが、
あなたの勝利条件だったの?」
「そう、二人で生きていくことが……俺の望みだったんだ」
「…………如月くんを解放してあげて。
…………あたし、生きていくわ。あなたと。
過去も今も、全てを背負って、……あなたが望んだように、死んだように生きてあげるから」
「…………えりか」
「昂太! 一緒に生きるから!」
「…………どっちにしろこいつを殺さなきゃ、俺は敗北だ」
「昂太!」
「…………覚悟はいいか、チェリーボーイ」
(そう言って昂太は、引き金に力を込めようとした)
「昂太――――――――!!!」
(あたしは…………引き金を引いた)
「っっ――――――――」
「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」
(あたしが撃った引き金は、見事に、彼の胸に命中した。
…………彼は驚愕の表情を浮かべ、その場に倒れ込んだ)
「昂太…………」
(あたしは、彼に歩み寄ると、……彼のそばで膝を折った)
「…………決めた。あなたの分も、あたしが背負ってあげる。
…………あなたの罪は、あたしの罪。
長い間苦しめて、ごめんね。
あたしと兄を、…………許さないで。
好きなだけ、呪っていいから。
…………あなたの気が済むまで、あたしを苦しめて」
「…………俺を殺すことが、
…………お前の苦しみになる…………?」
「…………当然じゃない。
あたしたちは、被害者と加害者の関係なんだから。
…………なにがあっても忘れないわ、あなたの憎しみを苦しみを」
「…………お前への、愛も」
「っ…………昂太っ」
「…………地獄で、待ってる」
(そう言って彼は、……目をつむった。
そして、二度と目覚めることはなかった。)
……………………。
「如月くん…………しっかりして」
「…………し、白百、合……」
「喋らなくていいから。
……一緒に、脱出しましょう」
「おお、おれ、は……白、百合のあ、にに……、
……似、似てる……の、か……?」
「…………そうね。そっくりだった。
ぶっきらぼうな感じも、時々見せる笑顔も。
…………あたしにとっては良き兄だった。
…………でも、許されないことよ」
「そ……そ、…………か」
「…………巻き込んでしまってごめんなさい。
……さあ、肩を貸すわ」
「…………も、……もう、無理、だ……」
「如月くん!」
「…………ゲ、ームを、見……届ければ、
お、れは……自分の役割は…………お、わり、だと」
「如月くん!」
「そ、……おも、って、……たえ、たんだ……」
「…………そんな」
「白、百合……こ、こ越えて、行け…………俺、たちの、…………死、を……」
「如月くんっ……」
「泣く、なよ…………生き、続け…………ろ…………」
「如月くんっ? 如月くん! 如月くん!!」
「…………………………。
………………………………。」
(如月くんは、そうして息絶えた。
…………昔、兄に似ていると言う理由だけで、好きだった男の子。
……どこで歯車が狂ったの。
…………あたしがあなたを好いたことが、罪だったの……)
「……………………」
(あたしは立ち上がった。
…………生まれてくるべきじゃなかった。
…………でも。みんなに生かされたこの命。
絶対に無駄になんてしない。
犯人を、殺してやるんだから、…………いつか必ず)