プロローグ
「ふう……」
閉店作業を終えて、着替える前に休憩室で腰掛ける。
バレンタインフェアは大好評に終わったけれど、その分仕事量も多かったからいつもより疲れてしまった。
テーブルの上にチョコレートの箱。少し大きめで、高さもあって、ちょっと高そう。
誰かからのバレンタインのチョコかな? 開封済みみたいだから、中も気になるし蓋を開けてみた。
「っと。……ったく、一応全員宛てなんだから、食べるならちゃんと綺麗にしておけよな」
「!?」
箱の中で小さなシンがトリュフを両手いっぱいに抱えて運んでいた。
小さいシン、というより、顔が、頬っぺたがもちもちしてて、二頭身で、生き物として有り得ないけど、だけど、私にはちゃんとシンに見える。
「は?」
小さなシンは私に気付くと、チョコレートを抱えたまま私を見上げてきた。
機嫌が悪そうだけど、どうしよう……そのフォルムだと、すごく、すごく可愛い……
「……どういうことか知りたそうだけど、オレはちゃんとシンだからな。そこで見てるんなら手伝って。後、他のもその辺にいるから、間違っても踏むなよ。普通に死ぬ」
小さなシンが腰に手を当てて溜め息をついている。他のってことは……
「おいイッキュウ! こうなるとは聞いていないぞ!」
怒った声が聞こえた方向を見ると、シン同様、二頭身の小さなケントさんがドーナツの輪にハマって焦っていた。
「えー、そこからジャンプしたのケンでしょ? 僕とかインしてる状態からスタートなんだから、それは自己責任だと思うよ」
それに応えているのはコーヒーカップにハマっている小さなイッキさん。そうは言うものの、あまり困ってなさそうに見える。そうしている間にもケントさんはドーナツにハマったままちょこまかと走り回っている。こちらはこちらで抜けそうにない。
「っててて……」
また違う方向を見ると、小さなトーマが角砂糖の入った入れ物の中で転んでいた。
「立つこともままならないところから始まるとか……角砂糖、こんなに足場として悪いと思わなかったな……」
何度も立とうとしてるけど、立ち上がれそうにない。
「俺、まさかこうなって冥土の羊の裏で色々触れるなんて思わなかったよ……! これがいつもモーニングセットのパンに付いてくるジャムかな!」
後ろを振り向くと、まさかの小さなウキョウさんが嬉しそうな声を上げてジャムの中を覗いていた。
どうして皆がこんなことになってるかは分からないけれど、誰かから話を聞いてみないと……誰に話し掛けよう?
→シン
→イッキさん
→ケントさん
→トーマ
→ウキョウさん
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