イッキとの場合
コーヒーカップの中に佇むイッキさんに近付いてみる。すぐに私に気付いたイッキさんは私を見上げて微笑む。
頭でっかちな二頭身のフォルムだというのに、何故かその微笑みから妖艶さが消えていなくてドキッとしてしまった。こんなに、可愛らしいのに。
「どういうことか知りたそうだけど、君は心配することないよ。すぐに戻れるから、そのまま楽しんでるといいよ」
「はあ……イッキさんはいいんですか?」
「僕? まあ、変わった姿になるのは一度目じゃないしね。戻れるなら結構楽しい状況じゃない?」
イッキさんは臨機応変というか、順応性が高すぎるというか。
カップの中も飽きてきたのか、イッキさんはその短い手足を使って側面をよじ上ってカップの外に出る。
何とも愛らしい動きで自然と笑顔になってしまう。
「ちょっと動くには不便だけど、君がそうやって幸せそうに笑ってくれるなら大したことじゃないかな」
「私、そんなに笑ってましたか?」
「うん。笑ってたよ。まるで子どもでも見てるような目で」
確かに、この丸みのある姿を見ていると、歩き出したばかりの幼い子どもを見てるのと同じような気分になる気がする。
実際は年上の男性なのに、失礼かもしれないな。
「まさかとは思うけど……少し試して見てもいいかな? 肩に乗せてもらってもいい?」
「あ、はい。どうぞ」
屈んでテーブルに腕を着けると、イッキさんは私の腕を伝って肩まで登ってくる。肩に乗るイッキさんは驚く程軽い。妖精みたい。
「コーヒー、淹れて欲しいんだ」
「分かりました」
「……君って、すごく良い匂いがするよね。小さいとこの距離だし、尚更よく分かるんだけど」
時たまイッキさんらしい台詞が飛び出すけれど、恥ずかしいから適当に誤魔化す。
コーヒーを淹れてテーブルに戻ると、イッキさんはピョンと飛び降りて綺麗にテーブルに着地した。
テーブルにあった砂糖やミルクをその小さな体で足していく。
「はい、君、疲れてたみたいだから。君の好きな分量だと思うよ。まあ、淹れさせちゃったけどね」
「私の為、だったんですか?」
「そうだよ。僕は君のことばかり考えてる」
「もう……からかわないでください。今日は度が過ぎてますよ?」
コーヒーカップに指を掛けた時、イッキさんは全然からかってるつもりないよ、と呟いて、私の指に小さな唇でキスを落とした。
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