トーマとの場合
「わっとと……」
何度も転けては立ち上がるトーマが心配でトーマに近寄ると、私を見て困ったなって顔で笑った。
「おまえにカッコ悪いとこ見られちゃったなー」
「どういうことか分からないけど、仕方ないと思う」
トーマを優しく摘まんで角砂糖の上から脱出させると、モチモチの顔いっぱいに笑顔になって、頬をピンクにさせながら、おっ、サンキュ、なんて軽くお礼を言う。
いつものトーマの笑顔も大好きだけど、今のは反則、可愛すぎる。
「にしても不便だなー。おまえの願いらしいから全然付き合うけど」
「私の願い?」
「ああ、精霊とかって名乗るやつが、おまえの願いだからって俺達をこういう姿にしたってわけ」
「そんなこと願ったかな……戻り方はないの?」
私に何とか出来るなら、と思って聞いてみたけれど、トーマはうーん、と困ったように黙り込んでしまった。
「おまえは気にしなくていいよ」
「トーマ……」
トーマはそうやって、私には何もさせてくれない。そういうところが寂しいって、力になりたいって思うのに。いつも近くにいるのに、遠い。
「そんな悲しそうな顔しなさんな。すぐ戻れるよ」
笑顔で手を伸ばしてくるから、しゃがんでみると小さな小さな手で頭を撫でられた。
トーマはどんな姿になってもトーマ。ずっと、私のお兄ちゃん代わり。
せっかく小さくなったのだからとトーマを手の上に乗せて店内に入っていった。
お客様のいないガランとした空間は私でも広いのに、うっかり小さなトーマを落としてしまったら見つけるのが大変だ。
「視界が変わるのも案外楽しいもんだな」
「トーマ、意外と楽しそう」
「そう? まあね、おまえの願いなら叶えてやりたいし、おまえを楽しませてやりたいから」
「トーマは私ばっかりだね」
自分がこんな姿になって、戻れない不安はないんだろうか。
手のひらの上でちょこちょこと歩き回るのはすごく可愛い。
たまにつついてみると、こら、よしなさいって! と笑顔半分に怒られてしまうけど。
「あれ、おまえ、唇に埃が……」
「唇?」
何度か唇を摘まんで見てもゴミらしきものは取れてない。
「ちょっと持ち上げて」
トーマを顔の近くまで持ち上げると、その小さな手で唇に触れた。
「ほら、ここ。……!?」
そうトーマが口にした瞬間、トーマの身体が光りに包まれてみるみる元の大きさに戻っていく。
そしてお互いに驚いた顔で対面する。
何故か私よりトーマの方が驚いてるみたい。
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