空が僅かに白み始めた頃。窓の外に見える青々とした葉は朝露に濡れ、雫が煌々と輝いている。部屋の主たるスピカはその光を受けて緩やかに瞼を押し開け、ひとつ、小さな欠伸を漏らした。まだ鳥の囀りも疎らなこの時間に目覚めてしまうのは、彼女の悪い癖だ。
「おはようございます、レティ。」
まだ夢の世界に居場所を得ている専属の少女の髪を柔く撫で、自身はベッドからするりと降りる。チチチ、聴こえた一羽の囀りが耳に優しい。
少女――レティが目覚めるまでまだ時間がある。スピカは備え付けのコンロで湯を沸かし、珈琲豆を取り出すと鼻歌交じりに豆を挽く。ほろ苦い香りが部屋に立ち込めた。
朝のこのひと時が、スピカにとって至福の時間だった。奴隷として生きることを強要された頃には味わうことのなかった嗜好品。貴族に成った記念として飲んだあの味を、忘れることなど出来るはずがなかった。
「……スピカ、おはよう。」
「ふふ、おはようございます。寝癖がついていますよ、直してらっしゃい?」
「うん。」
起き抜けで眠そうに眼を擦るレティシアを見送り、スピカは挽き終わった珈琲粉をネルフィルターへ入れる。そして専用のサーバーの上に置くと、またも鼻歌交じりでお湯を注いだ。香りが花咲くように、一気に溢れ出し、スピカの頬を綻ばせる。幸せを運ぶ香りだ。
「スピカ、直してきた。」
「はい、よく出来ました。そろそろ珈琲が入りますから、一緒に飲みましょう?」
手際よくマグカップふたつ分の珈琲を注ぎ終え、スピカは微笑んだ。いつまでも、こんな幸せが続きますようにと。
シャウラ(Shaula)
種族/性別:ガチゴラス/♂
身長/年齢:202cm/31歳
性格/個性:ずぶとい/暴れることがすき
一人称/二人称:俺/お前、あんた、〜さん
能力:召喚(大きな獅子を呼び出す)
誕生日:6/16
誕生石/誕生花:ブルー・オパール(さわやかな愛情表現)/チューベローズ(危険な戯れ)
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人肉嗜食を拗らせた奴隷。性別関係なく気に入った相手を、文字通り「食べて」自分のものにしている。元は武器商人。18歳の時に飢えで今にも死にそうな状況が続き、近くを通った貴族を餌として食い漁り人肉の味に目覚めた。また、20歳で商業が旨くいかず奴隷落ちした。
そんな嗜好のせいで主人が出来ても気に入っては食い殺し、愛人関係にあった存在も好きだからと骨まで残さず食べ尽くしてしまい奴隷市場に何度も舞い戻っていた。しかし本人は気にする様子もなく、好きだから食べた事を隠さず周囲に話している。時に主人が失踪したと吹聴し、相手の反応を楽しむことも。
異常性が強いため、被害を最小限に抑えるため、と様々な理由をつけられて手枷で拘束されている。両手が使えないせいで犬食いをしている姿がよく目撃される。ポンチョのような衣服は以前に飼われていた主人の遺品で実際はマントで、それを勝手に改良して使い続けているらしい。眼帯の下に眼球はない。これは人肉嗜食に目覚めてすぐ、自分の眼を抉って食べたせいである。だが自分の肉は想像以上にまずかったらしく、それ以来食べていない。
奴隷としての要領は良く、何でもそつなくこなす。一応料理に関しては自信があるとのこと。得意料理はビーフストロガノフ。洋食が好きで、スイーツは洋菓子が世界で一番美味しいものだと豪語している。
召喚の能力で自分よりも更に大きな獅子を呼び出す。術者の嗜好を強く反映しているのか、召喚された獅子も相手を頭からばりばりと食べてしまう。しかし負荷が大き過ぎるので5分も経つと体力切れで転がる。あと10年若ければもっと善戦出来る、らしい。
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ベガ(Vega)
種族/性別:シャンデラ/♀
身長/年齢:141cm/64歳(現在14歳)
性格/個性:れいせい/好奇心が強い
一人称/二人称:妾(わらわ)/お主、そち
能力:浮遊(自分以外のもの(者・物問わず)を浮かせて飛ばせる)
誕生日:10/23
誕生石/誕生花:ウォーターリリー・リーフ・インクルージョン内包ペリドット(復活、生命力)/エンゼルトランペット(偽りの魅力)
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明るく元気な研究者でお子様な貴族。古風な喋り方でとても人懐こい。元々は64歳の老婆であったが、自身の研究テーマ「永遠の命、不老不死」の研究中に暴発が起こり反動で記憶を失い、幼い姿になってしまった。裏を返せば肉体の逆行と、研究は成功だったのかもしれないが本人に記憶が伴っていないので研究が発表されることはなかった。
記憶を失う前は冷酷で人付き合いの悪いベルガモット婆さんとして有名だった。なかなか社交界へ出ず、一人で研究室に篭りきりだったせいで、幼くなってしまった今は当時仕えていた専属たちも愛想を尽かせて独りぼっちに。名前も思い出せず、愛称で呼ばれていた「ベガ」が本名だと思い込んでいる。自分が誰なのか分からず、人の傍にいないと寂しくて泣き出しそうになってしまう。
だが昔と変わらず誰かを嬲る趣味があり、廃棄間近の奴隷を見つけては買い取って処刑ごっこという遊びに興じる。本当に首を断ち、きゃっきゃと笑いながら生首をホルマリン漬けにする姿は相変わらずだと一部で恐怖の対象になっているとかいないとか。残虐性は幼くなってセーブが効かなくなった分、増してしまった。
老婆だった頃に何冊か研究結果を纏めた本を出版している。小難しい内容のため一般の人からしたら、何の研究なのかさっぱり。実は他にも泣き止まない子供の為に、一冊だけ児童書を出版していた。だが本人の中では黒歴史だったらしい。
部屋は書物や実験道具が散乱しており、キッチンは使った痕跡が全くない。ごはんは適当に食べているらしい。また前述の通りホルマリン漬けやよく分からない薬、常人には理解出来ない実験結果などが好き勝手に置いてあるので入室し気分が悪くなるヒトが後を絶たない。
浮遊の能力は自分以外を浮かせる。自分は何があっても浮くことが出来ない。例えばソファに座ってソファを浮かすと、自分に強力な重力が発生してソファに穴が開き床に叩きつけられる。なので最近は諦めて、自分の周囲へ物を運ぶ手段として使っている。極端に重いものや地面に深く食い込んでいるものなどは勿論浮かすことは出来ない。
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