台本通りに愛したよ



子供の頃、森の中でまだ幼かった主人と出会った。
互いに惹かれ合ったそれは、恋慕や友情ではなかったと今では解る。自分に足りないものを補い合っただけで。己に足りないものを持っているから互いが素晴らしく見えた。互いに持てないものしか、持っていなかったのに。
出会って直ぐの別れの挨拶は再会の約束で、未来を信じるなんて出来なかったけど胸の奥に何かが灯ったのも確かだった。己には必要の無いものだと自覚もあったがこの熱を信じていれば大丈夫だと思った。そんな想いは自分だけだったと知った時、恥ずかしさで死ねると思った。なんて狭い世界に生きていたんだろうと絶望した。ならばと拡がる世界に踏み出すのは二の足を踏んだ。
知ったら、帰って来れない気がした。自分は本当に知りたいのかと思った。世界を開いて矮小な己と比較してそれが何になるんだろう。知ってしまえばもう赤く染まる夕焼け空を見ても綺麗だと思わなくなるだろうか。思っていた自分は何処にいくのだろうか。
自分は何所にいくのだろう。其所には彼がいないだろう。そんな場所にいたいだろうか。
結局自分は彼が基準で彼が中心で彼が凡てで其の事を不満に思った事すらあっただろうか。
認めてしまえば単純だった。所詮自分は、庇護すべき彼より己の方が幼かった事が恥ずかしいだけで。勝てないのなら諦めてしまえば楽だった。
守らなければは守りたいで、薄給は信用で、帰りたいは会いたいなのだ。きっと出会った時に決まってしまった事。偶然は運命だと云う人もいるし。敢えて逆らう意気地もないし。

偶然出会って、運命的に再会して、離れられない定めなら。いっそ皆まで流されて

「愛しちゃうしかないでしょ」

「…………面白くもねェ話だな」


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戦国 佐→幸
佐助は器用貧乏。
理屈ばかりこねまわして すっかり冷めた胸の奥が ただ一度の微笑みで こんなに見事に燃えるとは(BUMP)と云う設定

旦那と忍の過去(捏造設定)を知りたいなら、
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2014/10/26 ( 0 )





可哀相という言葉は彼が為に在った


起きたら目の前に顔があった。

「……近……」

寝起きで声が掠れた。
邪魔な顔を押しやって寝返りを打つ。

「おいコラ」

女とは思えないドスの利いた声。恐らく端整な顔を歪めている。

「わざわざ来てやったのに何だその態度は」
「どうせサボリに……ちょっとなに」

足に何かぶつかるなぁと思ったら、女子高生が遠慮も羞恥も無くベッドに足突っ込んで来た。

「寝るならあっちのベッドで……ってちょっと何してんのっ?」

なんで俺さまを跨いでんだこの女は。……顔面殴打狙い?この人の暴力は今に始まった事じゃないし腕相撲でも勝てないし。いいやほっとこう。と思ったら手を取って何か触らされた。

「……。ッ馬鹿か!」

胸でした。女子高生の胸触らされた!
凄まじい意思の力で腕を振りほどいて睨むと、片目でにやりと笑う。

「巨乳好きってresearch済みなんだよ」
「誰にだよもー」

無理矢理どかせたら絶対顔面殴ってくるに決まってるしな。仕方無いので全身で拒否。つまり俯せになった。

「かすが、だったか?アンタの女ほどではねぇか、な?」

俺のって別にかすがとはまだそんな関係じゃないし。触らせてくれないし。じゃなくて。彼女がいる男と思ってて乗るのか。どんな神経だ。

「襲われたいのかよ」

うんざり言うと快活な笑い声が上から降ってくる。……笑い事じゃないだろ。

「学校でするのが好きなんだろ?」
「……は?」
「巨乳教師と巨乳女子高生、あと教師、何だったかな」
「なっん、で、知って……!」

まさか旦那にもバレてないのに!?
思わず振り向いたら、にやにや笑ってる女が未だ馬乗りに。

「本棚の二層目なんて安直じゃねぇ?」

最悪。最たる悪だ。普通漁るならベッドの下とかじゃないの?なんで本棚の本の奥を調べるの。てーか男子だろ家捜しすんのは!

「据え膳だろ?」

男前な笑顔になんか泣きそうだ。あまりの脱力感に俯せに戻る気もしない。
どんだけ飢えても絶対この女にだけは流されないからな!

「犬だって待てが出来るのー」
「ンだよヘタレだな」

ヘタレとかの問題じゃない。
舌打ちをして、人のベルト外そうとしてるよこの女!本気で学校でする気か!

「ちょっとやめてマジで!」

腕を掴んで引き離す。身を起こしたら横に落ちた。

「寝たいの! 限界なの、俺は!」

大体俺さまは保健室に寝に来たのであって。こんな女の相手なんてしてる暇はない。体力回復しておかないと夕方の特売が。

「だから放っておいて……え?」

どさりと落下音がして、見ると旦那と元親さんが立っていた。旦那が鞄を落とした音らしい。……待て。今や立ち位置逆転してるけど。俺さま服乱されてますけど。女の子の足割って入ってるみたいだけどこれはこの人が上に乗っていたからでどれも全部原因はこの人なのに!

「破廉恥であるぞ佐助ぇぇえ!!」

拳を振り上げる旦那がものすごくゆっくりに見えた。
その後の記憶は無い。

……泣いてもいいですか。


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高校生 政♀→佐
忍と兄貴の為にある言葉です 政宗様は受ようが攻ようが乗っかる。

夫婦喧嘩は犬も食えないよ? →

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2014/10/19 ( 0 )





態とやさしく舐めてあげる


刃物を振り回す政宗を横目に見ながら、佐助は竃の前で膝を抱えるように座っていた。

「……楽しい?」
「of course!」

切り刻まれた野菜は色も形もとりどりで一見しただけで手間が掛かっていると判る。

「胃に這入ってしまえば全部おんなじなのに」
「やかましい」

献立として並べられればそれは目を楽しませるだろうと思いはするものの、見た目で腹が膨れるわけではない。

「口に這入ったら粉々なのに」

味だって美味い不味いが判ればいいし、もっと言えば害があるか無いかさえ判ればいい。
だん、と俎板に包丁を叩き付けて政宗が佐助を睨む。

「アンタの口はしゃぶるだけにあるのかっ」
「んーそぉだねって何を!? いや違うっ違うでしょ、しゃべるでしょ!? べ!」

適当に頷いた佐助が慌てて首を振ると政宗は鼻で笑った。

「焦る事が?」
「くぉ……腹立つ……っ」

先刻から上機嫌なのにも何故だか腹が立つ。何か言って不愉快な思いにしてやりたいが、その手で光る刃物を見るとやる気が失せる。溜め息を吐いて気分を切替え、佐助は独り言の様に呟いた。

「料理が趣味って、変なの」
「アンタだって作るだろ」
「それは毒見が面倒だし……けど別に極めなくても」
「どうせなら美味い方がいいじゃねぇか」
「そんなものかなぁ」

不味くなければいいだろうに。質より量な雇主はそういえば、握り飯くらい自分で作れと言って自分で砂糖で握って以来、大抵は味に文句を言わないなと思った。
あの時は色んな意味で涙が出た。

「……不器用さんが俺の為だけに頑張った、とかで充分だけど……」
「ah、アンタそーゆーplay好きそうだからな」
「ぷれい?まぁね、好きなのよ。料理上手も好きだけどー、出来る子だと逆に気になるよね、重箱の隅をつつくような?」
「それくらい目を瞑ってやれよ御母様」
「誰がおかん……」

あんたに言われたくない、と言おうとして政宗の背を見て、ふと佐助は思う。

「そうか出来る旦那様を貰うって手もあるな」
「オレとかな」

笑いながら大根を剥く政宗の背を見ながら佐助はまさか、と笑う。

「お婿に来てくれるの?」
「っ!」

小十郎さんの方がいいに決まってんじゃーん!と返すと思っていた政宗は思い切り手を滑らせた。

「ッ痛ぇ!」
「ばっ……何してっ」

佐助は慌てて駆け寄って、危ないから包丁を俎板に置かせて、血で汚れないように俎板と野菜を軽く遠ざけた後に、政宗の手を取って土間の方に向き直らせた。
全てが目に入ってはいたが、政宗は自分が動揺した事に動揺していて優先順位に文句を言うのも忘れていた。

「……手が滑った」
「どうして」
「アンタが馬鹿な事言うからだ」
「へぁ?」

血の割に傷は酷くない事を確認してから、佐助は患部の血を吸って包帯を探す。
気付いて、政宗は馬鹿にしたような困った様な微妙な顔をした。

「やっぱりその為にあるんじゃねぇか?」
「ん?…………ああ、そうかも?」

笑って、佐助はわざと口内の指に舌を這わせた。


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戦国 政×佐
料理が趣味な筆頭を。どうせ指じゃ済まなくなるんじゃないですか?

指で済まない筆頭に続くなら →

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2014/10/19 ( 0 )





少年と少年の共生論


土砂降りの中、一つの傘を奪い合いながら並んで歩く中学生二人を見つけて、側に車を停めた。声を掛ける前に、一人が気付いて飛び込むように後部座席に乗り込む。

「ちょっ、傘っ」

腕を掴まれて引き摺り込まれた少年は慌てて傘を畳んで、車内に収まった。

「送らせる」
「……いいの?」

袖で顔を拭う政宗様に、少年は鞄からタオルを出して頭から被せた。髪を拭く仕種が母親のようだ。

「構わねぇ。から、付き合えよ」
「まだ言ってんの? やだよ」

政宗様も大人しくされるがままでいる所から付き合いは良いようだ。

「英語見せてやらねぇぞ」
「そっちこそ試験前に国語のノート取ってくのやめてよ」

後部座席では中学生らしい会話が繰り広げられる。御実家で学校の話などされないだけに一層新鮮に感じられた。

「何が問題なんだよ」
「あのね、男同士だよ。問題でしょう?」

……何の話をしているのか。一抹の不安が生まれたが。

「細かい事を気にすんなよ」

政宗様に腕を掴まれ、少年の動きが止まる。溜め息は限られた空間内で大きく響いた。

「かなり大事でしょうが」

些事とは決して言えないが。嘴を挟むのは無粋と云うより大人げないだろう。
掴まれた腕を振りほどき、少年は随分濡れただろうタオルを自身の頭に被せた。

「だいたいさぁ……俺としては伊達ちゃんより小十郎さんのがいいしー」

何故こっちに矛先を向ける!? 以前に何故名前を知っている!?
思って、小さく噴き出してしまった。

「小十郎」
「は、」

後ろから座席を蹴られて背中が一度だけ跳ね上がり、ミラー越しに睨まれる。

「断れ」
「言われるまでもありません」

愉快な事を言ったつもりは無いが、こども組は目を瞠ってから、小さく笑い出した。
他にどう返せと。

「これで問題無いだろ」
「俺の意見は無視ですか」

踏ん反り返る政宗様の背中にすかさず腕を入れ、少年がシートが濡れると顔を顰めた。いやに姿勢のいい子供だと思った。

「問題が無いなら、冗談にしておいてよ」
「……そうか」

級友に政宗様がふられた様に見えるのだが、政宗様は渋るどころか笑っている。少年が逆に渋い顔をしていて。
さっぱりわからないが。
恋愛より友情、と云う少年期特有の事情だろうか。

……それで。
車は何処に向かわせればいいのか。


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中学生 政→佐
本気の恋愛なんてまだよくわかんない中学生。互いにノートがないと赤点。小十郎だぜは政宗様の父の秘書とか教育係のような?

何で相合傘してんの? →

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2014/10/19 ( 0 )





なれのはて


「戻ったぞ佐助!」

飛び起きて、床に散らかした服を慌てて着る。近付く足音に動悸が激しくなる。

「佐助ー?」
「おかえり旦那」

ギリギリで部屋から出る。今、旦那に部屋を見られるわけにはいかない。

「今まで寝ていたのか?」
「旦那は直帰?」

部活の合宿から帰ってくる旦那は必ず生傷だらけだ。そして空腹だ。

「汗流してきてよ。その間に何か作るから」

鞄を床に置き捨てて旦那は風呂に直行する。汗と土に塗れた服詰めの鞄はとりあえず部屋の隅に除けて置く。
何か作ると言っても昨日の残り物とご飯と卵くらいしかない。

「……おにぎりでいいかな」

昨日の残り物に火を掛けながら、玉子焼きを作って。冷やご飯は不味いのにおにぎりは冷えても食べられるのはどうしてかなぁ、とか考えながら握っていると風呂から上がった旦那が気付かなくてもいいことに気がついた。

「客がいるのか?」
「……どうして?」
「箸が多い」

元親殿か?と呟いて濡れた頭のまま部屋まで呼びに行った。…………知った事じゃないや。

「政宗殿!? 何故佐助の部屋に!?」
「なんだ泊まっちゃ悪いのか」

昨日と対極の不機嫌な声。
旦那にバレたら終わり。そう決めてこの事態だ。どうするかなんて知らない。
関わらないでいようと耳を欹てていたら、何事か叫んでいた旦那の声が突然、俺さまの部屋から飛び出して自分の部屋の方へ飛び込んで行ってしまった。
握り飯を並べて置いて、人数分の膳を揃えてから覗きに行ってみると、昨日からの客人は昨夜と同じ格好のまま布団の中にいた。

「……何て言ったの?」
「暑いから」

いくら旦那でも納得しないだろ。全裸で俺さまの布団にいるのに。暑いなら床にでも寝てろって話じゃないの。てーか下くらい穿け。

「佐助にbedの下に隠してんのバラすぞって」
「……ああ、お菓子」

バレてないつもりなのがすごい。じゃあ今頃はベッド下の物を更に奥に突っ込んでいるか、腹に納めているかのどちらかだな。
ずるずると布団の中に潜っていく客人を揺すって引き止める。

「伊達ちゃん二度寝しないで」

突然布団から生えてきた腕に首の後ろを押さえられて引き寄せられる。

「昨日あれだけ教えただろうが」
「……わかったから。ほら、起きなって、……政宗」

言うと得意の英語で朝の挨拶をしてキスされた。


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高校生 政×佐
旦那と忍は同居(not同棲)。繋いだ指の間から地を這う汚い雲を見た の翌日(展開が早いとかは無考慮で) 今回のお題通して名前を呼んでるのはこれだけ。なので、なれのはて。

昨日の晩御飯何食べた? →

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2014/10/19 ( 0 )




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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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