「伊達ちゃん飯食ってく?」
「ぁ?あ、ああ」
テレビに夢中なのか曖昧な返事をする客人をそのまま放置してキッチンに向かう。夕方なんてニュースくらいしかないだろうにそんな食い入るようなものあったっけ。
「uh……幸村はいつ戻るんだ?」
さっきまで夢中だったくせにもう飽きたのか、空になったペットボトルを持ったまま部屋から出て来て問う。
「は?旦那今日帰んないよ」
「……what?」
受け取って、ラベルを剥がしながら答えた。いっそ一括で作ればいいのに面倒くさいな。しかもよく見たら中身残ってんじゃねぇか。
「旦那は合宿。大会が近いからねー。旦那がいないといつも食うもの決まんなくて、さ」
「なんだと!?」
「なっ、なに?」
突然怒鳴られて、振り向くと愕然とした感じで片目を見開いていた。
「なんで早く言わねぇんだ!」
「え?さかなきらい?」
「最中だと困ると思って我慢してたのに!」
「なに言っふんぐ」
ずかっ、と近づいてきたと思ったら口を塞がれた。いや、うん、二人きりだってのに洗濯とか風呂掃除とか客を放置してた俺も、悪かったかなぁとか思うけど。思うけども、躊躇いが無いな。
ペットボトルで相手の肩を叩くとぽこんと間抜けな音がした。なんとか顔が離れた隙に息を吸う。
「なに、静かだと思ったら。ずっと耐えてたわけ?」
「いやずっと考えて」
顔を覗き込んで先を促すと気まずそうに顔を逸らした。
「幸村にどう言うか……」
「なんで言うの?」
「……huh?」
「言わないよこんなこと。男同士なんて嫌われちゃうじゃん」
なんで不機嫌な顔になるのかな。おかしな事を言っただろうか。恋人できましたとか吹聴する必要も無いだろうし、しかも同性だなんて旦那に報告したら軽蔑されちゃうよ。
「…………バレたら?」
「おわりだね」
ふぅ、と溜め息と一緒に答えると、離れてニヤリと笑った。離れてから気付いたけど腰に腕回されてたな、今。
「okay,バレても構わないって思わせたら勝ちだな?」
「いや勝ち負けじゃなくて」
わかったわかったと聞き流しながら、勝手に冷蔵庫を開けて中を漁りだす。
これは何だろう、食べ物の好みにうるさいのか、それとも先に疲れさせてはならないという思いやりのフリをしたセクハラか。
「今日泊まるからな」
「えー」
やっぱセクハラか。猶予は夕食終了までだろうか。喉から出そうで出ない文句とか見つかったら言い訳どうしようとか諸々を、流し込もうと持っていたペットボトルを飲み干した。
喉に残ったのは甘ったるいサイダー「まっずい」
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なれのはて の前。筆頭がどれだけ教え込んだのかは書きません。