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それはクリスマスイブの日、お昼を過ぎた頃のこと。
私は自宅のアパートで一人、携帯を持ったまま力なく座りこんでいた。
たった今、彼氏から別れを告げられたのだ。
理由は彼の浮気。
私と付き合いだしたすぐ後から、二股をかけていたらしい。
相手の女性も、彼が私と付き合っていることを知りながら交際を続けていたみたいで。
そして、私の方が振られてしまった。
彼から告白されて付き合い始めた関係だけど、一緒にいた時間は楽しかった。
彼はそうは思ってくれてなかったのかな。他に好きな人が出来たのなら、そう言ってくれたら良かったのに。
クッションを抱え込んで、うなだれたまま考えを巡らせる。
振られたことや二股をかけられていたこと、そして自分だけ何も知らずにいたことが、仲間外れにされ続けていたような気がして悲しかった。

クッションに顔を埋めたままぼーっとしていたら、ずいぶん時間が経ってしまっていた。
少しだけ顔を上げてみると、窓から入ってくる光が少し弱くなっていた。
カラスの鳴き声も聞こえてくる。
もう、夕方だ…。
心がきゅうっと締め付けられた。ゆっくりと寂しさが募ってくる。
たった一人で夕闇の中に取り残されてしまうような、孤独感。
今だけは誰かといたい。
誰かの声が聞きたい。
ふと思い浮かんだのは、あの人の顔だった。
私が彼氏と付き合い始めた頃に知り合った、年上の六つ子兄弟の一人。
今でも時々連絡をくれたり遊んだりしてくれる、大切な友達。
優しい人だから、きっと私の話も聞いてくれるはず。
…だけど。
こんなに暗い私を見せてしまってもいいのかな。
その人の前では落ち込んだりしたことなんてなかったから、いつも通りじゃない私を見せてしまうのが…何だか、少し嫌だな。
失恋話をしたぐらいで嫌われるような関係ではないと思うけど、どう反応しよう?って困らせちゃうかもしれないし…
そんな理由で、連絡しようかしまいか悩んだあげく、やっとその人に繋がる通話ボタンを押した。
長いコール音が続く。
もしかして、今忙しいかな…
そうだよね、何てったってクリスマスだもん。誰かと一緒にいるかもしれないし。
やっぱり切ってしまおうか、と思った時、コール音が途切れて彼の声が聞こえた。
いつもよりふわふわした声で私の名前を呼ぶ。お酒飲んでるのかな。
その後ろでは笑い声や何かの注文を取る声がざわめいていて、彼が居酒屋にいることが察せられた。

「もしかして、今飲んでた…?」

そう聞くと案の定、兄弟と飲んでる、というような答えが返ってきた。
きっと彼は今、幸せなんだろうな。
あちら側の賑やかで楽しそうな雰囲気と、薄日の差すしんと静まり返った私の部屋。
比べてしまって、余計に寂しさが襲ってきて。

「…ごめんね、何でもないの。…うん、邪魔してごめんね?それじゃ…」

言葉少なに電話を切る。
寂しいなら「私も行っていい?」とか言えばいいのに、できなかった。
彼はこっちの事情を何も知らない。彼が楽しい時間を過ごしていたって、何も悪くない。
それでも、また私だけ仲間外れにされたような気がして。
こんな風に考えてしまう自分の勝手さと情けなさに涙がにじんできた。
だめだ。いつまでも沈んでちゃ。気分転換しよう。
そう思った私は外に出かけることにした。家に一人でいると、どんどん気が滅入ってきそうだったから。
何も持たずに家を出て、あてもなく気の向くままに歩いていく。
街はクリスマスムード一色で、行き交う人たちは誰もかれもが幸せそうに見える。
寄り添いながらショーウィンドウを眺めるカップルを横目に見て、私の足はいつしか人混みを避けるように住宅地へと入っていった。
クリスマスの街を見れば少し気分が持ち直すかと思ったけれど、あまり思ったようにはいかなかったな。
たどり着いたのは前にも何度か来たことのある公園だった。
誰もいない公園。きっとみんな、誰かと一緒にクリスマスイブを楽しんでいる。
私は一人、噴水を眺められるベンチに座った。
水の音に耳をすませて何も考えないように努めてみたけど、ここに来て一気に悲しい感情が溢れ出してきた。
涙が頬を伝って止まらない。
ぽたぽたと落ちる涙が、コートに染みを作っていく。

「……っ、ぅ…」

周りに誰もいないのが幸いだった。
もう全部泣いてしまおう。
そしたらちょっとはすっきりして帰れるはずだから。


涙をぬぐう袖が湿って冷たくなってきた頃、遠くの方から誰かが走って近付いてくる足音が聞こえた。
ジョギング中の人だろうか。
空が暗くなり始めているとは言え、知らない人に泣き顔を見られるのが嫌で顔を伏せた。
足音はだんだん私の方に近付いてきて、通りすぎる……と思ったら、その人は私の側まで来て、急に立ち止まった。
な、何だろう…?
不思議に思って顔をちらりと上げる。
そこにいたのは、数十分前に電話をかけた相手だった。


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