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「待たせたな、カラ松ガール」

若干息を切らして、サングラスをかけたカラ松くんが私の目の前に立っていた。

「か、カラ松くん…?何でここに…?」
「フッ、お前のいるところなんてすぐ分かる…俺を誰だと思ってるんだ?」
「…カラ松くん」
「正解だ」

不敵に笑うカラ松くんが、私の隣に座った。いつものかっこいい座り方で。
そして、指で涙をぬぐってくれる。

「お前に涙は似合わないぜ…」
「…ありがとう」

普段と変わらないカラ松くんの振る舞いに心が和む。
たぶんだけど、あの電話を聞いて私の居場所を探し回ってくれたんだと思う。空気はすっかり冷えているのに、カラ松くんは何だか暑そうだから。
そんなことを一切言わないで、私のことを気遣ってくれるカラ松くん。
発言はいつも個性的だけど、誰よりも優しい人だってことを私は知っている。だから今日もカラ松くんの声が聞きたくなってしまったんだ。
でも、飲み会だったはずなのに…?

「カラ松くん、みんなと飲んでたんじゃないの?もう飲み会は終わり?」
「いや…まだあいつらは飲んだくれてると思うぜ」
「カラ松くんはもういいの?」
「ああ、今宵の月が俺を呼んでる気がしてな…一人出てきちまった」
「そっか。今日、月綺麗だもんね」
「あ…いや…お前のことなんだが…」
「え?」
「…フッ、いやいいさ…綺麗なことには変わりない」

カラ松くんがサングラスをしまう。

「それで?」
「え?」
「さっき電話で言わなかったこと、話してもらおうか」
「…」
「…なんてな。無理に口を割らせる気はない。…コーヒーでも買ってくるか。お前は?」
「え?あ、私は…お財布持ってきてないし、いいや」
「それぐらいおごってやる。そこで待ってろ」
「あ…」

返事も聞かないうちにすたすたと歩いていってしまったカラ松くん。
私が一瞬戸惑ったことをすぐ察したんだろうな。また、気を遣わせちゃった。
鼻をすすって、涙で崩れた顔を何とか立て直そうとする。
カラ松くんに変な顔見られちゃったな…鏡ぐらい持ってれば良かった。
辺りはもう暗くなってきていて、顔なんかもう分からなくなっていると思うけど。
…うん、カラ松くんに、ちゃんと話さなきゃ。
私を探してここまで来てくれたんだから。
私が決意を固めている間に、カラ松くんが戻ってきた。
差し出された温かい缶コーヒーを両手で包むと、気持ちもほっこりしていく。

「ありがとうカラ松くん。おごってもらっちゃって」
「お前の前ではどんな贈り物をしたってかすんでしまうものだ…まあ、お前が喜んでいるのなら良しとしよう」
「うん。嬉しい」

缶を開けて一口飲む。
温かい…!体の中から温まってく。気付かなかったけど、私けっこう体冷えてたんだなぁ。
ふと隣に座ったカラ松くんを見ると、パーカーのポケットに手を入れて何もしないでいた。
腕まくりをしたままだし、肌色の部分が見えて何だか寒そう。

「カラ松くんコーヒーは…?」
「あ、ああ…買う直前で気が変わった。今はコーヒーって気分じゃない」

カラ松くんはこう言ったけど、たぶんお金が無かったんだろうなって思う。
チビ太くんのおでん屋さんにも、いつもツケで食べに行ってるみたいだし。
なのに、私の分のコーヒーを買ってきてくれたんだ。
カラ松くんに気付かれないように笑って、缶コーヒーを差し出した。

「気分じゃないかもしれないけど、コーヒー飲む?温まるよ」
「…いや、それはお前の分だ。遠慮せずに飲め」
「元々カラ松くんのお金で買ったんだし、カラ松くんこそ遠慮しないで?あ、本当に飲みたくないなら別にいいんだけど…」
「フッ…お前の厚意を無駄にするわけにはいかないな」

良かった、受け取ってくれた。
…でも、飲もうとする直前でカラ松くんは固まってしまった。
缶コーヒーを凝視してる…何となくだけど、汗もかきだした気がする。
熱くて飲めないのかな?カラ松くんって猫舌だったっけ。
そんなことを考えていると、ようやく意を決したように一口飲んだ。
そしてすぐ私に返してくれる。

「確かに、温まるな」
「だね」

私ももう一口飲む。
それをカラ松くんはまたじっと見ていた。
ものすごく見つめられていた気がする。何なんだろう?

「あの…何か私についてる?」
「い、いや…別に…」

カラ松くんは言い淀んだ後、かんせつがどうとか口の中で呟いていた。
さて、温かいコーヒーで大分気分も楽になったし、カラ松くんに全部話そう。
カラ松くんは何て言ってくれるんだろうなんて考えてるあたり、私は本当にカラ松くんに甘えていると思う。
カラ松くんは私を傷付けるようなことを言ったことがないから。
ずるい女だな、私って。
そんな自分の本性を見抜かれたから、二股なんてかけられたのかな。
自業自得かもね。


全てを話してしまってから最初にカラ松くんが言った言葉は、

「お前は何も悪くないさ」

だった。

「…カラ松くんは優しすぎるよ」
「ハッ…そいつが愚かな男だったというだけだ」

鼻で笑って足を組んだ。

「もしかしたら、私に足りないところがあったのかもしれない」
「パーフェクトな人間などいない。それにお前は誠実だった。浮気なんてしていない。そうだろう?不誠実な男ほど救えないものはないからな」

そうやって私のことを全肯定してくれる。
それが心地いいと思ってしまう。

「…私、カラ松くんといると駄目になっちゃいそう…」
「なっ、何でだ!?俺が何かしたか!?」
「ううん、カラ松くんは何もしてないけど…私、カラ松くんにいつも甘えてる気がして。カラ松くんと一緒にいると楽だなーって思っちゃうの」
「フッ…気にする必要はない。俺の胸はいつもカラ松ガールのために空けてある。辛い時はいつでも飛び込んできて構わないぜ…」

髪をかき上げながらまた私を甘やかすことを言うから、思いきってカラ松くんの体に身を預けてみたら、

「っ、杏里ちゃ…!?」

一瞬息を飲んで小さく声を上げられた。
私を杏里ちゃんって呼ぶのは、カラ松くんが素に戻った時だ。
いつも余裕そうなカラ松くんがかなり動揺している証。
たまらずくすくすと笑い声を上げてしまう。

「カラ松くん動揺しすぎ…っ、自分で言ったんじゃない、あはははっ」
「…ま、まったく…ギルティな子猫ちゃんだ…」

耳を寄せた胸から、激しい心臓音が聞こえる。でも今の私にとっては心地いい音。
あの彼氏とはこんなことしたことなかったな。何となく甘えられなかった。ああ、彼にとってはそういうところで距離を感じたのかも。
もっとこうしていれば、なんて今さら後悔してもどうしようもないことをぐるぐる考えてしまっていて、切なくなってきて。
気が付けばまた、涙がこぼれ落ちていた。
私の雰囲気で分かったんだろう、カラ松くんがそっと肩を抱いてくれた。

「俺はいつでもここにいるから」

カラ松くんは優しすぎる。

「…私、カラ松くんを好きになれば良かったな…」
「……今からでも遅くないぜ」
「何でそんなこと言うのー!もうー!」

もう涙声になってしまってるのも構わない。

「な、何でって」
「カラ松くんは優しすぎる!思ってもないのにそんなこと言っちゃだめなの!」
「俺は嘘はつかない」
「うぅぅ」

カラ松くんのパーカーに、私の涙の染みがいくつも出来ていく。
いい加減離れようとしたけど、カラ松くんが肩を抱く手を離してくれなかった。

「お前はどうなんだ」
「…っう…なに、が」
「…俺を好きになれば良かったって、そんなこと思ってないんじゃないのか」
「…!…そんなこと…」
「フッ、いいさ…俺は全てのカラ松ガールのものだからな」

優しく肩をぽんぽんと叩いてくれる。

「……カラ松くんは、」
「ん?」
「浮気とか、しない?」
「そんな愚かな男に見えるか?」
「だって、全てのカラ松ガールのものなんでしょ?」
「…む」

…ちょっと意地悪言ったかな。ごめん、と取り消そうとした時、

「お前が望むなら、お前だけのものになろう」

その言葉は、私の胸に深く深く突き刺さった。

「うわぁぁぁんカラ松くんのばかぁぁぁ!」
「えっ…!?」
「わぁぁぁぁん!」
「杏里ちゃん…!?えっちょっ、ごめん…!」
「カラ松くん好きぃぃぃぃ…!」
「っえ!?え!?」
「ぐすっ…カラ松くんが彼氏だったら良かったぁ…っ!」
「……」
「う、ふぇぇぇ…っぐすっ…わぁぁぁん…!」



焦りまくるカラ松くんを置いてきぼりにして泣きわめいた後、改めて「本当に俺がいいのか」と聞かれた。
こくこくと頷くと、明日のクリスマスの予定を尋ねられる。

「ううん、まだ何も」
「それじゃ、俺が一生忘れられない聖夜にしてやる」

期待しておけ、とサングラスをかけたカラ松くんはいつも以上にかっこよく見えた。
その前に、何で夜にサングラスをかけるのかが意味不明で笑っちゃったけど。
カラ松くんもつられて笑ってくれたのが、何だか幸せだなぁって思った。



後日、他の兄弟たちからカラ松くんはずっと私を好きだったこと、それを決して私に悟られないようにしていたことを聞いた。
だから特別扱いをされていたような記憶はないけれど、カラ松くんが誰にでも優しいんだってことはよく分かった。

「カラ松くん、これからは私にも甘えていいからね?」

カラ松くんは案外我が強くない人だから、色々と心細くなる時もあるんじゃないかなと思ってそう言ってみた。
もうカラ松くんの彼女だし、私もカラ松くんにしてもらったようにちょっとでも頼りにされたいから。

「フッ、お前の心は美しいな…」
「カラ松くんの優しさが移ったんだよ、きっと」
「いいや、お前は昔からそうだったぜ…だから俺は、」
「…………俺は?」

急に言葉を切ったから気になって尋ねると、しばらく無言で固まってから、

「…杏里ちゃんが、好きなんだよ」

と小さく呟いた。