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▼ ひみつのせいかつ5 1話の続き アキラにしては珍しく視線をうろうろと落ち着かなく動かしていることに、ヒカルは心底驚いてしまい目を丸くしてそのようすを見つめてしまった。 きょとんとして自分を穴があいてしまいそうなほどに見つめて言葉を失っているヒカルに気付くと、アキラは恐ろしい形相で迫った。 「進藤!」 「おっ?!」 アキラの大きな声に驚いてヒカルは飛び上がりかけた。 鬼気迫る表情で迫ってくるアキラにびくびくしながら顔を見上げる。 「その……引かないでほしいんだ…。君が結婚に関する話しを聞いたのはわかった。けど、それで君がこの同棲を解消するとかは……」 「それはない! ないよ!」 アキラの言葉にヒカルは手を横に振りながら全力で否定した。 「俺だって塔矢と一緒にいれないのは嫌だし………」 ヒカルは自分で言いながら、その言葉の大胆さに気付いて、頬を赤く染めながら震えた。 言葉にならない言葉をもごもごと発しながら、ヒカルはちらりとアキラを見上げた。自分で言っていて、とても恥ずかしい。 アキラはどんな反応をするだろう、と心配をしたヒカルだったが、アキラはアキラでヒカルの発言に照れていた。 「ぼ、僕も。同じだ。君と一緒にいたい、ずっと」 ぎゅっと手を握ってそう真摯な瞳で告げてくるアキラに、ヒカルは見惚れてしまい、雰囲気に流されてしまったように「俺も」と頷いていた。 傍から見ればどこにも綻び具合が見当たらないカップルである二人だが、この二人、未だに未経験のままである。 1話おわり 適当にまとめたらちゃんとUPします 1話あたり4000字くらいにしたい 遅筆だからうーんってかんじだけど 2013/06/16 23:46 |
▼ ひみつのせいかつ4 1話のつづき 明子にかけられた言葉が気になって仕方がなかったヒカルは、その日家に帰ると自分の母親にもそれとなく聞いてみることにした。 「塔矢くんなら安心だわ」とアキラに関しては好印象の美津子は、笑顔で明子と同じようなことをヒカルに言ってのけたのだ。ぎょっとしてヒカルが目を白黒させかけたものの、美津子の不思議そうな視線になんとか体裁をととのえる。 「でも、結婚とかまだはやくない? ていうか、そういうことお父さんも考えてんの?」 はじめは反対したものの、アキラの真摯な態度に折れてみせた父。 まさか父も結婚なんていうキーワードがよぎったから同棲を許したのだろうか、とおもってヒカルがたずねると、美津子は頷いた。 「あらぁ、もちろんそうに決まってるじゃない。私、お父さんから聞いたのよ」 「えっ…?」 「塔矢くんがうちに来たときに言ったんじゃないかしら? あんたもふたりの話し聞いてたんじゃなかっの……?」 首をかしげてきた美津子に、ヒカルは苦笑してごまかす。 たしかにアキラがうちをたずねてきた時、ヒカルはこっそり聞き耳を立てていたのだが、あまりの話しの長さに面倒くさくなってしまい途中で自室に戻ってしまったとは言えない。 「あはは〜そういえばそんなだったような……」 これ以上ボロを出したくなくてヒカルはそう言うと、美津子がせっかく久しぶりに来たのだから、と茶菓子を口に放り込んでお茶を一気に飲み干すと、足早に去ろうとする。 「もう帰るの? ヒカル」 やや残念そうに言う美津子に、悪い気はしながらもヒカルは迷いなく頷いた。 家に帰って、アキラに問わねばならないことがある、とヒカルは思った。 「ごめん。また来るよ。明日も手合いあるし、じゃあね」 「気をつけて帰りなさいよ」 美津子はさっさと帰ろうとするヒカルに手を振り、ヒカルもそれにこたえた。夕暮れの道を歩きながら、ヒカルは家への帰路を急いだ。 *** 家に帰ると、リビングのほうから料理の匂いがした。今日は手合いで名古屋のほうへと行っていたはずだが、はやめに帰ってこれたのだろう、アキラがそこにはいた。 エプロンをちゃんとつけて手際よく料理する後ろ姿をじっと眺めて、ヒカルは声をかけた。 「ただいまー。今日はやいな? もしかして終わってすぐ新幹線乗った?」 冷蔵庫からペットボトルを取り出して口をつけて飲みながら、ヒカルが聞くとアキラは振り向いた。 「おかえり。新幹線で帰ってきたよ。午後にすぐ終わったから」 くん、とヒカルがにおってみれば、醤油とだしのにおい。 美津子がつくるものは洋食が多かったせいかはじめこそあまり慣れないにおいだったが、同棲も数カ月経ったいまではもう慣れつつある。 「今日、お母さんとこ行ったんだけどさあ……」 ちらりとヒカルは鍋の中身の加減を見ているアキラの背中を見る。 「おまえさ、なんかお父さんに言ったりした?」 「なんかって?」 まだ鍋のなかをじっと見つめたままのアキラが振り向きもせずに聞き返す。 ヒカルはそのことにやきもきしながらも、ゆっくりと言葉を吐き出した。 「……その、さ。ケッコンとか、そういう言葉」 くつくつと鍋の中身が煮える音だけが響く。 ぴしりと固まってしまったアキラの背中が、ヒカルには見えた。 言ったほうのヒカルがそれに驚いて、目を丸くして名前を呼ぶ。 「塔矢……?」 カタン、と金属がぶつかりあう音がして、アキラは勢いよく振り向いた。やや恥ずかしげに歪んだ顔は、真っ赤に染まっている。 「僕は、その、すぐに結婚がしたいだとか、そういうことを考えて言ったわけじゃないんだ。ただ…口が滑ったというか」 2013/06/15 23:46 |
▼ ひみつのせいかつ3 1話:少女は夢を見る ヒカルはここ最近、悩んで悩んで仕方がないことがあった。それは、現在同棲中の相手である塔矢アキラとの関係についである。 ヒカルとアキラが無事に恋人同士になってからというものの、二人は一年以上、以前のライバル同士という関係とまったく変わらない生活を送っていた。 同じ年頃の、高校生である男女が付き合っているならば経験するであろう色事とは無縁の生活である。 一方で、まわりの彼氏のいる友人とはまったく違う方向性で付き合ってしまっている自分たちの関係を心配したヒカルが、なんとか一緒のところに住むという、これまた同じ年頃の高校生カップルなら縁のないことを成し遂げてしまっているのではあるのだが。 同棲することに関して双方の両親が承諾したことは良いことであった。こんなに上手くいっちゃっていいんだろうか、だなんてヒカル自身も考えてしまったことで、アキラはどう思っているのだろうかとうかがってみても、意外にもアキラにも反対するそぶりはまったくなく、むしろ嬉しそうに笑んでいた。 思ったより自分たちって上手くいってる?なんて思ったのもつかの間、ヒカルはアキラの母・明子からとんでもないことを耳にする。 「進藤さんとアキラさんが同棲だなんて…いつ結婚式を挙げることになるのか楽しみだわ」 ふふ、と少女のようにふんわりと笑ってみせる明子に、ヒカルは正面で正座をしながら思わず顔を引き攣らせて「え、」と言っていた。 その驚いて焦ったようなようすにも明子は気にするそぶりを見せず、マイペースに話しを続けている。 「アキラさんも女の子と付き合うことがなかったみたいだから……恋人が出来て私もうれしいわ」 ヒカルは視線をきょろきょろと忙しなく動かしながら、はあ、と心ここにあらずといったように返事をして茶をすすった。 なぜこんなことを言われているんだろう…とヒカルは明子を目の前にしながら冷や汗をかいている。 今日はアキラとともに塔矢邸を訪れたのだが、肝心のアキラはいま席をはずしている。 はやく帰ってきてくれ、と思いながらヒカルは微笑む明子にえへへ、と締まりのない笑みを浮かべている。 「さ、さあ〜どうなんでしょうね…。まだ俺たち若いですし、そういうことは早いんじゃないかなっと……」 なんとか言葉を返したヒカルはそう言って明子に笑いかけるが、明子は意外そうに目を瞬かせて、ヒカルが期待した言葉とはまったく違う言葉を吐いてみせた。 「先日来たアキラさんの誕生日で、ふたりとも十八歳じゃない。遠い話でもないわ」 にこにことヒカルに期待するように目を向けてくる明子に、ヒカルは居たたまれなくなって、俯いて再度茶をすすった。もうすする茶がなくなってきている。 どうしようどうしようとヒカルがうんうん心の中で唸りながら言葉を探していると、廊下からアキラが顔を出した。 「戻りました……ってあれ? 進藤、どうしたの? 顔色悪いよ」 不思議そうにアキラが俯きっぱなしのヒカルを見つめている。 勢いよく顔をあげたヒカルは、アキラに言い訳がましく言った。 「べべべ別に! 大丈夫、大丈夫だしっ全然!!」 「そう? 汗もかいてる……」 「あ、暑いのかな! ほら、厚着してるし!」 あくまで大丈夫なのだと言い張るヒカルに、それ以上アキラも追及することはせずに、向き直って明子と話しはじめた。 話の矛先が逸れはじめた会話を聞きながら、ヒカルはほっとして肩を下ろした。 それにしても、と思う。 まさか明子が結婚を前提とした同棲と思っているとはおもわなかった。 たしかに自分たちふたりは同年代の普通の男女とは違ってすでに独り立ちしている。親から養われていなくとも、棋士としての収入で一人暮らしできるほどとなった。 そんな二人が同棲をはじめるとしたということは、つまりはそういうことだと明子が思ってしまっても、それはしょうがないことなのかもしれない。 ( けど、結婚だなんて………。 ) アキラとの結婚が嫌とか、そういうことで驚いて焦ってしまったのではない。 ヒカルは、自分たちの関係が普通の恋人未満だからそういう反応をとってしまったのだ。 同棲することには成功したけれど、自分たちは未だに一度もセックスはもちろんのこと、 キスだってしたことはない。 そう、普通の恋人とは、まったく違う関係で自分たちは結ばれてしまっているようなものだ。 お互いに好き合っているということはわかっているのに、どうしてか一向に進むことのないこの清らかすぎる関係。 明子の結婚という言葉に、ヒカルは改めて自分たちの異常性に気付くのであった。 つづきます 2013/06/13 00:27 |
▼ ひみつのせいかつ2 ヒカルが言い終わる前に、アキラの言葉が遮った。 え、と声をもらしたヒカルの横を通り過ぎて、アキラは足を止めず自分の部屋まで向かっていく。追うようにヒカルが足を進みかけるが、自室のドアノブを握ったアキラがぱっと振り返ってヒカルを見つめた。 「おやすみ、進藤」 口元に笑みを浮かべて、そう言って部屋へと入ろうとするアキラに、ヒカルは伸ばしかけた手を戻してゆっくりと頷いた。 本当はヒカルは納得などしていなかったものの、アキラの態度にヒカルはどうしようもなくなってしまった。 ぱたん、と閉まっていくドアを見つめて、完全に閉まったのをみとめると、ヒカルもリビングの電気をつけたまま自分の部屋へと戻る。 ( ……今日も、失敗した………。 ) ヒカルは大きく溜息をついて、隣の部屋がある壁を見つめた。わずかに視界がぼやけて見えるのは、気のせいだと思いたい。 進藤ヒカル、十八歳、性別は女。日本棋院所属の、四段のプロ棋士である。 棋界でも注目の若手棋士であり、棋界のサラブレッド、塔矢アキラの自他共に認めるライバルである。 性格は自由奔放で、そのせいかトラブルメーカー。少年のような性格をした彼女も、いまや立派に女性として成り立っている。 そんな彼女はいま、ライバルであり恋人でもある塔矢アキラと同棲中であった。 2013/06/07 22:44 |
▼ ひみつのせいかつ1(R18/アキヒカ♀) 森下九段の研究会を終えて、和谷は引き留める間もなく帰ろうとする素振りを見せたヒカルを呼び止めた。 「進藤、今日、俺の家でこのあと研究会やるんだけど。お前も来る?」 伊角さんが中国で知り合った棋士から送ってきてもらったらしいやつなんだけど、と言いながら笑って話す和谷に、ヒカルは迷うようすを見せる。ううん、と首をかしげて眉をしかめて、随分迷うように唸ったあと、ごめん、と言った。 「行きたいけど……今日はやく帰んなきゃいけないんだ。もし良かったら…今度見せてくれるとうれしいんだけど」 申し訳なさそうにうかがうヒカルに、和谷は安心させるように笑った。 「しょうがねーから今度持ってきてやるよ。ていうか、どうせ一回くらいじゃ終わらないし次来ればいいじゃん」 「そうなんだけどなあ………」 ぽりぽりと頭を掻きながら、ヒカルは言いにくそうに苦笑いをした。 その表情に和谷も首をかしげる。 「? なんか用事でも入ってんの?」 「んー…別に用事っていうほどハッキリしたものじゃないんだけど…」 エレベーターの前に来た和谷はボタンを押そうと手を伸ばしたが、ちょうど4階ほどまであがってきているエレベーターがそのわずかな時間に6階に到着する。 ゆっくりと開いていくエレベーターから、ちょうど人が降りてくる。 その人物を視界に入れて、和谷はすこしだけ口元を引き攣らせた。 「塔矢…」 和谷が何かいうよりもはやく、ヒカルの方が先に口を開いた。 エレベーターから出てきたアキラを、不思議そうにヒカルはしばし見つめたあと、はっとしたように我に返って和谷を引っ張った。 じっと見つめるアキラに、慌ててエレベーターに和谷を引っ張り駆け込むヒカル。 そのようすを訝しげに和谷が見ている。 「どうしたんだよ、いきなり急いで」 「だって、ビックリしたから…」 ヒカルはふう、と深く息をつくと落ち着かないようすで目をきょろきょろと忙しなく動かす。 「塔矢がいたからか?」 「うん」 頷いたヒカルに、和谷はますます首をかしげたくなった。 ここは棋院なんだからアキラとすれ違うことがあるくらい当たり前だろう。 なにをそんなに不思議に思うのだろうか、と和谷はヒカルを見つめた。 「だってあいつ今日棋院に行く予定ないって言ったのに……」 ぼそりと聞き取れないくらいの声音でつぶやいたヒカルに、和谷は聞き返そうと口を開きかけたが、そこでエレベーターが1階へと到着する。 するりと降りて、ヒカルは振り向いた。 「じゃあ、和谷。棋譜のこと、よろしくな!」 先程の薄暗さはどこにいったのか。いつも通りのテンションで話しかけてきたヒカルに面食らいながら、和谷はぱちくりと瞳を丸くさせて頷いた。 「あ、ああ…」 和谷が再度話しかける前に、風のごとく走り去ったヒカルに、和谷は首をかしげながらも自分も研究会へと向かうため、自宅への帰路を急ぐのであった。 *** ガチャリと鍵穴に入り込んで回される音がする。 耳ざとくその音を聞きつけたヒカルが、リビングのソファでクッションを下敷きにしながら寝転がっているのから飛び上がるように起き上がった。 相手がリビングへと続くドアを開けるよりもはやく、ヒカルはドアを開けた。 「おかえり!」 勢いよく開けて大きな声でそう言ったヒカルに、アキラは驚いたように目を見張って、それでもヒカルだとわかると少しだけ口元緩めた。 「……ただいま」 わずかに恥ずかしそうに、耳朶を赤くしてアキラが言うと、ヒカルも同様に頬を赤く染めながら頷いた。 「う、うん……。おそ、かったな」 ごくり、とヒカルは大きく喉を鳴らした。 ぎゅっと握りしめた手は力を強くし過ぎて爪がくいこんでいそうだった。けれども、当の本人であるヒカルは気にもせずにしている。 緊張のあまりかいてしまった汗が、ヒカルの頬を伝う。 「今日さ、」 「ごめん。疲れてるから、もう寝るね」 2013/06/06 23:27 |