145:誕生日プレゼントの失敗した方

その後、屋敷に巣食う鼓の鬼を倒し清とてる子を連れ外に出れば、猪の皮を被った男が背負い箱を守る善逸を一方的に痛めつけていた。
今すぐにでも善逸ごと箱を刺しかねない状況に、怒りに突き動かされるままに止めに入れば、猪の皮を被った男……嘴平伊之助は、戦いの流れで繰り出した俺の頭突きに耐え切れず脳震盪で気絶。
伊之助が気絶した事によりその場は収まり、すぐに鬼の被害となった人達の埋葬を始め、途中目覚めた伊之助が協力してくれたおかげもあり、日が暮れる前には山を下れた。

そして、鴉に案内され連れて行かれたのは、藤の花の家紋の家だった。
鴉の話では、この藤の花の家紋の家は鬼狩りに命を救われた一族であり、鬼狩りであれば無償で尽くしてくれるそうだ。
話通りに家の主であるお婆さんは、医者の手配だけでなく寝床や食事、風呂の用意までしてくれた。狭霧山を出てから戦闘続きで前回の怪我も完治していない状態だったので、提供を有難く頂戴した。









「これ寄こせ!!!」

風呂後の食事の最中、吸い込む勢いで食べていた伊之助は、突然俺の煮物を鷲掴みそのまま口へと運んだ。そしてきょとんとする俺を見てにこにこと笑いながら、楽しそうに口角を上げた。

「食ってやったぜ」

伊之助の食べ方は育った環境のせいか随分と野性的だったが、頬にご飯粒を付けながら食事を頬張る姿を見ていると茂を思い出すなぁ、とあたたかい気持ちになった。

「そんなにお腹が空いているなら、これ全部食べていいぞ」

残りの煮物を器ごと差し出せば、伊之助はなぜか憤慨した様子を見せる。

「こんなに腹立ったのは、あの真っ白な女以来初めてだ!!」

それでも煮物は美味しかったのか、俺から急いで器を受け取り、また勢いよく食べ始める。その様子に、この煮物がそんなに好きなのか、また出たら伊之助にあげようと考えていると、善逸が何かを思い出した様子で話しかけてきた。

「……炭治郎、誰も聞かないから俺が聞くけどさ、鬼を連れているのはどういうことなんだ?」
「!!善逸……、分ってて庇ってくれたんだな……」

善逸は何も知らないはずなのに、鬼、を連れている俺を信じてくれた。それがどれだけ稀有な事か。

「善逸は本当にいい奴だな。ありがとう」

礼を伝えれば、善逸は照れたように床に倒れ子供のように両足をバタつかせた。

「おまっ!そんな褒めても何もでないぞ!うふふっ!」
「俺は鼻が効くんだ。最初から分かってたよ。善逸が優しいのも強いのも」
「いや強くねえよふざけんなよ。お前が正一君を連れて行くの邪魔したのは許してねえぞ」

善逸は身体を起こして真顔でそう言いのけた。その言葉は匂いからも分かるように、嘘も謙遜もなく本心のまま言っている。
けれど善逸が強いのは事実だ。善逸の刀からは鬼の血の匂いがしたから、鬼を倒したのは明確。強かったからこそ、最終選別も生き残れたのだろう。
なのに、なぜ、そう思い込んでいるのか。何か悲しい事情があるのだろうか、と戸惑っていると、禰豆子が今から出るよと合図をするように、扉を内側から押す音がした。

その音に善逸は大絶叫し押し入れに隠れようとした所で、禰豆子が顔を出した。

「………ん?」
「禰豆子」

呼びかければ、禰豆子は背負い箱の大きさから元の大きさに戻り、俺に向かって歩き始めた。ちょうどいいタイミングだと、禰豆子は俺の妹だと紹介しようとした途端、善逸は大声で叫びながら怒り狂い始めた。そして、その怒り声は禰豆子は妹だと伝えるまで止むことはなかった。



















それから12日後。骨折もあと2〜3日で完全に癒え、医者のお墨付きも貰えるだろう2月4日の宵の頃。

「禰豆子ちゃん。今日は花水木だよ!禰豆子ちゃんにぴったりで可愛い花だね」

善逸はどこから摘んでくるのか分からないが、あれから毎夜禰豆子に花を贈っていた。

「禰豆子ちゃん、俺ね。禰豆子ちゃんを見た時ビビッと来たんだ。俺達どこかで会ったことがあるような気がするって。きっと俺達は前世でも夫婦だったんだね」

禰豆子も花を見ると桜さんを思い出すのか、どこか懐かしそうに、嬉しそうに花を眺めている。
その様子を微笑ましく思いながら、懐から桜さんから誕生日に貰った和紙に書かれた絵画を取り出し眺めた。
絵の中では、父さんや母さん、俺に、禰豆子、竹雄、花子、茂、六太、そして桜さんが花に囲まれながら笑っている。桜さんにこれを貰った時のやり取りを思いだしながら、哀愁と幸せを思い出していると、禰豆子が俺の膝に頭をのせて甘えるようにすり寄ってきた。そして、和紙の裏側に描かれたさくらの絵の落書きを指でなぞるように触り始める。

「どうしたんだ?禰豆子?」

禰豆子の頭を撫でれば、嬉しそうに目を細めた。

「炭治郎なに見てんの?」

禰豆子が移動すると善逸も一緒に移動する。最近夜によく見かける光景通りに、善逸は俺の隣に座り、禰豆子を見て頬を緩ませている。

「これか?これは俺の家族だ」

そう言って善逸にも見えるように、和紙を横に動かす。

「家族?へ〜どれどれ、…………。……………あれ」

そして、善逸の次の言葉が衝撃となり、全身を貫いた。

「…これ、桜ちゃん…?」
「!!!」
「……あっ!?あーーーー!!!!お前、桜ちゃんが話してた炭治郎君と禰豆子ちゃんか!!!!!」


関連話 41114


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