41:生まれてきてくれてありがとう

「まず、心配かけて本当にごめんなさい」

本当はサプライズをしたかったけど、こんな状況になってしまったので、ちゃんと説明しようと覚悟を決める。

「黙って一人で出ていったのはね、内緒で炭治郎君の誕生日をお祝いする準備をしたかったからなの」
「誕生日…」

炭治郎君は微妙な反応を返した。誕生日だからなに?それがどうしたの?と言いたげな表情をしている。この反応は竈門家の皆もそうだった。
大正時代(ここ)は誕生日にお祝いをする風習がまだ根付いていなかった。葵枝さんに聞くと、十年程前に、生まれた日に歳をとりましょー。って法律が出来たけれど、一部の都市以外は普及はしておらず、一般的には昔からの、生まれた日関係なくお正月に一斉に歳をとる。という、数え年の名残が強く残っており、法律的に生まれた日に歳はとるけれど、お正月にお祝いするスタイルがまだまだ主流なのだとか。

今思えば今年のお正月、皆が妙におめでとうって連呼していたり、お正月前に炭治郎君がお正月に皆に少しでも食べさせてあげたいと言っていたのは、誕生日的な意味合いも含まれていたんだろう。だからこそ、禰豆子ちゃんもなんとなくの話題として、炭治郎君の誕生日の話をふった。


けどそれって凄く、すごく

「もったいないよ…」

お日さまみたいに優しくあたたかい炭治郎君や皆の誕生日を祝えないなんて!

「あのね、誕生日ってすっごく大事な日なの。大切なその人が生まれてきてくれた日なんだよ?感謝する日なの、祝う日なの。ってことでちょっと後ろ向いていて!」
「わっ」

炭治郎君の両肩を掴み無理矢理後ろに向かせる。当初の計画とはだいぶずれてしまったけれど、この勢いに任せて今からプチハッピーバースデーを実行します。

大人しく後ろを向いてくれている炭治郎君を確認してから、自身の後ろにあった籠から、禰豆子ちゃんがくれた巾着を取り出す。中には片手で握れる程の花の種達。
次に誕生日プレゼントとして作成したモノをとりだす。二つの内一つ目は失敗作なので、二つ目を準備して、炭治郎君の肩をちょんちょんとつつき、もういーよー、と一言。炭治郎君が振り向いた瞬間。


「炭治郎君、13歳の誕生日おめでとう」

言葉と共に幸せをイメージし開花させた花を炭治郎君の上に投げる。簡易的なフラワーシャワーだ。カスミソウやベルフラワー、エーデルワイス、黄色のパンジー、デイジー、ムラサキツユクサ等、色とりどりの可愛らし花達に込めた今の私の気持ち。
フラワーシャワーが終えた時に、炭治郎君に四つ折りにたたまれた一枚の和紙を渡す。

「はい!私からのプレゼント」

和紙に描かれているものを見て、炭治郎君は微かに目を見開いた。


私が炭治郎君に渡したのは、柔らかな和紙に優しい水彩で描かれた、幸せそうに笑う竈門家の家族絵。


炭治郎君の誕生日プレゼントは随分と悩んだ。皆に炭治郎君が欲しがっている物はないか聞いてみたけど、物欲のない炭治郎君が今欲しい物は特にないらしく、私からのプレゼントなら何でも喜ぶと思うよ。と言うありきたりな回答しか得られなかった。

ノーヒントで考える中、着物?沢山のご馳走?何が一番喜ぶかなって、迷いに迷って。もう一度原点に還えって考えだした時に、ある一つの事を思い出した。

私が竈門家で初めて目覚めた後、炭治郎君が家族を紹介してくれた時に見せた、あの笑顔。その時に《炭治郎君の幸せは、家族の幸せなのだろう》と感じた事を。


「炭治郎君何が一番喜んでくれるかなーって考えて、考えて、家族のイラストにしてみました!」

絵の中には炭治郎君達のお父さん、炭十郎さんもいる。葵枝さんが昔絵師さんに描いてもらったと、炭十郎さんの絵画を見せてくれた事があったので、それを参考にしてみた。


元々、絵描きには少しだけ自信があったし、皆に未来のアニメやゲーム、漫画の話をする時に、沢山のイラストを描きながら説明をしていたので、こっちに来てから更に上達したと思われる。
自分でも、そこそこの出来映えなんじゃないかと、自信を持てる一品だ。

「炭治郎君」

和紙を持つ炭治郎君の手を両手で握るように重ねる。
実際に面と向かってこの台詞を口にする人ってちょっと恥ずかしい人だよね、私は言えないな。と思っていた言葉を口にする。

「炭治郎君、生まれてきてくれてありがとう。私、炭治郎君と出会えて本当に良かった」

伝えてみて始めてわかった。この台詞を実際に言ってた人達は、本気で言ってたんだと。心から思わなきゃこの言葉は出てこない。
知り合いや顔見知りに、社交辞令として使う誕生日おめでとう!って言葉より、何倍も何百倍も心を込めた。

炭治郎君は一度瞼を閉じてから、ゆっくりと目を開き、春のお日さまみたいに笑った。

「ありがとうございます…」

和紙を再確認するように、握る手に力を込めている。

「大切にします。ずっと」


炭治郎君のほわほわした雰囲気に嬉しくなり調子にのって、もうこの際だから言っちゃうけど、今日のご飯期待しててね!と、腕をまくりウィンクをした。
楽しみにしてます。とかえす炭治郎君と二人で、ほわほわうふうふにこにこ、していると、あるモノが視界の端に移り、笑顔のままピシリと固まる。
それは、炭治郎君が手に持つ和紙の裏に適当な線で描かれたサクラの絵。それは《二枚目の絵画を描く時に、一枚目の裏に》描いた落書きだった。

(え、てことは……)

急いで籠の中を確認して、もう一枚の和紙をひっぱり出す。自身の手元には、本来渡すはずの二枚目の絵。イコール、炭治郎君の手には、ドン引きされたら立ち直れないと書き直した失敗作が…。


一瞬で全身が紅潮し、羞恥心で染まった。


「た、炭治郎さんやい…」
「急にどうしたんですか?」
「あ、あのね、平和ほのぼの〜。として終わりたかったんだけど、そ、それ間違えて、違う方、失敗作渡しちゃったの…」

震える手で、和紙を指差す。

「どこがですか?失敗作には見えませんが?」

和紙を色んな角度から見て確認する炭治郎君。

「ひ〜待って、待って。あの、今すぐそのイラストの記憶は消して、こっちのと速やかに交換してください」
「何が違うんですか?」
「あっ」

炭治郎君から一枚目の失敗作である絵を貰ってから二枚目を渡すつもりが、?マークを出す炭治郎君に二枚目を先に取られてしまった。

炭治郎君は二つの和紙を無言で見比べている。恥ずかしさで震える手を差し出す。

「ね…?か、かえして、間違えた方、かえして」
「はい、返します」

返された和紙は、本来渡すはずの二枚目の方。失敗作はまだ炭治郎君の手にあった。

「ち、がうよ?たんじろーくん、逆だよ逆」
「違いません!」

むん!とした表情の炭治郎君。あ、これは自分の考えを絶対に譲らない時の、頑固炭治郎君の時の顔だ。
なら奪うのみ!と炭治郎君の手元から、失敗作を奪おうとするが、炭治郎君は手を空中に上げ避けた。何度も奪おうとするけど、その度に炭治郎君は表情を曲げずに、器用にひょいひょいと避ける。
まるで、仔猫が飛ぶ蝶々を必死に捕まえようとするけど捕まえられない、みたいに。

「………引いてない?」
「引いてないです」
「ほんとに?」
「本当です」
「調子にのってるわ〜この女って思った?」
「思ってないです」
「だって…。だって、そっちは…」

一枚目の失敗作には、竈門家の皆の中に私まで入ってるんだよ…。
私を描かないと逆に気を使わせるかな〜とか変に考えて、とりあえず試しに自分を入れて描いてみたら、《私自身がすごく幸せな気持ちになっちゃって》。調子にのって、つい最後まで描いてしまった。けど、完成した絵をみて、急に恥ずかしくなって、「え、なにしれっと自分まで入れてるの?貴女は家族ですか?」って引かれたら、二度と立ち直れないと思って書き直した二枚目は、ちゃんと私を抜かした、竈門家だけの絵。炭治郎君へのプレゼントだから、私が幸せを感じても意味ないと思ったから、1枚目は失敗作としたのに、


「こっちがいいです」

炭治郎君は、1枚目の失敗作を掲げ、少年らしく爽やかに笑った。

「……本当にいいの?そっちで」
「はい。こっちがいいです」
「…………ん」

ありがとうと小さく呟くと、こちらこそと返ってきた。
炭治郎君の選択が嬉しくて、少しだけ目に涙がにじんだ。





※大正コソコソ噂話※
しつこいようですが、三郎さんは空気の読める、スーパーお爺さんなので、町にでかけています。実は途中で一度帰ってきていますが、花に囲まれてほわほわしてる二人を見て、また町に出掛けていきました。ぶっきらぼうなわりに空気の読めるスーパーお爺さんなので。

夢主がかいた絵のイメージは、アニメ19話の特殊エンディングに出てきた、竈門家集合のイラストのやつです。皆笑っていて、竈門家+αを囲むように花の絵がかかれています。ワイルドストロベリー(幸せな家庭)とピンクのバーベナ(家族の絆)です。


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