144:歯車が廻り始める

「男にこんな事言うの気持ち悪いんだけどさ。最終選別の時から思ってたんだけど、お前どっかで会った事がある気がするんだよな」



次の任務に向かう途中、道端で「結婚してくれ」と泣き叫んで大騒ぎをしている、同じ鬼殺隊の我妻善逸と出会った。迷惑そうにする女性を哀れに思って帰せば、善逸は「責任とって俺を守れよ」とキレたり、「自分は弱いから死ぬ」と自身満々に宣言したり、「探しに行きたいけど、怖いんだよ」と変な体制で自分語りを始めたかと思えば、甲高い奇声を発して過呼吸気味になったり…。たった数分の間で、荒波のようないくつもの感情を早口でぶつけてきた。
これは喜怒哀楽が激しいというよりも、情緒不安定ではないだろうか…。と流石に心配になり、少しでも気が安らげばとおにぎりを渡せば、腹が満たされたお蔭か落ち着いた様子を見せた。


そして、ぽつりと呟かれた「俺と会った事がある気がする」発言。善逸を見れば、記憶を遡るように右上を見ながら「男にはこれっっっっぽちも興味ない。でもなぁ」と不思議そうにしていた。

「善逸とは今日初めて会ったぞ?」
「いやっ!だから最終選別でも会っただろうが!本当、お前の記憶力どうなってるんだよ?!」
「す、すまない。あの時は回りを見る余裕があまり無かったんだ」

手鬼からあの人を助けれなかった事への心苦しさ、花子と同じ年頃の案内役の女の子に手を上げようとした人への牽制、そして激しい疲労感。これらが重なり、視野が狭くなっていたのは否めない。
でも今場面を思い返せば、ぼそぼそと独り言を言っていた善逸は居た気がする。と続けて話せば、言い訳を感じたのか善逸は突っ込みを入れるように、過剰に反応を示した。

「いや、日常の中でならまだしも、最終選別の生き残りくらい、しかっりと覚えろよ!俺だって、もしかしたら居るかもしれないって探し回ってて、他の奴らなんて見る余裕なかったけど、それでも俺はお前の事も他の奴らも覚えてたからね?覚えてたからね?!」

興奮し出す善逸を落ち着かせていれば、鎹烏が早く行けと急かし始めたので、話を一旦やめ任務へと急いだ。















しばらく走った先に、その屋敷はあった。森の奥にひっそりと佇む姿は、良く言えば風情ある隠れ家のようだ。二階建ての家屋は、玄関や窓が数か所開けっぱなしになっており、そこから外へと逃げ出すように血の匂いが漏れ出ている。

「血の匂いがするな…、でもこの匂いは」
「え、何か匂いする?」

複数あるだろう血の匂いの中で、一際主張の強い血の匂いがあった。それは今まで嗅いだ事のない匂いだったけれど、少しだけ……桜さんの血の匂いと似ていた。

思わぬところで桜さんを思い出し、哀愁が胸を突き刺した。
桜さんの名前を心の中で想い浮かべるだけで、会いたくてどうしようもない激情が胸を焦がし、心拍を乱す。けれど同時に、花のような笑顔はいつだって色褪せる事なく心の中で咲き続け、俺を幸せで満たした。

「それより何か音しないか?」

この2年間一度も忘れた事のない桜さんへ想い馳せていると、善逸が聞き耳を立てながら、同意を求めるように確認をしてきた。耽ている場合ではなかったと、すぐに気を持ち直し答える。

「音?」

気になる音は特段しないがと耳を澄ましていると、視界の端に二つの人影が見えた。
それは、木々の隙間で怯え抱き合う、二人の兄妹だった。




※大正コソコソ噂話※

九十九折と再会ノ章のイメージソングはKalafinaの満天です。

時系列厨なので、炭治郎の行動時系列載せておきます。もちろん全部捏造です。でも原作とにらめっこしながら捏造しました。
1913年12月10日:竈門家と桜(17歳)亡くなる。
1913年12月12日:炭治郎(13歳)と禰豆子(11歳)、狭霧山に向けて出発。西の道へ。
1913年12月18日:鱗滝さんと出会い共に狭霧山に到着。(日数がかかっているのは最初の頃昼間は移動しなかったから)
1915年12月25日:炭治郎(15歳)最終選別開始。
1916年1月1日:夜明けに合格。
1916年1月15日:日輪刀届く。
1916年1月16日:狭霧山バイバイ。初任務に向かう。
1916年1月17日:きえた少女の町に着く。
1916年1月18日:沼の鬼倒す。浅草に向けて出発。
1916年1月20日:浅草に到着。無惨、珠世、愈史郎に出会う。
1916年1月23日:善逸(16歳)に出会う。今ここ。桜失踪?したのは1915年8月下旬。


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