97:1本の赤い薔薇の意味は
80話・
81話の炭治郎側の話。原作1話のお話です。
早めに帰ろう。そう思っていたのに、皿を割った犯人探しや荷物を運びを手伝ったりと頼まれごとに対応していたら、予定よりも何時間も遅くなってしまった。店も閉まる直前の時間帯で、空になった竹籠を背負ったまま色んな店を回るが、中々心に響くものがなく、焦り始めてくる。
「炭治郎ちゃん!桜ちゃんに贈り物するんだって?頑張りなよ!」
次の店に向って足早に歩いていると、セツカイさんに声をかけられ思わず立ち止まる。
「な!な、なんで知ってるんですか」
「噂好きのウサワさんに漏らしたのが運の尽きだね!もう町のみんな知ってるんじゃないかい?」
大声で笑うセツカイさん。周りを見ると、何人かが生暖かい視線と面白がっているような声援を俺に送る。別に恥ずかしいことではないのだけれど、胸あたりがむず痒くなり、顔が少しだけ火照る。
「贈り物は決まったのかい?」
困ったように首を振れば、お節介おばちゃんを自称するセツカイさんは、ウインクを一つ飛ばした。
「女の子はね、櫛や首飾りなんかの装飾品もらったらイチコロよ」
装飾品……。そういえば、桜さんは装飾品を一つももっていない。お洒落が好きで、未来では色んな装飾品や服飾持っていたと言っていたが、今は、お古の着物に母さんが作った脚絆のみだ。
(桜さんが初めて持つ装飾品が、俺からの贈り物…)
そう考えるとなぜだか、気分が高揚した。
「ソメ婆さんの娘さんの店にいってごらんよ!こないだいい物仕入れたって言ってたよ」
「ありがとうございます!」
「さっ!急いだ急いだ!店終い前にいっといで!」
頭を下げてお礼をすれば、「お礼なんかいいからさっさと行きな!」とお尻を強く叩かれ、前のめりで駆け出した。
店に入ると、装飾品に明るくない俺から見ても綺麗だなと思えるガラス細工がいくつか並んでいた。
それぞれ色や形が異なり、まさに、職人こだわりの一点物、といった雰囲気だ。その中で、一目で強く惹かれた物を手に取る。
それは、赤い薔薇の首飾り。
「いいんじゃないかい?同じ色でサ」
この店の店主である、ソメ婆さんの娘さん、コソメさんがカウンターに肘をついたまま話しかけてきた。
(同じ色?)
「桜ちゃんにあげるんだろ?」
「なんで、お店にいたはずのコソメさんが知ってるんだ…」
「そりゃーウサワさんが来たからサ」
本当に町中に知れ渡っていそうだと、ガクリと肩を落とす。
「それよりも、同じ赤色なら、そっちとあっちとむこうの3つもあるけど、どうだい?」
コソメさんが目配りした方向には、同じ赤色で何かの花の形と、星と月、雫の3つがあった。確かに、どれも綺麗で喜んでくれそうだったが、手に持つ薔薇をコソメさんの前に置く。
「これにします」
「薔薇に何かこだわりでもあるのかい?」
「いえ、なんとな……」
くです、と言いかけて、昨日の禰豆子の台詞が頭を過ぎ去った。
《101本の赤い薔薇と7本の白い薔薇の中から指輪を取り出して〜》
「そ、そんなつもりはなくて!!」
「どこに向かって喋ってんのサ?」
「赤い薔薇1本送る時の意味って知ってるかい?」
コソメさんは、包装された赤い薔薇の首飾りを手渡す時に、軽い世間話のように問いかけてきた。分からなかったので素直に首を横にふる。
「知らないのかい?じゃあ、これはガラスだけど、花のつもりで貴女に贈ります。って渡す時に言ってごらんよ。きっと桜ちゃん大喜びするよ」
どんな意味があるのか何度聞いても教えてくれず、コソメさんはただ楽しそうに笑っていた。
※大正コソコソ噂話※
あなたしかいない。運命の人。