80:熊

「…熊、じゃなかったんですか?」

深刻そうな禰豆子ちゃんと葵枝さんに、重苦しい雰囲気で、はい…、と肯定し話を続けた。出かける前の炭治郎君との会話で勘違いに気付き、もしかしたらまだあの男がどこかで生きていて、また誰かを襲っているのではないかと不安になった事。炭治郎君と共に町に行き、警察に説明に行こうと思っていた事を説明した。

禰豆子ちゃんと葵枝さんは、知る限りの事を一から説明してくれた。
私が襲われる一月〜二月程前から、東の町で数人が朝、死体として発見される事件が続いていた。その被害者には必ず大きな牙と爪による殺傷痕、身体の一部が喰べられていた事から、冬眠できなかった熊の仕業だと考えられた。実際、私の傷も同じものだったらしく、同じ事件の被害者だろうと嵯峨山さんが判断したそうだ。禰豆子ちゃん達も、まだお父さんの炭十郎さんが御存命の頃に、「東の町で六人を喰い殺した九尺の熊が、竈門家の家近くまで来て、炭十郎さんが退治した事があった」ので、これと似たような事件だと疑いもせず、また熊か。と決めつけてしまったのだと。

「一度、炭治郎が戻ってきてからお話をしましょう。私達も嵯峨山さんの話は炭治郎からしか聞いてないのよ」
「お兄ちゃんや嵯峨山さんしかその現場を知らない。まだ何か思い違いがあるかもしれないです。お兄ちゃんと嵯峨山さんに話を聞いてから、警察に行った方がいいと思います」
「桜さんもまたいつ倒れるかもわからないわ。今日はしっかり休んで、明日に備えましょう」
「そうですね…。焦りのあまり、ちゃんと確認しないで行動するところでした。ごめんなさい」

冷静になれましたありがとうございますと頭を下げれば、二人は早く行動しなきゃと焦る気持ちはわかるわとフォローしてくれた。

「でも、桜さんを襲ったっていう、男の人……なんだか化け物みたいですね…」
「私もそう思った。歯も尖ってたし。爪による傷は……。多分鉤爪みたいな武器を持っていたと思うんだよね。私も背中を鋭いモノで切り付けられたから、なんとなくわかる」

流石に、人間の爪はあそこまで鋭くなれない。確認は出来るような暇はなかったけど、おそらく鉤爪なのだろう。もし爪だとしたら、それこそ化け物だ。

「それに、私以外の被害者の方は一部食べられてたんでしょ?猟奇的だね…」

私も、もしかしたら食べられていたのかもしれない。そう考えるとゾッとし背筋が震えた。

「私、その化け物の男、絶対に許せないです」

禰豆子ちゃんも、私と同じ考えに行きついたのか、嫌悪感を剥き出しに怒っている。私のために怒ってくれる姿が炭治郎君と重なり、本当に似た者兄妹だなとしみじみと思った。



一先ずは炭治郎君の帰りを待とうとの話で纏まり、私はそのまま家にいる事にした。


戻ル


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