羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

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 伊勢原を上っ面でしか見ていない奴らは伊勢原のことを犬のようだと言う。確かにそういう面もあると俺も認めている。けれど。
 こういうときの伊勢原は、けっして人に飼いならされてはいない獣のような目で俺を見るのだ。
「せんぱい……ん、」
 獰猛な肉食獣のように俺の唇を貪る伊勢原のこの表情を、一体どれだけの人間が知っているだろうか。こんな、喰らいつくしてやろう、みたいな表情。
 なんとなくそうしたくなって、そいつの舌に軽く歯を立てると、喉の奥でそいつが笑った。
「――意地悪なせんぱい」
「こういうときは先輩って呼ぶのやめろって言わなかったっけ?」
「じゃあ礼司さんもオレのこと名前で呼んでくださいね」
 聞き分けがよく、素直で、なおかつ自分の要求も抜かりなく通そうとしてくる。ああまったく本当に、お前は仕事ができる奴だよ。
「っん、お前、がっつきすぎ……」
「え! すみません」
 鎖骨の辺りに唇を落としてくる伊勢原の……いや、透の髪を少しだけ引っ張ると、途端にへにゃっと笑うそいつ。この切り替えははたして無意識なのかなんなのか、いつも不思議に思う。
「先輩」
「だから先輩はヤメロ」
「あっそうでした。……礼司さん」
 オレは自分の付き合いづらさやとっつきにくさを自覚しているけれど、こいつは構わず俺に懐いてくるのでほんの少しむず痒い気持ちになる。そんな感情を誤魔化したくて、透のシャツを引き寄せてキスをした。
「礼司さんは下から見上げたときが一番きれい」
「んぁ、んん、何寝惚けたこと言ってんの、お前……」
 ボケたつもりはないんですけど、とそいつは苦笑しながら俺の中を探ってくる。手つきは優しくて、時折戯れのようにキスマークをつけつつ尚も手は休めないという器用さにほんの少しだけ嫉妬した。
「っゃ、んぅ」
「きもちいいですか?」
「きもちっ、いいから、……っはやくすれば」
 ちゅ、ちゅ、とリップ音が必要以上に大きく聞こえて声が出そうになる。咄嗟に唇を噛むとなだめるようなキスをされて、なんだか自分のしていることが幼稚に思えてしまう。
「ひっ……ぅ、んん、ぁ」
「礼司さんのここ、どんどんあったかくなってる」
「言うっ、な、ばかっ、ゃ、ぁあ」
 中の、前立腺を指先で撫でるように刺激されて声が我慢できない。呑み込めなかった唾液が顎を伝って首筋まで流れる、そんなことにすら感じた。
「っぁ、あ、や」
 やだ、と言ったつもりだったのに途中で口を塞がれて、喘ぎ声までそいつに奪われる。快感に喉奥が絞られるような感覚だった。俺の意識とは関係なく太腿の内側が震えて、こんなにも体は素直なのにともどかしい。
「っはぁ、ぁ……っひぁ、ぁああう、っも、きもちい」
「もうちょっとしたら俺のことも気持ちよくしてくださいね」
「ぁっ! ひぅ、んゃああぁ……」
 弱味はなるべく見せたくない、と思う。たとえ透が相手でも。こっちが年上だし、ただでさえ女役ということで威厳も何も無いだろうから。
 それにしても。見上げたときが一番きれい、だなんて、こいつの中でどんなイメージなんだ俺は。そんなに偉そうにしてるように見えるのだろうか。
 つい強がってしまう俺も悪いのだろうけど。
「とおる」
 自分の息があがっているのが分かる。興奮している。体が、自分ではどうしようもないくらい熱くなっていって、誰かの体温が近くにあることに安心してしまう。
「とおるっ……、待て」
 俺の中は十分にほぐされて柔らかくなっている。けれど、俺は挿入しようとしていた透を止めた。首を傾げながらも素直に動きを止める透の体を押して、自分の上体を起こす。
 透の体に跨ると、透は驚きましたって表情で俺を見上げる。
「どうしたんですか」
「……お前は、動いちゃダメ」
「えっ」
 透のゆるく勃ち上がったチンコを少し強めに扱く。耐えるような「雄」の顔にますます興奮した。伸ばされた手をぺちりとはたくと不満げな顔をされる。
「っは、ん、……挿れるけど、動くなよ」
 先端を少しだけ呑み込んだ状態で一旦止まる。穴がひくひくして、自分の体がこいつを欲しがっていることがよく分かった。
「なんなんすかぁもう……っ礼司さん、俺」
「俺の言うこと、聞けねえの?」
 鼻の頭にキスをひとつ落としてやると、透は「ずるいですよ」と拗ねたように唇を尖らせる。
 ゆっくりと体の中に透のチンコを収めていく。体内を割り開かれる感覚は未だに慣れない。透の肩に手を置いて体を支えていると、そいつの気持ちよさそうな表情がよく見えて嬉しくなった。
「っは……やっぱ礼司さんは、きれいですよ」
「存分に見上げてれば? 好きなんだろ、お前」
 腰を落としきった瞬間、いいところを掠めて一瞬だけ腰が引けた。ゆるやかに動くと、透が物欲しそうにこちらを見てくるのにぞくりとした。
「んぅっ、んん、は、ぁぁん」
「っ、れいじ、さん」
「も、っと、ちゃんと……っ俺のこと、見て」
「見てますよッ……」
 必死な顔をして、動きたいだろうに俺の言うことだからと好きにさせてくれる透はとても優しい。こっちが不安になってしまうくらいに優しい。こいつが優しすぎて、俺みたいな人間は調子に乗ってしまう。なんて、ほら、また自分の行動をこいつのせいにしようとしているのだ。
「んっ、んっ、んんっ……」
「っぅあ、……っ」
「っお前、声っ……がまんしてんじゃ、ねーよ、っぁ、俺には、声出せとかっ、言うくせに……っぁん、ゃ」
 チンコを締めつけてやると透の慌てたような声。いい気味だ。俺だって、自分だけじゃなくてちゃんとお前も気持ちよくなってるか、気になるんだよ。

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